実戦訓練
-ブレイン聖国・近郊の森-
ここは聖国でもミドルクラスの冒険者が活動する地域である。
聖国は、宗教国家という性格上、排他的な側面が強調されがちであるが、国民の食生活を支える農業だけでは、そのすべてを賄えるはずもなく、特例的に冒険者の活動を認めている。
訓練場での修行が区切りを迎え、森での実践訓練が開始された。
剣崎、氷坂、霧島は、騎士たちの教えを素直に守り、集団での連携を高めていたが、火車はその苛烈な性格ゆえか、単独行動が日増しに増えていく。
「グレイハウンドが数匹抜けたぞ!」
剣崎の剣戟を躱し、氷坂と霧島を襲うモンスター。
「任せてくれ。」
氷坂から魔法が放たれると、モンスターたちが真っ二つに割れていく。
「とても素晴らしい!」
団長引率の元、3人は連携を磨いていく。
一方、火車は、
「オラァ!もっと来いよ!!」
周辺への被害などお構いなしに魔法を放ち、兵士たちはその後始末に追われている。
ただ、火車の火力が強いせいで、消化が間に合っておらす、山火事のような惨事に見舞われていた。
「火車殿!もう少し、火力を抑えていただけないか?」
兵士の進言にも耳を貸さず、
「黙れよ!!」
火車の魔法が引率の兵士たちを襲う。
「うわぁ!おやめください!」
その矛先を脅しのように兵士に向ける事もある。
-勇者一行・野営地-
「轟、もう少し俺たちと協力しないか?」
「るせぇ!てめえらみたいにチンタラやってられっかよ!」
剣崎と火車が口論になっている。
「だが、今回の訓練は勇者4人の連携訓練も含まれている。少しはそれを理解したほうがいい。」
氷坂の意見は、いつも配慮がない。
「黙れよ。俺の魔法はお前ぇらみたいにチンケなもんじゃねぇ。俺に指図すんな。」
火車はそう吐き捨て、自分のテントに戻っていった。
「やれやれ、こうも協調性がないとは。」
「でも、轟の火力に助けられている部分も否定できないからなぁ。」
「剣崎、今のままだと、彼はいずれ大きな事件を起こすかもしれない。それだけは覚えておいてくれ。」
「そうならないためにも、俺たち3人で彼に協力してもらえるように、頑張らないとな!」
剣崎と氷坂をよそに、霧島の不安は広がるばかりだった。
この世界に来て、数週間。言われるがままに訓練を行い、確かに強さという点では成長できている。
だが、その成長速度に心が置き去りにされている感覚がある。
(軍団長の話だと、明日の予定は他国の侵略の被害に遭っている村の調査だったよね。)
力を身に着ける。それがどういう意味を持つのか、霧島にはまだ答えを見つけることができなかった。
翌日、まだ火の気が残る村に到着した勇者たち。
「これはひどい。」
剣崎は村の無残な有り様に心を痛める。
「これが世界の現状なのです。」
騎士団長が心苦しそうに説明する。
「現在、我が国は他国の脅威にさらされており、邪神がその原因だと判明した次第。我らのような弱小な者では邪神に対抗できる手段がないため、勇者殿を召喚したのです。」
「他国は全てこの様に操られているのですか?」
剣崎の表情を見た騎士団長は畳みかける。
「邪神は非常に狡猾で、我々では思いも付かない卑怯な手段で他国を誑かしたのです。今は、唯一神ヒシム様を信仰する我が聖国しか残っていないのです。」
(馬鹿な勇者たちだ。この村でさえ、貴様たちを陥れる偽装だとも知らず。)
すべての嘘を信じる剣崎たち。
「おい、てめぇ、いつになったら、攻めるんだ?あぁ!」
火車が騎士団長に詰め寄る。
「火車殿、もうしばし待っていただきたい。貴殿の力は重々承知しておる。もうしばらく、力を蓄え、お待ちいただきたい。」
(若造が、貴様はまだ至帝級にも至っておらんだろう。扱いにくい奴め。)
「てめぇらがビビってんなら、俺が国一つ落としてきてやろうか?」
「お待ちください。まだその時ではないのです。いずれ、いずれその時が来た時には、、、」
「けっ、勝手に言ってろ。こっちはぶっ壊したくて、うずうずしてんだよ!!」
火車は八つ当たりのように魔法を撃ち放ち、村の建物がいくつか崩壊した。
「火車!やめろ!」
剣崎が制止するが、悪態を付き、勝手にどこかに行ってしまった。
「すみません。彼の勝手な振舞いを抑えることができなくて、、、」
「いえ、剣崎殿のせいではありません。あれほどの力を持ちながら、待たせている我々に落ち度があるのです。」
騎士団長の謙虚な姿勢に剣崎は感動してしまった。
「では、一通り調査も終わりましたので、帰還致します。」
騎士団長の号令にて、聖騎士団と共に勇者一行は帰路に着いた。
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