火車轟②
改稿版
-ブレイン聖国・火車自室-
「あぁ、イラつくぜ!」
火車は椅子を蹴り飛ばした。
「火車様、そのような乱暴な振舞いは、お控え願います。」
お世話係のユノが震えながら、諫める。
「あぁ?てめぇは黙ってろよ。」
「申し訳ありません。火車様。どうかその情熱は、私ケイトにぶつけてください。」
ユノに手を挙げようとした火車をケイトが止めに入る。
「足らねぇよ!もっとだ、もっと女を連れてこい!」
火車は現状に不満があった。毎日、訓練場での修練。たまに外に出れば、吹けば飛ぶようなモンスターの討伐。
その苛烈な性格ゆえに、戦闘では連携などお構いなしに魔法を放ち、勝手な行動ばかりではあるが、その使用頻度のためか魔力や魔法の威力は氷坂や霧島の大きく超えるものとなる。
聖王国内でも魔法に関しては、彼と肩を並べる者は多くない。近接戦闘においては、天性の勘の良さと、運動神経で距離感を見失わず、才覚を見せている。
そのために彼を諫めるものが少なくなっていた。
-枢機卿・屋敷-
「枢機卿、火車轟に関してですが、周囲の者たちから不満が出ております。」
火車に関する相談で、騎士団長が屋敷を訪ねる。
「ふむ、、、あの者は少し性格に問題があるようだな。」
セイルもため息を落とす。
「現在は修道女や村の女どもを彼の元に置き、不満を解消できていますが、際限がありません。」
「他の勇者はどうか?」
「剣崎ほか二名は、地道な訓練に励んでいます。」
「火車のみ遠征に行かせてみるか。」
「よろしいので?まだ実力は至王級ですが、、、」
「かまわん。もし火車を失う事があっても、周囲の者は厄介払いが出来たと喜ぶであろう。生き残り、至帝級やさらにその上に昇るようであれば、こちらも訓練の手間が省ける。」
「では、聖国の北東に向かわせましょう。」
「魔王国との国境だな。あそこは均衡地帯であったな。火車だけでどうにかなるとは思わんが、せいぜい働いてもらうとしよう。」
-大聖堂・謁見の間-
「火車殿、そなたの望みを聞き入れよとの猊下からのお言葉である。」
「やっとかよ。で、俺はどこで暴れりゃいいんだ?」
彼の不遜な態度は変わらない。
「聖国北東部に向かっていただきたい。」
「そこで暴れてもいいんだな?」
「そこには北方の国より襲撃を受け続け、被害を被っている村がある。国境付近ゆえ、大変危険な地域となるが、助力いただけるか?」
「そんなことは、どうでもいいんだよ。俺が行って、全員焼いてやるよ。」
「それは心強い。では勇者殿、村をお守りください。ただし、敵国は強大です。敵地に乗り込む事だけはおやめくだされ。」
「知るか!俺は行くからな!ちゃんと準備しとけよ!」
火車は言葉を吐き捨てると、謁見の間を出ていった。
「セイル卿もお人が悪い。」
「何を言うか。勇者殿に精一杯の協力をするだけではないか。」
「あの者に、”敵地に乗り込むな”と釘を刺せば、その結果は明白ではありませんか。」
「それは聖国の預かりしるところではない。奴につける護衛は、冒険者から選抜せよ。ブレイン聖国の者は誰一人として、編成するでないぞ。」
「かしこまりました。」
-聖都・入場門前-
「轟、本当に行くのか?」
「あぁ?てめぇはまだ俺になんかあるのか?ビビッてんなら、いつまでも素振りしてろや!」
火車を心配して、剣崎が見送りに来ていた。
「僕は僕なりに頑張るよ。君がどう思っていようが、同郷の仲間だと思っている。必ず生きて帰ってきて欲しい。」
「はっ、てめぇらなんぞ、仲間でも何でもねえよ。俺が全部燃やしてきてやるよ。うぜぇから、早く消えろ!」
火車は馬車に乗り込んだ。冒険者数十名を率いて、彼は北に向かった。
-火車・野営地-
「今回の依頼は勇者の護衛だとよ。道中での態度を見ると、護衛対象としては相応しくないな。」
冒険者たちが焚火を囲い、談話中である。
「依頼は依頼だ。勇者の護衛と目的地である村の援助。長旅ではあるが、それで金貨10枚だぞ。それだけで一年は食うに困らない。」
「国からの依頼だから飛びついたが、これは貧乏くじ引いたかな。」
「あの聖国が太っ腹なのは気になるが、あまりに長期なるようなら、追加で報酬も支払われるんだ。こんなにおいしい依頼もないさ。」
「ただのお守りだったら、楽なんだけどな。今も勇者殿は、連れてきた女どもと天幕でお楽しみ中だ。俺にも一人分けてくれねぇかな。」
「思うところはあるが、俺たちはしっかり依頼をこなして、無事にギルドへ報告に行こうじゃないか。」
「へいへい。お前はいつも真面目だよな。」
冒険者護衛のもと、火車は順調に旅を進めていた。
道中、数回のモンスターとの戦闘が発生したが、火車の火力と冒険者たちの奮闘で難なく終わる。
「勇者の火力、見たかよ。」
火車の火力を目の当たりにした冒険者たちが、彼について話している。
「あれはハイクラス程度の力はあるな。」
「さすが勇者様ってところかね?あんな威力の魔法を連発できるとかバケモンだろ。」
「俺も魔法は使うが牽制程度だからな。何か特別なスキルを持っているのだろうな。」
「ほら、無駄口叩いてないで、さっさと歩け!」
リーダーらしき冒険者に怒られた。
-聖国北東の村-
火車一行が村に到着すると、村民たちが出迎えてくれる。
「この村の村長を務めております。この度はこのような村にお越しくださり、大変感謝しております。」
火車は馬車から降りようともせず、冒険者が対応する。
「すまない。勇者殿は長旅でお疲れたみたいだ。代理で俺が対応させてもらおう。」
「いえいえ、本来であるならば、このような村は、時間稼ぎ程度に扱われると言うのに、勇者様が来てくださっただけで、村の者は大変喜んでおります。」
馬車は村の一番大きな家の前で停まる。
「本日よりここで生活してくだされ、世話係もあとで挨拶させますので、その際はよろしくお願い申し上げます。」
冒険者は、馬車をノックして、様子を窺う。
「大将、到着ですぜ。」
馬車の中からは女の喘ぎ声のようなものが聞こえてくる。
「いつまでやってんだか、、、大将!到着しましたぜ!」
少し声を大きくすると、ドアは勢いよく開いた。
「聞こえてんだよ。」
馬車からは欲望の限りを尽くした臭気が漏れ出している。
火車は家のドアを乱暴に開き、中に入っていった。
「お嬢ちゃん、大将が行っちまったぜ。」
馬車の女が気が付くと、着の身着のまま家の中に駆け込んだ。
その夜、火車の世話のために訪れた村の娘やご婦人たちが宿舎に集まったが、その光景は言葉にするのも憚れるほどのものだった。
宿舎の外では、悲しみにくれる男たちが集まっていた。
「我慢じゃ。これもこの村を救うためじゃ。皆には辛い選択をさせてしまった。」
村長が村の男たちを一生懸命に慰めている。
「冒険者さん、うちの娘は、、、うちの娘は、、、」
涙ながらに訴える村人に、冒険者は頭を抱える。冒険者の仕事は、道中の護衛と村の防衛支援だ。それ以外の雑事に首を突っ込むべきかどうかは個人の裁量によるが、普通の冒険者ならば、必要以上の仕事はしない。
「おっちゃん、すまん。こればっかりは俺たちの範疇を超えちまってる。それにあの勇者とやりあって、勝てる気もしねえんだわ。」
冒険者も命あっての稼業である。冷たく聞こえるかもしれないが、この世界のルールでもある。
「うぅぅぅ。」
村人は崩れ落ち、ただその終わりを待つしかなかった。
翌日、勇者一行は国境沿いに向かう。
「大将、ここまで行くなら、俺たちは依頼外だ。」
「最初から、てめえらなんぞに頼んでねぇよ。帰るなら、さっさと帰れ。」
それを聞いて、冒険者たちは村に残った。火車は女性を全員連れて行こうとしたが、冒険者と村人たちに懇願され、村の女性たちは残していった。
「くそがよ。ビビってんじゃねぇぞ。」
火車は女どもを連れて、国境沿いに向かう。
「おら、遅れてんじゃねぇぞ!」
女性たちの中に御者が出来る者がいないため、徒歩で国境に向かっているのだが、その荷物は女性に持たせている。
「てめぇらは、俺に守られるしか能ねぇんだ、荷物持ちくらいちゃんとやれや!。」
無理な話だった。普段から力仕事をしていない彼女たちに、屈強な男たちの真似事をしろというのは酷な話である。
だが、火車はそんな事情などお構いなしだ。少しでも遅れると罵声を浴びせ、時には暴力に至る。
それでも彼女たちには抗う術はなかった。生きるためには、彼の庇護下にいるしかない。
国境までは徒歩で二週間。彼女たちにとっては途方もない時間に感じた事だろう。
それでも何とか国境に辿りついた。
国境沿いは森になっており、戦況が均衡している原因でもあった。
侵攻する聖国軍を森に引き込み、ゲリラ戦を展開。その抵抗に聖国軍は撤退を余儀なくされる。その繰り返しだった。
火車は躊躇することなく国境を踏み越える。
「そこの者、何者だ!」
姿は見えないが、火車たちを警戒している。
「てめぇこそ、誰だよ。隠れてねぇで出て来いよ!」
火車が魔法を放つが、手応えはない。
「止まれ!これよりはイブリス魔王国である。」
「そんな事は知ってるんだよ!」
手あたり次第に魔法を放つが全てに手応えを感じない。
「ここが戦闘地域だと知って来たという事か?」
「さっきからそう言ってるだろ!」
とうとう火車の魔法が敵を捉えたが、
「貴様、ブレイン聖国の者だな。」
「知るか!」
火車に会話の意思はない。ただ目の前にいる敵を屠るだけである。
「隊長、どうしますか?」
魔王国兵士が話し合っている。
「止まる気配がないな。被害が出る前に排除する。」
隊長が合図を送ると、一斉に弓を射かけた。
「なんだぁ?そんなおもちゃが俺に効くかよ!」
火車たちの周囲に炎の壁が現れ、矢を全て焼いてしまう。
「ならば!」
隊長が魔法を使う。それに続き、兵士たちも魔法を放つ。
「ちまちまと面倒くせぇなぁ!」
その魔法も炎の壁に防がれた。
「出てこいや!」
それは勘なのか才能なのか、火車は的確に魔王国兵士たちに魔法を浴びせた。
寸でのところで全員躱したが、火車に姿をさらす事になってしまった。
「やっと出てきたな。焼かれて死ね!」
火車は広範囲に炎を繰り出したが、兵士たちはその隙間を縫うように火車との距離を詰め、剣を突き立てた。
彼の体を突く数本の剣。
「だぁれが、剣は焼けないと思ったんだ?よく燃えてくれよ~」
隊長が火車の顔を見ると、彼の表情は苦痛に歪むことはなく、隊長を見下ろしていた。
兵士たちが突き刺した剣は、彼が纏う炎の高熱に耐える事が出来ず、溶解していた。
「くそっ!!」
兵士たちは火車から距離を取ったが、すでに遅かった。数人の兵士は炎に焼かれ、隊長は右腕に大きな火傷を負ってしまう。
「隊長!」
「何なのだ、、、あれが連絡のあった勇者という者か、、、一旦退くぞ。」
隊長の合図と共に、魔王国兵士は姿を消した。
「逃げんのかよ!来いよ!」
周囲に当たり散らすも、ただ木々が燃えるばかりで、何も起こりはしなかった。
「ちっ、クソ雑魚どもが、、、」
敵に逃げられた事に苛立ちを見せる火車。
「おい、今日はここで寝るぞ。」
テントを張れと、女性たちに命令する。
準備している最中もあれこれと理由をつけては、女性に当たり散らしている。
火車に従っている女性たちは、聖都や近辺の村から差し出された女性たちである。
彼女たちはこの暴君とも呼べる男に従っている理由は、家族のためである。
彼女たちが勇者である火車に従順である限り、彼女たちの家族は安全と食を保証される。
簡単なテントを組み立てると火車は女性を連れて、テントの中に入ってしまった。
残された女性は火車がよろしくやっている間の周囲の警戒を行う。
だが、彼女らは素人である。訓練も受けていない者がその任を全うできるはずもない。
ただ焚火に薪をくべ、おしゃべりをしながら、交代で眠るだけである。
この数日間、森を進む火車たち。
夜になっても特にモンスターなどに襲われることはない。
それは火車に与えられた恩恵の効果だった。
火属性が強く表れる火車は、モンスターから見ると炎そのものであった。
自分から炎に飛び込むモンスターはいない。
しかし、モンスターたちにはそうであっても、本当の敵は知能ある魔族である。
祖国の領土を我が物顔で歩く火車を許すはずもなかった。
森を抜け、少し開けた草原に出た。
「やっと来やがった!楽しみにしてたぜぇ!!」
火車は魔法を放つ。
「燃えやがれ!!」
その業火は辺りを包み込み、草木を燃やし尽くす。
「はぁ、、、面白くない魔法ですね。」
炎が止むとその中心には魔族の美女が立っていた。
彼女はまるで埃を払うような仕草を見せ、平然と立っていた。
「なんだ、てめぇ!」
自分の力に絶対の自信を持っていた彼にとって、彼女のその態度は異常にも、無礼にも見える。火車にとっては、初めての経験だった。
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