24 龍騎傭兵団
朝、二人で部屋を出ると、食堂にはシイカとサラがいた。
「おはよう、みんな。」
「・・・」
シイカは、頬を膨らませ、怒っている。
サラは怒っているようには見えないが、いつもより口数は少ない。
「おはようございます。」
オリビアの挨拶で、シイカが口を開いた。
「殿下、昨日はどこで寝ましたか?」
「えっ、、、」
オリビアは言葉に詰まる。
「あれほど、抜け駆けは無しだと、約束したではありませんか?」
「シイカ、えっと、、、」
こんな朝っぱらからするような話ではない。
「悠弥!」
「お、おう。」
そりゃ、俺も言われるわな。
「私と何か月も旅をして、何もなかったのに、帰ってきて早々に、殿下と関係を持つとはどういう事だろうか?」
「いや、オリビアは、あれだ、正妻だしな。」
「では、次は私という事でいいんだな?」
おっと、こういう話題は苦手かと思っていたんだが、シイカも意識するところはあったのか。
それは、俺が悪い。悪いのか?
「そうだな。今夜は、シイカと一緒に寝るか。」
「えっ、あっ、は、、、はい。」
自分が何を言っていたのか気付いたようだ。
「では、私はその次でよろしくてよ?」
サラ、ややこしくなる。しかもお前は付いてきただけで、婚約も何もない。
「なぜです?前にも言いましたが、我ら魔族は、強き者に魅かれ、求めるのですわ。これは自然な事だと思いませんか?私は、悠弥に惹かれていますから、何も問題ありませんわよ。」
野生動物か。
「お前の場合、まず魔王に聞かないとダメだろ。」
「まぁ、無駄な事だと思いますけど。」
翌日、魔王に連絡をする。
「はっはっはっ、そうか。サラの事は、貴公に任せておる。好きにしてよい。他の伴侶同様に扱ってくれ。」
何とも軽い感じだった。自国のお姫様だろう。
こうして、3人の妻との話し合いの結果、ローテーションで俺と過ごす事が決定された。
ただし、未来に起こる勇者召喚をきっかけとする事件が落ち着くまで、子供は作らない方向で約束させた。
それから3ヶ月、俺たちは戦乙女隊と共に森でモンスターを狩りつつ、各国の情報を集めた。
「悠弥!大変だ。」
執務室で各国の情報を確認していると、シイカが慌てて入ってきた。
「フォルク家がこちらに兵を向けている。」
その情報はオリビアの諜報部隊が掴んでいた。
3か月前のパーティから、フォルク家が私兵団を招集していた事は分かっていた。
傭兵団に依頼を出し、全ての準備が整うのは2か月~3か月だろうと踏んでいた。
こちらも迎撃のために準備は怠っていない。
「やっぱり来たか。貴族ってのは、どうも面倒だな。」
「今の速度だと、到着予定は2週間後だと思う。どうする?」
シイカがテーブルに地図を広げる。
「来るならやるだけだ。戦力はどうなってる?」
「フォルク家は私兵団が300、傭兵団が50だ。こちらは、戦乙女60と悠弥だ。」
「感覚で言うと、その戦力だと、俺一人で十分だな。」
「私もそう思う。情報では、陛下は何度も止めるように意向を出したのだが、フォルク家はそれを無視したらしい。」
おいおい、国王の意向を無視って、どんだけ傲慢なんだよ。
「気になる情報は、傭兵団だ。悠弥はこの世界の事をあまり知らないだろう。奴らは”龍騎傭兵団”だ。依頼料は高額になるが、どの傭兵も一騎当千と言われている。その中でもソウザは、至天級のヒューマンだ。」
シイカの話だと、至天級は、戦士に送られる称号のようなもので、最上位らしい。
国家が至天級を保持している場合は、最高戦力と言っても過言ではない。
シイカは、至聖級らしく、至天、至聖、至帝、至王があり、前者ほど強い。
「悠弥はすでに人類の域を超えている可能性があるから、どうなるか分からない。」
俺を人外みたいに言うな。チートスキルのせいで、少しは自覚はある。
「だとすると、私兵団は戦乙女を当てて、傭兵団は俺とシイカが対処するか。」
「それがいいと思う。戦乙女も至王級に近い者たちも出てきている。悠弥が用意してくれた武器と防具、森での訓練のおかげだな。」
迎撃地点は、拠点から少し離れた平原とした。戦乙女の戦力にもよるが、今の彼女たちなら十分対応できるとのことだ。
2週間後、俺たちは平原で向き合う。どうやら、他の貴族も合流しており、その規模は2000まで増えていた。
プレハブ指令室に偵察隊が来た。
「悠弥、フォルク家から使者が来ました。」
「分かった。対応する。」
指令室の中を見せるわけにはいかないので、俺とシイカは外に出た。
「フォルク軍司令トーマス・フォルク様より、通達である。」
これでもかと尊大な態度で馬に乗る兵士が叫ぶ。
「セルザイン王国無知の森の不法占拠、王国への叛意、国王陛下ならびに王女殿下への脅迫等の罪により、主犯・悠弥を国家反逆罪とする。抵抗の意思なく、投降する場合、減刑も考慮する。返答を求める。」
この世界のルールに疎い俺は、対応をシイカにお願いしている。
「私はシイカ・ベントである。戦乙女軍指揮官だ。」
シイカとみて、伝令の男が汚くニヤつく。
「こちらに叛意はない。国王陛下より許可も頂いている。そちらの要望はすべて無効な訴えである。よって、従う事は出来ない。」
シイカがかっこいい。
「ほう、この戦力差で一戦交えると?」
「それもやむを得ないと考えている。」
男は、シイカの体をイヤらしい目付きで嘗める。
「これは個人的な提案だが、貴殿が我が妻となるなら、悪いようにはしない。」
そりゃ、うちのシイカは綺麗だ。分かるけども、ちょっとおイタが過ぎないか。
「き、貴様、何をこのような時に!即刻、この場から立ち去れ!」
この戦力差だ。負けることなど考えてもいないだろう。
シイカが怒るのも無理はない。
「返答、承った。では、残りの時間を楽しまれよ。」
男は去っていった。
「なんと無礼な輩なのだ。これではフォルク軍も底が知れる。」
「シイカ、すまない。嫌な思いをさせたな。」
「いや、あの程度の事、日常茶飯事だ。気にすることはない。」
シイカの頭をポンポンと撫でる。
彼女は照れながら、全軍の前に立つ。
「戦乙女よ!日ごろの訓練の成果を見せる時が来た!戦力差は一目瞭然だが、誰も我々の勝利を考えているものなどいないだろう!だが、それはもう過去の話となる!見せよ、戦乙女の誇りと信念を!!」
空気が震えるほどの鬨の声が響く。
その数分後、相手陣営でも声が上がり、大量の矢が飛んできた。
「シールド展開!」
シイカの声と共に、魔法防壁が展開し、矢を弾く。
「まだ魔法は使って来ないのか?」
「魔法は本来、戦場では切り札のようなものだ。そう連発できるものでもない。」
作戦会議で魔法について教えてもらった事は、最初に弓兵の応戦、次に歩兵と騎馬の接近戦。
随時、戦況を読みながらの魔法戦で、決着を決めるということだ。
俺のように、魔法を連続で使用できる者は非常に少ない。だが、戦乙女は訓練で詠唱魔法を練習し、魔力の消費を固定したことにより、専属の魔法部隊を編成しなくとも、それと同様の効果をもたらす存在になった。
「相手は怯んでいる!戦乙女突撃!」
戦乙女が一斉に前進する。彼女たちの装備するブーツには、速度増加と疲労軽減が付与してある。疲労無効化を試みたが、人体の性質上、無効化は出来なかった。
騎馬よりも速く進む戦乙女に、混乱するフォルク軍。矢を打つ頃には、元の場所にいないため、指揮系統が機能していなかった。
「悠弥!右翼より傭兵が来る!戦乙女の右翼後方は、右側の傭兵どもに魔法を浴びせてやれ!」
シイカはよくやってくれている。
「「「風刃!」」」
真空の刃が傭兵たちに襲い掛かる。傭兵団を切り裂くように魔法は命中したが、まだ戦意を失っていない。
「シイカ!俺が行く!」
「危険だ!私も行く!」
「お前は、ここをもたせてくれ。」
俺は右翼に飛び出し、傭兵団の前に出る。
俺は地面に手を当てる。
"地盤崩壊"
地鳴りと共に、広範囲の地面が崩壊していく。予想もしない現象に奴らは体勢を崩し、地面に叩きつけられる者、体勢を何とか保ち、無事な者もいたが、足止めには成功した。
「面白い魔法を使うな。」
先頭の男が剣を抜いた。助かった何名かも武器を取る。
「ソウザ、ここは私たちに任せて。」
双剣の獣人族の女が前に出た。その周りに様々な武器を持った傭兵が集まる。
「いいのか?俺の相手していると、本隊が敗けるぞ?」
「そうでしょうか?私たちがいなくとも、この戦力差では貴方たちのほうが無謀だと思いますよ。」
さすが傭兵か。場数が違うな。いくら戦乙女たちが強いと言っても、それはあくまで人類の中での話だ。個人で戦場をひっくり返せるほどの能力は無い。
傭兵どもにここを突破されて、援軍に向かわれると、少々都合が悪いか。
「ご忠告どうも。今回の戦いは、戦乙女の実力を知るためのいい機会だと思っていたんだが、あんたらをどうにかしないとか、、、」
俺は刀を抜いた。
6対1か、、、少々不安もあるが、この馬鹿どもが起こした騒動は早々に解決したい。
「でやぁ!」
思考を巡らせていると、斧の男が襲ってきた。剣筋が直線的過ぎて、少し戸惑ったが、それを躱すと奴の後ろから双剣の女が姿を現す。
「せぃ!」
女の連撃をいなしながら、横目で周囲の様子を窺う。杖の獣人女が魔法を準備しているようだった。
どんなイメージをしているか分からないが、炎が頭上に集まっている。味方ごと焼くつもりか?
すぐさま、俺は杖の女に詰める。
「えっ!?」
遅い。俺は獣人女を蹴り飛ばす。杖女は後ずさりし、腹部を押さえ、しゃがみ込む。
そんなに強く蹴った覚えはないんだけどな。
「セツナ!」
双剣女が俺を追いかける。セツナの近くにいた大剣男が横薙ぎ一閃、俺を襲うが、難なく躱し、大剣男の横っ面を殴りつけた。
「つぅぅぅっ。」
男は盛大に吹き飛んだ。
「メンゲル!」
双剣女は俺のスピードに翻弄されている。俺はそのまま槍男に向かい、
「この野郎!」
突いてくる槍を斬り、奴の後頭部を掴み、地面に叩きつけた。
”ゴンッ”と鈍い音を立て、槍男は動かなくなった。
「貴様!」
双剣女が飛び上がり、斬りかかってくる。
「どっせい!!」
斧男も同時に襲い掛かる。
が、どれもそれほどのスピードでは無かった。斧男との距離を詰め、奴の柄を掴み、斧を振り回すと、奴は耐えきれず、斧から手を離し、飛んで行った。
「ぐわっ。」
斧男は体が大きい分、地面に叩きつけられた時に自重に耐え切れなかったようだ。
双剣女は、着地と同時に地面すれすれを滑るように向かってきた。
「よくも!」
その剣で俺の首を狩りに来る。
「遅い。」
俺は刀で、双剣を弾き飛ばし、女の腕を取り、地面に制した。
「情けのつもりですか!」
「そんなつもりはないが、こんな詰まらん争いで、命を落としてもくだらねぇって思ってるだけだ。」
女は悔しそうに俯いている。危険察知が反応した。
-ガキーーンッ-
防いだ刀が重さを感じた。
何かが飛んできた。魔法じゃない。
向こうで長剣を持ったソウザと呼ばれた男が、剣を振りぬいたような姿勢でこちらを見ている。
「これを見切るのか。貴様、どこでその力を身につけた?」
「えらくご挨拶だな。こっちは、女性とデート中だってのに、横から入ってくる男は嫌われるぞ。」
「ふん、このような戦いで負けるような戦士など、この龍騎にはいらぬ。」
ソウザは、少しずつ距離を詰めてくる。
俺に掴まれている女の腕が震えている。
「随分な言い様だな。仲間だろ。さっきの攻撃も仲間ごとやろうしただろ?」
「ソウザ!私ごと斬れ!!」
女が叫ぶ。
「心配するな。元よりそのつもりだ!!」
速い!
今まで見たどれよりも速い。
ソウザは一気に距離を詰め、上段から振り下ろす。
「お前!」
剣筋には女がいるが、お構いなしだ。
俺は彼女の手を離し、やつの剣をいなしながら、横に身をかわす。女はその隙にその場を離れた。
「これで邪魔は入らんか。クレハ、手は出すな。久しぶりの強者だ。俺がやる。」
決闘がお望みか。戦況も気になるが、今はこのソウザという男をどうにかする事が先決か。
「そっちの兵は戦闘不能なんだがな。素直に退いてはくれないか。」
「なぜ退く必要がある?龍騎は、まだ俺がいる。さぁ、命を燃やそうではないか。」
奴は長剣を俺に向けた。
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ。後悔すんなよ!」
俺は、ソウザとの距離を一気に詰め、奴の右側から刀を振りぬいた。
「!?」
反応できていない。これで終わりだな。




