25 至天級ソウザ
俺はソウザとの距離を一気に詰め、奴の右側から刀を振りぬいた。
-キンッ-
まじかよ。絶対に反応できていないと思っていた。
奴は、長剣で俺の刀を弾く。その流れのまま、俺の横っ腹を刈りにきた。
俺はすばやく距離を取る。
「おいおいおいおい、あれが見えてたのかよ。」
「確かに、この速度では他の者は捉えられんか。」
奴はブツブツ何かを確かめるように考えている。
瞬間、奴が俺の目の前に現れた。
「!?」
間一髪、俺の首を狙う切先の軌道をズラせた。
なんだ、、、何が起こった。俺はずっと奴を注視していたはずだ。だが、突拍子もなく奴は目の前に現れた。
「よく対応したな。これで終わると思っていたんだがな。」
奴は、そのまま連撃を繰り出す。
待て待て、反撃できない。すべて見えているのに、反撃が出来ない。
どう考えても俺の能力が上回っているはずだ。チートじゃない部分か?なんだ、考えろ。今はまだ攻撃は躱せている。今のうちに考えろ。
「どうした。動きが散漫だぞ?」
奴は攻撃を止めない。
「やってくれる。」
どうしたら、打開できるんだ。
奴の斬撃は少しずつ俺を捉え始めている。
何だ、、、何が違う。見ろ、視ろ!奴の動きを見逃すな。
「!?」
-キィィィン-
奴の剣を止めた。
「そういう事か、、、これは無理だわ。」
理解した。奴と俺との決定的違い。それは圧倒的な経験の差だ。俺はチートスキルで強いだけだ。今まで武器など持ったこともなかった。
だが、奴は違った。今の今まで、奴は剣術を研鑽し、戦いに身を投じ、ここまで生き残ってきた。たぶん、奴は達人と呼ばれる種類のヒューマンなのだろう。
「何を呆けた事言っている。一度、止めれたくらいで調子に乗るな。そろそろ俺の剣がお前を捉え始めている。」
「そんな事は分かってんだよ。だが、こういうのはどうだ?」
俺は魔法陣を展開する。
「魔法か。そんなものが何の役に立つ?」
「余裕だな。」
「!?」
奴を囲う魔法陣から、土の槍が無数に飛び出す。
勘なのか経験なのか、奴はすぐに身を引いた。
「勘違いしてるみたいだから、教えておくが、俺は剣士でも魔法使いでもない。その両方だ。」
また魔法陣を展開する。無数の炎弾がソウザを襲う。
「このような魔法など、俺の剣の前には無意味。」
奴は炎弾を斬り刻む。俺は少しずつ距離を取り、魔法を繰り出していく。
「無駄だと言っている。」
ソウザは魔法を斬りながら、距離を詰めてくる。
火、水、土、風の魔法を無数に繰り出し、ソウザを攻めるが、奴の防御もすごい。
だが、やはり戦いは物量だった。魔法の多さに、足が止まる。
「貴様!」
ソウザが俺に文句を言いたげだが、俺はその隙をついた。
-ガキンッ-
「なんだと、、、」
ソウザの長剣を刀で叩き折った。
「まだやるかい?」
奴は、「ふぅっ」と一息落とし、折れた剣を鞘に納める。
「終わりだ。」
「ありがたいね。」
「勘違いするな。貴様との勝負はついていない。あれを見ろ。」
ソウザが指す方向を見ると、本隊同士の戦闘が終わっていた。
どうやら、戦乙女隊が正面を突破し、敵大将であるトーマスを捕縛したみたいだ。
敵左翼側からの援護を期待したフォルク軍は、龍騎傭兵団を止められた事により、前線が瓦解し、立て直せないまま戦闘は終了した。
「悠弥!」
シイカがやって来た。
「一人で龍騎の相手をさせてしまって、すまない。」
「大丈夫さ。向こうも、前線が終わったから、剣を納めたよ。」
シイカは、ソウザを見た。
「ソウザ殿とお見受けする。私は、、、」
「シイカ・ベントだな。今回は退かせてもらう。雇い主がこうなっては、戦闘継続は不可能だろう。貴様の総大将にもう少し剣を教えておけ。」
「負けそうになってただろうが。」
嫌味を言ったが、確かに剣術だけなら、負けていたかもしれないな。
「剣術では負けていない。貴様の規格外の魔法に負けただけだ。」
「負け惜しみを言うなよ。」
「・・・確かに負け惜しみだな。次は勝つ。貴様も修練を積んで来い。」
ソウザは踵を返し、去っていった。
「まさか悠弥が、剣術で圧されたのか?」
シイカさん、それはグサッっとくるものがある。
「あぁ、あのソウザってやつは、強かった。今回使う予定のなかった魔法まで使う羽目になっちまったな。」
「やはり至天級は恐ろしいのだな。」
「もう会いたくねぇよ。」
「大丈夫だ。次は勝てる。」
だから、会いたくねぇって。今回、何とか勝利を収めたが、スキルに頼った戦いは、経験や努力で得た感覚に近いものに、覆される可能性があると分かった。
シイカは、トーマス・フォルクを捕らえ、戦後処理のため、王城に行くと戦乙女を引き連れて、俺と別れた。
-無知なる森・拠点-
「「悠弥!」」
オリビアとサラが屋敷のすぐ前で待っていた。
「怪我はないですか?」
「あぁ、心配を掛けてすまない。」
「早馬で、悠弥が苦戦したと聞いたので、心配しましてよ。」
報告されてたか。
「苦戦はしたけど、今回は引き分けだな。戦乙女たちにも感謝しないとな。」
今回の争いは、戦乙女の戦力を甘く見たトーマスが、右翼より左翼に傭兵を配置した事で、俺に足止めされ、右翼側が総崩れとなった。
両軍の戦力差なら、前線が耐えている間に、数時間もあれば、包囲が完成していただろう。
だが、そうはならなかった。
「シイカが戻ってきたら、今後の俺の訓練について、話し合いたいな。」
「悠弥が訓練されるのですか?」
オリビアが目を丸くしている。
「あぁ、龍騎のソウザと戦って、スキルだけでは対応できなかったんだ。」
「悠弥を追い詰めるとは、さすが至天級ソウザですわね。」
サラも知っているのか。やはり至天級は伊達じゃない事は分かった。俺は認識を改め、自分自身も強くなる事を決めた。
それからというもの、毎日素振りを行い、戦乙女たちと身体強化なしの対人訓練をする。
しばらくして、王都から戻ってきたシイカに事の経緯を聞く。
「フォルク家と協力した貴族は、取り潰しとなった。領地は一時的に王家直轄領だそうだ。それと、龍騎傭兵団は、賠償金を支払う形で国に送還された。」
「だが、今回の件は、王家が制止してもダメだったって事は、国のお偉いさんが関わってる可能性が高いんじゃないか?」
漫画やアニメだとよくあるパターンだと思い出した。
「その可能性はゼロではないな。フォルク家の後ろ盾は、財務を取り仕切っているマンネン大臣がいる。彼は長年、宰相の地位を狙っていることで有名だ。」
「今回は、そこまで辿り着かなかったってわけだな。」
「元々、そういうことが得意な方だ。私も憶測でしかない。」
「王女をフォルク家に嫁がせて、繋がりを強めてからの政権争いか。もしかしたら、バルフェルトはそれを分かっていて、俺に嫁がせたのかもしれないな。あの狸爺。」
考えてみてもおかしかった。狸爺曰く、王女はお転婆だから、嫁ぎ先が無いと言っていたが、パーティの時に、周りの貴族はこぞって、王女を口説こうとしていた。それは素人の俺の目から見ても明らかだ。
「でも、今は私は悠弥を愛していますよ。」
「今は疑ってないよ。」
「ツレない言い方ですね。」
今回の争いで、オリビアに手を出さす貴族は激減するだろう。龍騎傭兵団を破った男の称号は、それほどまでに大きい。
戦乙女にしても、2000の兵を60そこそこで破ったのだから、その知名度はうなぎ上りだ。
今回は、相手の油断が一番の原因だが、武力行使を抑制するには、十分だ。
問題は、マンネン大臣だろう。話を聞く限り、頭で立ち回るタイプだろう。俺はそういう世界を知らない分、苦手分野になる。
単純に殴り合いに応じるタイプなら、こちらも簡単なのだが、そうもいなかいとなると、こちらにも知略に秀でた仲間を探す必要があるな。
「今回の件は、向こうが武力行使で来たから良かったが、知略戦となると、俺は少々苦手なんだ。誰か信頼できる知性に長けた奴を知らないか?」
3人は頭を悩ませた。
「んー、あっ!」
シイカがひらめいたようだ。
「セルザインの南東部の町に、コウショウという若者がいると聞いたことがある。智謀に優れ、人格者だと噂も高い。」
「一回、行ってみるか?」
「その、、、人格者ではあるのだが、少々人を図る癖があるようで、気に入らない者には、例え貴族だろうと従わないらしい。」
「行ってダメなら、その時に考えればいいさ。」




