21 ヘラス公国
「悠弥!」
ですよね~。俺は正座させられている。
「え~っと、俺はなぜ正座させられているんでしょうか?」
「黙りなさい。」
はい。
「ブレインで問題を起こしてきたかと思えば、今度は、イブリスの姫ですか!」
「いや、これにはわけがあってだな。」
「分かりますよ。だって、お父様と同じですから。でも、でもぉぉぉぉ!」
「なんですの、あなたの正妻は、側室が増える事が不満ですのね。それなら、私が正妻となります。どうぞ、その身をお引きくださいませ。」
「くぅぅぅ。あの余裕。私は負けませんからね!」
これにより、セルザインとイブリスは正式に軍事同盟を締結した。俺は関係ないけど、狸爺がなんかしたんだろうと思っている。利用されたな。
「悠弥、そろそろ殿下も限界だと思う。次のヘラス公国には、同行してもらったほうがよいのではないか?」
「やっぱりそう思うか?」
「悠弥が分かっているなら、私は何も言わない。」
狸爺のところに行かないとダメか。
「オリビア、バルフェルトに会いに行く。」
「どうしたの?」
「次の旅は、お前と一緒だ。」
「本当ですか?」
「詠唱魔法、使えるようになったんだろ?」
「えぇ、やっと出来るようになりました!」
「なら、たぬ、、、国王に許可を貰いに行かないとな。」
「では、すぐに行きましょう!」
オリビアは、すばやく準備を済ませ、戻ってきた。
-セルザイン王国・応接室-
「というわけで、ヘラス公国に行くために、オリビアも連れていくことになった。」
もちろん勇者召喚の事は伏せている。
「見聞を広げるためか。すまんな。どうして、こうお転婆に育ってしまったのか。」
本人の資質もあるだろうが、完全に親のせいだろ。とは言えないな。
「剣はまだまだだが、魔法はそれなりに使えるようになってるから、そう心配する事もない。」
「では、ヘラス公国には、外交という形で、書簡を送っておく。公国とは、昔からの付き合いだ。それほど問題も起こるまい。」
「じゃぁ、行ってくる。」
俺たちは、ヘラス公国に向かった。今回は、王女同行もあり、王国内では、護衛を数百人引き連れて、移動することになった。
目的地は、北に2週間ほどだ。王国から続く街道沿いは、比較的平和で、モンスターが襲ってくる事も少ない。警備隊も巡回しているため、野盗などのグループも比較的少ないのだという。
異世界ものだと、外に出るたびにアクシデントに遭遇する事が定番だが、そんな事はなかった。実際、そんなにイベントが発生していたら、どっかで破綻するに決まっている。
こうして、何もないままヘラス公国に入国し、最低限の護衛を残して、俺たちは首都グ・ヘラスに入った。首都の入口には、すでに迎えが待機しており、俺たちは、国賓専用の屋敷へと案内された。
「さすが王女様だな。」
「茶化さないでください。私は、悠弥とゆっくり楽しみたかったのに、、、」
オリビアは、少し拗ねている。自分の立場は理解しているだろうから、少し愚痴を言いたいだけだろう。
「そうだな。俺もオリビアとゆっくりしたかったよ。」
「本当ですか!」
「あぁ、本当だ。」
オリビアは、嬉しくて小躍りしている。たまにはこういうのも良いもんだ。
「失礼します。」
今回の王女訪問のために、派遣された執事だ。
「ヘラス公国執政官フベル・ハウエルズ様が、面会を求めておられます。」
俺はオリビアを見る。
「分かりました。では、応接室でお待ちいただくようお願いできますか?」
「かしこまりました。」
「執政官ってのは、どういうやつなんだ?」
「この国の行政府のトップです。」
「結構な大物が出てきたな。」
「私のせいでしょうね。お父様が来られていたら、大公殿下が来られたと思います。」
「貴族の世界は、ややこしいな。」
「これも王侯貴族の務めです。」
俺たちは、応接室に入る。すでに執政官は入っていた。
「これは、オルリベイラ王女殿下。お久しぶりですな。」
「フベル殿、この度は、手厚い歓待、誠に感謝いたします。」
さすがは我らの王女様だ。感心した。
「何でも、この度は見聞を広げたいと、我が国へ滞在されるとの事。前回、お越しいただいたのは、9年前でしたな。まだ十もいかぬ頃だったと記憶しております、、、」
フベルはずっと話している。オリビアも嫌な顔ひとつ見せずに、見事に応対していた。
「ところで、大公殿下から教えていただいたのですが、王女殿下はご結婚されたと聞きましたが、本当なのですか?」
「えぇ、ここにおります悠弥が、私の夫でございます。」
「なんと、それはめでたいですなぁ。」
俺を見るフベルの目が、少し気になる。
「私は、てっきり大公子殿下と結婚されるものと思っておりました故、びっくりしておる次第です。」
オリビアは、俺が動く前にその気配を感じ取り、
「陛下と大公殿下が、旧知の仲である事は承知しておりますが、それとこれとは話が別と考えております。もし、そのような事で、互いの関係を心配されるようでしたら、大公女殿下がおられるではありませんか。」
少しフベルの顔が曇ったように見えた。
「そうでございますな。殿下のお顔も拝見できた所で、私はこれにて、失礼いたします。」
奴は帰っていった。俺は、防音結界を張る。
「あいつの目が気になるな。」
「はい、私もです。」
「気配察知に反応はなかったから、間者が隠れているとかは無いかもしれないが、執事たちは怪しいな。」
「確実に息は掛かっていると思って、行動したほうが良いでしょう。」
そして、3日後、やはりと言っていいか、予想通り、彼らは仕掛けてきた。大公が絡んでいるかどうかは分からないが、朝から、屋敷の前に、憲兵が押し掛けた。
「こちらは、憲兵隊である。この屋敷に、悠弥殿がおられると聞いている。」
何もしてなくても、何かした事になっているのが、貴族連中の十八番だな。
「俺が悠弥だが、何か用か?」
「貴公に出廷命令が出ておる。速やかに裁判所に出廷願う。」
「何の罪だ?」
「強姦罪である。」
オリビアが怒りそうだ。
「いつだ?」
「それは分からん。」
「分からないのに、出廷か。了解した。すぐに行くと伝えておけよ。」
-裁判所-
出廷した俺は、大公を中心に円形に並ぶ貴族たちを前に、冒頭陳述を聞いていた。
「悠弥よ、今の内容はまことか?」
大公が、俺を見る。
「部屋を一歩も出ていないし、俺の部屋はシイカが護衛になっています。彼女を証人として、呼びたいのですが、いいですか?」
「殿下、この者は嘘を言っております。そのシイカとやらも、悠弥の妻でございます。協力者の可能性を捨てきれません。」
どんな理由だよ。フベルの自信満々の顔が少し鼻につく。
「こちらには、屋敷の執事から、侍女に至るまで、目撃者が多数います。」
どうやら、手籠めにされた所を見たやつがいるらしい。
「あぁ、そんなに目撃者がいるなら、もう言い逃れできない、、、」
なんで、俺がこんな三文芝居をしなきゃならんのだ。フベルがニヤリと笑う。
「悠弥殿に手籠めにされた侍女は、大公子殿下が王女のためにと、自ら選抜されて、用意された者でございます。その侍女を手籠めにしたとあっては、相当な罰でなければ、済みますまい。」
大公子の名前を出したな。終わりだな。
「悠弥よ、今の証言に異論はあるか?」
「ありますね。」
「申してみよ。」
「俺は一歩も外に出ていないというのは、嘘でした。」
「聞きましたか!奴は嘘をついています。」
ここぞとばかりに、奴は吹聴する。
「では、どこにいたと申す。それを証明できる者はおるのか?」
「私は公国にいる間、フベル殿と面会する以外は、セルザイン王国で、国王陛下とお茶をしておりました。」
「何をバカなことを!」
フベルは鼻で笑っている。勝ちを確信した顔だ。
「悠弥、虚言にせよ、それはあまりにも過ぎるのではないか?」
「では、証明してみせましょう。」
俺はゲートを開く。
「それは何じゃ?」
「これが、あなたが虚言だと言ったものの正体です。少しお待ちください。」
俺はゲートを潜り、バルフェルトを呼んできた。
「悠弥、これはどういう状況だ?見た所、裁判所に見えるが。」
「裁判所だよ。」
「な、なぜバルフェルト殿がおるのだ?何かの幻覚か?」
「ベーグ大公ではないか、久しいのぉ。」
「これは俺のスキルで、自分の思った場所に移動できるものだ。距離は関係ない。」
「なんと、そのようなスキルが存在するのか?」
「今、目の前に。」
大公は、ゲートに近寄り、バルフェルトを見る。
「大丈夫だ。これはセルゲインに繋がっておる。ほれ、行くぞ。」
バルフェルトは、ベーグの腕を掴み、一緒に入ってしまった。
「殿下!!」
周囲が騒ぎ出すが、少しして、二人で戻ってきた。
「セルザインであった。」
「だろ?俺とオリビアは、ずっとセルザインにいたんだ。どうやって、侍女を手籠めにするんだ?」
フベルの顔が怒りと焦りに満ちていく。
「とうとう自分で自白しましたね!侍女は、このスキルによって、連れ去られたんです。どこにでも侵入できるこのスキルで。もう言い逃れできませんぞ。」
「で、どこで攫われたんだ?」
「そ、それは様々な場所でです。」
「具体的には?侍女さん、応えてくれるか?」
侍女は震えている。
「し、使用人部屋です。」
「そうか。一つ言い忘れていたんだが、このスキルは、俺が行った場所で、記憶している場所にしか移動できない。俺は、あの屋敷には1日目のフベル殿が来るまでしかいなかった。それに、使用人室がどこにあるかなんて、知るわけがない。俺が1日目に、ずっとオリビアといた事は、執事が証言してくれた。さて、どうしようか?」
全員がゲートに驚いて、裁判どころではない。
「さて、もし俺が国王陛下とお茶をしていた事が嘘であると言うなら、あなたは、それを証言した国王陛下の証言が間違っていると言っているに等しいが、それでよろしいか。フベル殿?」
階級社会のこいつらが、自分より身分の高い者の証言を嘘呼ばわりする事は、まずない。あってはならない。俺の理屈に、どんな穴があろうと、それは通る。
「もうよい。」
ベーグは、ため息をついた。
「悠弥殿、此度はすまなかった。」
ベーグは、頭を下げようとする。またこのパターンかよ。
「大公様が、頭を下げちゃダメだぜ。俺は、貴族でもないし、王国の何かでもない。」
「気遣い、感謝する。では、これより沙汰を言い渡す。悠弥殿は、無罪。続いて、冤罪を掛けたフベルは、身柄を拘束後、裁判とする。以上」
色々と杜撰な部分はあるが、これで幕引きとなった。
後日、ヘラス城に招待された俺たちは、大公と謁見する。
「オルリベイラ王女、並びにその夫である悠弥殿。此度は我が配下が迷惑を掛けた。」
我が配下ね。公の場で、これで手打ちにしましょうって話ね。
「今回の件、大公殿下の見事な采配により、王国と公国が袂を分かつ事など、ありえません。今後とも、両国の発展のため、手を取り合い、共に歩みましょう。」
「王女の言葉、しかと受け取った。悠弥殿、此度の件、貴殿が当事者である。何か望むことはあるか?」
「特にありませんね。元々、王女殿下との新婚旅行でしたので、両国間で合意が取れたのなら、それで問題ありません。」
「では、これにて、失礼いたします。」
オリビアは一礼し、俺たちは部屋をあとにした。
「悠弥、大人しくできるのですね。」
「今、関係が良好な国と、亀裂を生む意味がないだけだよ。オリビアたちが教えてくれる情報があるから、助かってる。」
俺たちは、拠点に戻った。
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