27 無念無想に至る道
コウショウは、俺が作った簡易ゲートの魔道具を屋敷に設置し、町の防衛を手伝いつつ、俺たちに協力してくれている。
ザクジとの訓練も数か月が経ち、次の段階に進もうとしていた。
「悠弥殿はスキルの影響か元々の天稟か、相手の気を読む事には慣れてきたように見えます。モンスターとの戦いもその糧になっているのでしょうな。ただ、次の勇者召喚まで半年もありません。少し荒い方法ではありますが、心を鍛える訓練をしましょう。」
ザクジは、何かの魔道具を地面に置いた。
「これはとても危険な修練方法です。至天のソウザに勝てなったのは、技もありますが、悠弥殿がソウザに感じてしまった恐怖心が、一番の原因です。その恐怖に打ち克つ事が出来れば、貴殿に宿るスキルは最大限応えてくれる事でしょう。」
「あんまり厳しくしてくれるなよ。少し前まで、俺は素人だったんだ。ザクジのような達人の域にはほど遠い。」
「そう簡単に私に追いつかれたら、気が気でないですな。」
ザクジは、その魔道具に魔力を流した。
「では、いきますぞ。」
すると、魔道具を中心に直径2mくらいの結界のようなものが出現し、円の端には、人型の影のようなものが現れた。
「悠弥殿、これは我が家より伝わる”無念無想の理”という修行方法です。この結界の中ではスキルが一切使えなくなります。相手の影が敵となり、悠弥殿に一撃を放ちます。これは幻術ではなく、実体を持った影ですので、最悪、死ぬこともある危険な修行です。」
なんて事をさせようとしてるんだよ。
「もう残された時間も多くありません。本来ならば、じっくりと時間を掛けて、精神を鍛えるのですが、タイミングを考えると、この方法しか思いつきませんでした。」
「厳しいねぇ。ただこれを乗り越えないとソウザと同じ土俵に立てないなら、やるしかないな。」
円のすぐそばで、気合を入れる。
「よし、いくか。」
俺は一歩を踏み出した。
中に入ると、敵(影)との距離は目と鼻の先だった。
マジで死ぬとかどんな修行をしてるんだよ、、、俺の悠々自適な生活は遠のくばかりだ。
「では、悠弥殿が構えた瞬間から、始まりますので、集中してくだされ。」
俺は息を吐き、姿勢を正し、刀を抜き、中段で構えた。敵も同じ構えを取る。
静かに時間が過ぎていく。
目の前にいるそれは、何の感情もなく、ただ俺を貫こうとする意志だけが感じられる。
嫌な汗が止まらない。
それはほんのわずかな時間だった。およそ認識できるレベルではない時間、集中力が途切れた。
敵はそれに反応し、中段から一筋の突きを繰り出す。
(嘘だろ、、、)
間一髪、突きの軌道を横に逸らす。それが精一杯だった。
そして、奴はまた元の構えにすばやく戻った。
(スキルがないと、素人丸出しだな。1年程度の経験なんて、こんなものか、、、)
そして、どれほどの時間が過ぎたか分からない。
「悠弥殿、今日は終わりです。」
ザクジの合図で、目の前の魔道具は効果を失う。
「ザクジ、これは厳しすぎやしないか?」
「いえ、あの影の一撃を躱したしときは、見事でしたぞ。モンスターとの戦いの経験も活きているのでしょうが、あれは悠弥殿が持つ才能を見た瞬間でした。」
「そんなに褒めても何も出ねぇよ。あれを躱したのも、運が良かったと俺は思ってるくらいだ。」
「それほど、自分を卑下しないでくだされ。本来は、このような修行をする事はないのです。並みの戦士なら、もうこの世にいないでしょうな。」
大きな声で笑いながら、俺の背中を勢いよく叩いて、喜んでいる。
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