29 勇者召喚の儀
-拠点・屋敷内応接室-
「いよいよ、勇者召喚の兆しが見えました。やはりブレイン聖国が行うようです。」
コウショウが状況を説明している。
彼の集めた情報では現在、ブレイン聖国が大規模魔法の儀式をしているらしく、詳細までは掴めていないが、概ね召喚の儀で間違いないとの事。
そして、この1年の間に周辺国へ工作も行っている。
「標的はイブリスか?」
「それがどうもはっきりしないのです。現状、イブリスとの国境は特に変化はありません。私の透破を用しても、その全貌が隠ぺいされるほど、厳重に守られているのです。」
「他に怪しい動きの国はあるか?」
「ブレインの次に警戒するべきは、カンサス自治区でしょうか。正確にはエルフ地区ですね。どうも聖国の密偵と会談した痕跡があります。」
ブレインはヒューマン至上主義であり、他の種族は人類と認めていない。
エルフと会談するとはどうした事だろうか?
コウショウもそこが腑に落ちないと言っていた。
「これは私の憶測ですが、種族を越える黒幕がいるかもしれません。ドワーフやロギアマキナは、ブレインとの接触は無かったようですが、万が一を考える事も必要かもしれません。」
この件に関しては、バルフェルトやガンダルの耳にも届いており、その対策や共同作戦も考えているという。
「それでは、1週間後に魔王ガンダル陛下が、ご遊覧に来られます。その時に、バルフェルト国王陛下と秘密裏に会談する予定ですので、私も参加し、これからの対応を協議致します。」
さすがはコウショウだ。今まで自分で考えなければならなかった問題も、滞りなく進めてくれる。
「ですが、どのような事態になろうと、要となるのは悠弥殿、あなたです。私が協議に参加する前に一度、教会へ赴き、神託を授かっていただきたい。」
確かに最近、教会に行ってなかった。
「そうだな。どうも俺はあれが神様なのかどうなのか分からないんだよな。」
「ですが、教会で一度は神託を受けたのです。我らが信じる神で無くとも、それに関わりのある神なのかもしれません。」
「とりあえず、教会に行って、ありがたいお話でも聞いてくるかな。」
-王都・教会-
「俺の意識が戻らなかったから、無理やりにでも起こしてくれ。」
「分かりました。」
オリビアたちに見守られながら、俺は目を閉じる。
目の前に広がる白く何もない空間。前に来た時と同じだ。
「やぁ、もう来てくれないのかと思ったよ。」
また奴の声が聞こえる。今回は姿を現さないらしい。
「もう少し頻繁に来てくれるかと思ったんだけど、まさかこんなにギリギリまで来ないなんて、思いもしなかったよ。」
「御託はいいんだよ。それで今の状況でいいんだよな?」
「そうだね。概ね問題はないかな。少しずつ未来の内容は変わりつつあるようだよ。」
「そいつは良かった。」
「ただ、勇者が召喚されてから、すぐに行動に移すことはやめたほうがいいね。」
「なぜだ?弱いうちに叩けば、それで済むんじゃないのか?」
「勇者が強くならないと、また新たな勇者を呼び出される事になる。それが最悪の事態を引き起こすまで続くようだ。」
「初めて、未来の結果を教えてくれたな。」
「私も最悪の事態になって欲しくないからね。これくらいの予言は許してくれるさ。」
「そうすると、勇者たちがこっちに被害を及ぼすくらいの時期でいいのか?」
「その時には、ブレイン聖国も召喚の儀を行う余裕は無くなっているはずです。」
「分かったよ。それで俺の自由な生活が送れるって言うなら、やってやるよ。」
「頼みましたよ。それと、また私に会いに来る時は、簡単な神殿で構いません。祈りを捧げてください。」
「へいへい。」
俺は意識を取り戻した。
「悠弥、大丈夫そうですね。」
「あぁ。拠点に戻って、コウショウに報告しないとな。」
-拠点・屋敷内応接室-
コウショウに事の詳細を説明した。
「そうですか。では、こちらからは行動を起こさないほうが良さそうですね。」
「本当に未来を予見しているならな。」
「ですが、無視もできません。」
「俺だけじゃなく、皆が対処できるくらいだったら、いいんだけどな。」
「そこは心配していません。召喚者は、悠弥殿と違い、その強さは至天級に匹敵すると記録に残っています。勇者一人では、国を滅ぼすほどの力は有していないかと思います。ただ、この世界では強力な力を持っているので、実際の戦闘力は分かりませんが、悠弥殿ほどではないと考えられます。」
能力は至天級でも、その恩恵で強力なスキルが備わっているって感じか。
俺には強力な恩恵がいくつもあるが、それを無視するようなスキルがあると考えて、動いたほうが良さそうだな。
「では、以上の点を考慮しつつ、会談に臨むことにします。」
3か月後、ブレイン聖国で勇者召喚が実施されたとの報告が届いた。
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