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【連載】異世界における特異点  作者: とぐさ
第一章 今より少しマシな未来へ
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26 表裏比興

 セルザイン南東部の町ダール。名産品などは無いが、無知なる森の南部防衛の最前線である。

 そのため、冒険者が多く、森の入口付近にいる魔物の素材を売買し、町は栄えている。

 冒険者もミドルクラスの中位以上が多く滞在しており、戦力も高い。


 1ヶ月の旅を終え、オリビア、シイカ、サラ、少しの戦乙女たちと町に到着した。

 コウショウは、貴族ではないが、屋敷に住んでいた。


「コウショウ殿はおられるか?」


 ドアをノックするシイカ。少しして、ドアが開いた。


「コウショウ様は、只今、手を離せないとのことです。また日を改めて、おいでください。」


 対応した男は、丁寧にお辞儀をする。シイカが少し話をしたが、取りつく島もなかった。


「悠弥、これは手ごわいかもしれないな。宿を探して、明日また訪ねよう。」


 一週間後、宿屋にいた俺の元に、コウショウからの使者が来た。


「コウショウ様より、オルリベイラ王女殿下ご一行様と面会するとの報せでございます。準備が整い次第、お屋敷においでください。」


 屋敷に入ると、応接室に通された。

 部屋は豪華ではないが、どこか上品な調度品がバランスよく並べられている。

 素人の俺が感じるくらいだ。オリビアたちは、気付いているだろう。

 その調度品の中に気になる物もいくつかあったが、殆どの者はそれの意味が分からない。


「お待たせして申し訳ありません、オルリベイラ王女殿下。」


 白髪白眉の青年が入ってくる。


「私がコウショウと申します。」


 彼の眼は、俺たちを見定めるかのように見つめていた。怖れを抱くわけでもなく、その佇まいは威風堂々としている。


「この度は、面会に応じてくださり、感謝いたします。」


 オリビアは礼を尽くす。


「王女殿下の要望とあらば、こちらも応えましょう。ただ、何分忙しい身であるため、このようなタイミングになりました。お許しください。」


 王族であろうと、贔屓はしないというメッセージだろう。胡散臭いと思った。


「良いのです。私は王族ではありますが、今は悠弥の妻となり、何の権限もありません。」


「そう言っていただけると、助かります。」


 そして、オリビアは姿勢を正し、本題に移ろうとした時、


「今回、あなたに面会をしに来た理由は、、、」


 オリビアの会話を、彼は止めた。


「委細承知しております。私を配下に加えたいとのことですね。」


「何故それを知っているのでしょうか?」


「殿下と同じく、私にも優秀な目と耳がおりますゆえ、、、」


「それは大変優秀な諜報部隊ですね。」


「恐れ入ります。ただ、申し上げにくいのですが、殿下の望みを叶える事は難しいと言わざるを得ません。」


「それは、理由を聞いても?」


 コウショウは、少し間をおいて、


「今回、私を必要としている理由は、マンネン大臣の対抗馬としてだと情報を得ております。正直、王侯貴族の争いに巻き込まれたくないというのが本音です。」


 嘘を言っているように見える。

 彼のその態度からは、先ほどの理由からは想像ができないほどの自信を感じる。


「違うな。あなたのその態度は、マンネン大臣を相手にする程のものでもないって感じだ。違うかい?」


 目は口ほどにものを言う。俺の指摘に彼の目は笑う。


「確かに、私にとって、今回の問題は些事にも近いです。とても私の力が必要とは思えません。」


「そうか。俺も無理にとは思っていない。また機会があったら、その時はよろしく頼むよ。」


 俺たちは、彼の屋敷を出た。


「あっ、そうだ。コウショウに伝えておいてほしい。部屋に飾ってあった”漢字”の意味を教えてほしいって。」


「かしこまりました。」


 彼の屋敷に飾ってあった掛け軸は明らかに漢字だった。「表裏比興」これは、どっかの戦国武将が呼ばれていた二つ名だったような覚えがある。

 応接室に入った瞬間から、その掛け軸だけが異様だった。


「なぁ、この世界に漢字ってあるか?」


 3人は、首を傾げる。


「かん、じですか?それは食べ物か何かですか?」


「武器か何かか?」


「人の名ではありませんか?」


 全員知らないってことね。そうなると、彼の部屋にあった掛け軸は、どこから来たのだろうか。

 商人、知人から手に入れた可能性が一番高い。

 次に300年前に召喚されたという勇者の子孫、もしくは彼自身が召喚者か転生者という可能性。


 考えても仕方ない。あの伝言の返事で分かる事だ。

 もし、ゆかりのある者だったら、その時点でリアクションを取る可能性が高い。


「とりあえず、一石は投じた。あとは気長に待ちますか。」


「では、宿屋には誰かを残し、町を散策しましょうか。」


 それからは、コウショウの出方を気にしつつ、街を楽しむことにした。


 さすがは、無知なる森の防衛拠点だけあって、武器、防具の品質は高い。

 冒険者が多いのもあって、食堂や薬屋も充実している。


 数日後、その使者は訪れた。


「王女殿下とご一行様。コウショウ様がお話がしたいとのことです。お屋敷までご足労願います。」


 迎えの馬車に乗り、屋敷に向かう。


「一つ確認させてください。」


 応接室に入るなり、コウショウが口を開いた。


「悠弥殿、あなたはあの掛け軸に描いてある文字が読めるのですか?」


「あぁ、読めるな。」


「あれは何と読むのでしょうか?教えていただきませんか?」


 この必死さは、誰かから譲り受けたというわけでも無さそうだ。


「何故あれが読みたい?」


 コウショウは何か態度がおかしい。


「あの掛け軸は、コウショウ、あなたのものか?」


 彼はうなずく。


「そうか。その感じからすると、どうやら、あなたが召喚者というわけでもなさそうだ。」


 彼は諦めたように話し始めた。


「はい。私は300年前に召喚された勇者のうちの一人、マサユキ・サナダの子孫です。」


 聞いたことはあるが、俺の知ってるサナダは、真田幸村しか知らない。もう少し日本史を勉強しておくんだった。


 HUD:真田昌幸/戦国時代の武将である。その知略を持って、戦国時代を生き抜いた智将である。その手腕から「表裏比興の者」と評された人物。真田幸村の父である。


 うん。全然聞いたことない。とにかく知略に優れてたって事だな。


「私の祖先であるマサユキは、ブレイン聖国が召喚の儀式により与えた使命に疑問を持っておりました。本来はそのような疑問を抱くことなどないのですが、召喚者に与えられたスキルが影響したと推測されます。」


 彼の話を要約すると、使命に疑問を持った勇者が魔王討伐の最中に、戦死を装い逃走。

 遺体は見つからなかったが、戦死判定を受けた。

 勇者が戦死した事は兵士の士気に関わるため、事実は隠ぺい。その記録は残されずに今日まで来た。

 その後、昌幸はセルザイン王国に、コウショウ・サーダーと名前を変え、この町で生活を始めた。


「のちに、彼はその智謀で町の手助けを行い、この屋敷を頂いた次第です。あの掛け軸は、初代コウショウによるもので、何と読むかは、初代しか分からないのです。」


 ショウコウは、世襲制なのか。

 彼の態度を見ていると、相当な思い入れか何かがあるように思う。


「ひょうりひきょうだ。」


「えっ、まさかそれがこの掛け軸の読み方ですか?」


「そうだ。表裏比興、老獪な策略を用いることを、そう言うんだよ。」


 さすがのHUD。


 彼は俺に最大の感謝を述べたあと、突然、膝まづいた。


「悠弥殿、私は初代の教え通り、あなたに仕えようと思います。」


「どういう事だ?」


「初代の教えは口伝されており、”いつかこの文字が読める者が現れた時は、その者に仕えよ”と。これは私の憶測でしかないのですが、悠弥殿も初代と同じ勇者なのではないでしょうか?」


 多分、コウショウは、俺の正体を分かっている。


「分かった。コウショウ。お前を仲間として、歓迎する。配下じゃない仲間だ。俺は君主ってガラじゃないんでな。」


「ありがとうございます。」


「で、俺は勇者じゃない。召喚者でもない。だから、使命は持っていないんだ。」


 俺は軽く経緯を説明した。俺の苦手な説明でも、彼は十分に理解してくれたようだ。


「では、悠弥殿は、約2年後に召喚される勇者を止める役割があるという事ですね。」


「そうだ。それで頼みたいのは、俺が修行に専念できるように、コウショウの言う些事を片付けてほしい。それに必要な情報や立場は出来る限り用意する。」


「分かりました。では、まず国王陛下にお会いし、そのマンネンとやらを排除致しましょう。」


「そんなに簡単に言うじゃないか。」


「些事ですので。ご安心ください。その者が二度と表に出てこないよう、徹底的にやりますので、悠弥殿は修行に専念してください。」


 こいつの顔、こえぇ~。どんな悲惨な結末が待ってるんだよ。殴り合いで済むようなシンプルな頭じゃない分、考えている事が怖い。味方にできて、マジで良かった。


「では、色々と準備が終わり次第、そのゲートとやらで、私を拠点まで送ってくださいますか?」


「この屋敷はどうする?」


「2年後に、世界の命運が掛かっているかもしれない時に、屋敷の心配など些末な事です。今は一時でも障害を排除し、その時を迎える準備をするべきです。」


「あ、あぁ、そうだな。」


 コウショウが仲間になってくれた事は、本当に助かった。

 それからの彼の動きは早かった。

 バルフェルトとの密談後、透破と呼ばれる諜報部隊を使い、1ヶ月後にはマンネンは失脚。その2週間後にマンネンは変死を遂げた。

 そのことを彼に問い詰めたが、


「さぁ、私は奴を失脚させて、田舎暮らしに追いやっただけです。その後、どうなったかまでは分かりません。」


 と動揺もせず、言い切った。


-無知なる森・拠点-


「悠弥殿、先日の件、私の透破の棟梁と訓練をしてみてはいかがでしょうか?」


 毎日の訓練で、ソウザの域に達するには、どうするればいいのか悩んでいた。それをコウショウに相談していた。


「お初目にかかります。透破の棟梁・ザクジでございます。」


 老人が現れた。その風体から漂う強者の風格は、素人でも緊張するレベルだ。


「これは失礼しました。主コウショウより悠弥殿の事を伺い、少々無粋なことを致しました。」


 瞬間、老人は好々爺のような雰囲気になる。


「で、どうだったんだ?」


「ふむ、スキルだけでも世界を統べるほどの御仁と見ましたが、技はまだまだと言ったところですかな。ただ、その天稟は感じるものと、、、」


「さすがだな。コウショウが勧めるだけはある。はっきりとものを言う。」


「いやはや、これは失礼。主がこれほどまでに気に掛ける御仁とあらば、どれほどかと楽しみにしておったもので、久々に血が騒ぎます。」


 ザクジは、楽し気に笑う。


「では、悠弥殿。今から始めましょうか。」


 俺たちは庭に出て、向かい合う。


「悠弥殿に足らぬもの、それは心と技の部分ですな。手前がこれより悠弥殿を殺す気で構えます。隙があれば、首を取りに行きますので、ご容赦ください。」


 簡単に言う。だが、俺の前にいる老人は、それが出来ると言っている。

 ザクジが持つ剣は、直剣片刃。どこか刀を思わせるものだった。


「では、行きますぞ。」


 動けない。目の前にいる老人から漂う強者のそれは、俺の危険察知を激しく揺さぶる。

 頭の中でシミュレーションを繰り返すが、どれも止められそうな考えしか浮かばない。


「先ほどから、何も変わっておりませんぞ。」


「ちっ、こっちはさっきから何回も試行錯誤してるんだよ。本当にジジイかよ。」


「ほっほっほっ。悠弥殿はこれまでいかにスキルに頼ってきたかを実感してもらえれば、それで良しですな。」


 余裕だな。何とか一矢報いたい。


「悠弥殿、息はしたほうがよいですぞ。」


 言われて気が付いた。呼吸が出来ないほどの雰囲気に飲まれていた。


「はぁはぁはぁ、、、」


 息を切らせた俺を見て、ザクジは、余裕の笑みを浮かべていた。

読んでいただきありがとうございます。


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