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【連載】異世界における特異点  作者: とぐさ
第一章 今より少しマシな未来へ
19/46

19 イブリス魔王国

「悠弥!なぜ帰ってきてくれなかったのですか!」


 俺は今、オリビアに正座させられている。


「いやね、オリビアさん。」


「黙りなさい。」


 はい。


「約束しましたよね?毎日帰ってくるって!何日もシイカと二人っきりで!」


「そっちかよ。別に何も起こってないよ。」


「そうです、殿下。ブレインでは、色々ありまして、帰れるタイミングを失っていたんです。」


「その色々を教えていただきましょうか。」


 俺たちは、ブレインで起こった出来事を報告した。


「で、その司教を追い返したのね。これはお父様に報告しないといけないです。」


「やっぱりそうなるか。」


「当たり前です。悠弥がどう思ってい様と、向こうにとっては、セルザイン王国から来た人物が、司教に手を出した形になるのです。悠弥が何者かは、関係ないのです。」


「よくある話だ。」


「分かってやってたなら、余計に質が悪いです!もう!!」


 すまん、オリビア。


「まぁ、いいです。ブレインへの対応は、お父様に丸投げします。」


 バルフェルト、すまん。


「で、次はイブリスですか?」


「あぁ、こればっかりは、順番にやっていくしかないな。」


「出発はいつにしますか?」


「2日後には出る。その間に、馬車を少し改造する。」


 俺がゲートで戻ろうとした時、オリビアは背中から抱き着いた。


「悠弥、毎日とは言わないです。シイカだけでなく、私のことも構ってください。」


「そうだな。寂しい思いをさせて、すまん。」


 俺たちは、聖都のはずれの村へ移動した。



 イブリス魔王国は、魔王を中心とした軍事国家だ。魔王は選抜制で、現魔王が引退、死亡、挑戦者が現れると、魔王選抜が開催される。現魔王が王座に就いてからは、303年が経過している。


 種族は、魔族がその大半を占め、とくに差別などはないが、好戦的な性格も相まって、喧嘩はほぼ毎日どこかで起こっている。


 生活スタイルは、ヒューマン種と大差ない。文化的にも、他国と交流があるため、一定のレベルには到達している。ただ、戦闘スタイルに種族差があり、魔力が非常に強いために、身体強化でぶん殴るというシンプルな力押しが多い。


 イブリスまでの道程は順調だった。イブリスの最初の町までは1ヶ月ほどで到着。


「悠弥、魔族は相手の魔力を感じ取る能力に長けているので、確実にあなたは人気者になると思います。」


「なんか含みがあるな。」


「えぇ、魔族は非常に好戦的です。1mの距離ですれ違っても、”今、魔力が当たった”とかで、絡んで来る輩もいます。」


「厄介極まりねぇな。」


「ある程度、強さを見せれば、それも収まるかもしれませんが、1つ町に寄るごとに、1回は戦う必要があると思います。」


 ため息が出る。それで何かが楽になるなら、必要か。


「では、行きますよ。すでに何名かは、私たちに興味を持っている様子です。」


 馬車も落ち着いて、降りられないのかよ。よく国家として、やっていけるな。


 で、予想通り、馬車を一歩降りた瞬間、絡まれた。


「よう、ヒューマン。こんなとこまで何しに来た?」


 魔族の男が、女をはべらせて、絡んでくる。


「魔都に行く物資を補給するために、少し立ち寄っただけだ。貴方たちの文化は、十分に理解しているが、ここは穏便に通してもらいたい。」


 シイカが対応してくれるが、彼は聞く耳を持たないといった態度だ。


「そうかよ。俺は、そっちのにーちゃんに用があるんだ。」


「だから、、、」


「シイカ、いいよ。で、俺に何の用があるんだ?あっちで話をするか?」


 広場に大きな円形闘技場らしきものが見えたので、そっちを見る。


「話が早くて、いいねぇ。話が分かる奴は、キライじゃねぇ。」


 周囲がざわついている。


「あいつ、ブロンとやる気か?」

「正気かよ。」

「これだから、ヒューマンは、、、」


 などと、好き勝手言っているが、どうやら、あの男はブロン、相当な強者なのだろう。

 俺たちは、中央で向き合う。


「さぁ、喧嘩を始めようか!」


 合図は誰がするのかと考えていた矢先、ブロンが殴りかかってきた。ほぼルール無用。まさに喧嘩なのだろう。


 奴の右大振りは空を切る。もちろん躱したためだ。


「おっ、やるねぇ。最近、俺と喧嘩するやつも少なくなってきてな。久しぶりに熱くなってきたぜ。」


「3回。」


「はっ?」


「今の間に、お前は3回、倒れている。ぐだぐだ言ってねぇで、掛かってこい。」


「面白い!面白いぞ、ヒューマン!俺に啖呵を切ったやつは、ごまんといるが、お前のそれは、虚勢じゃねぇな!」


 奴が飛び掛かってくる。


 奴の右のハイキックを前傾で躱し、その勢いで左の踵落としを繰り出すが、ブロンは、両腕でブロック。俺の足を掴もうとしてきたところに、右足の踵落としを浴びせる。


「なんだぁ、この技は!?」


 奴は寸でのところで、首をひねり、左肩で受けた。


「あそこでよく躱したな。」


「俺も久々の本気だあ!」



 HUDが”強化増大”を表示。身体強化の強度があがったのだろう。


 再び、ブロンが飛び掛かってくるが、スピードが段違いに上がっている。


 奴は組技に行こうとしてるのか、俺の左袖を掴む。



「取ったぁ!」


 俺は奴の右腕を内側から巻き取り、右腕を外す。ブロンの左腕が飛んでくるが、そのまま背負い投げ、


「くそがぁ!」


 粘ろうとしてくるが、もう遅い。”バキッ”と大きな音を立てて、ブロンは盛大に床に叩きつけられた。


「終わりだな。」


 ブロンが立ち上がる。奴は右腕を抑えながら、俺を見ている。


「俺の負けだ。まさか、俺が負けるとはな。お前、何もんだ?はっはっはっはっ!」


 笑っている。


「折れてるだろ?」


「あぁ、折れてる。まさか投げられたあとに、折られるとは思わなった。力でも技でも負けたな。」


「俺は強いからな。」


「気持ちいい奴だな。今から、俺と来い。飲むぞ。」


 俺はシイカを見ると、頷いている。


「分かった分かった。」


 俺は、歓声を受け、ブロンと酒場に入った。


「まずは、自己紹介からだ。俺はこの町を納める領主のブロンガスだ。」


「やはりか、ブロンと聞いて、もしやと思っていたが、魔王軍四魔将だな。」


「おっ、ねーちゃんは、俺を知ってるのか。」


「名前は、聞き及んでいる。」


 そんなすごい奴だったのか。


「魔王さまが、この国に強者が入国したとおっしゃってな。町を歩いていたお前たちを見て、もしやと思ったわけだ。」


「で、俺たちは、どうだった?」


「どうも何も、俺の負けだ。で、お前たちは何しにきた?」


「ちょっとした旅行だよ。こう見えて、俺たちは夫婦でな。少しばかり前に、結婚したばかりだ。」


「そいつはおめでたいな。」


「あぁ、だから、ゆっくりと、、、」


「それを信じると思うか?お前の事は分からないが、そっちの嬢ちゃんは、セルザイン王国、オルリベイラ王女護衛騎士シイカ・ベント嬢だろ?」


 シイカは有名だったのか。


「で、俺たちは何をしたらいい?」


「魔都へは、俺たちが案内しよう。魔王様に会ってもらいたい。」


「そんなに簡単に、信用して大丈夫か?」


「俺たち魔族は、ただ喧嘩してるわけじゃない。相手と拳で語り合ってんだ。お前が悪い奴じゃない事は分かった。」


「そうかい。そいつはどうも。」


「では、今からでも出発する。」


 もう昼過ぎてるぞ。


「もっとゆっくりしたいんだが?」


「大丈夫だ。騎乗竜に乗っていく。魔都までは、4時間ってところか。」


 異世界の定番来たな。俺たちは、ブロンに案内され、魔都へと向かう。



-魔都ジャーク・魔王城 魔王の間-


「四魔将ブロンガス、参上いたしました。」


「入れ。」


 左右にズラリと並ぶ魔族。その最奥に鎮座しているのが魔王だろう。

 玉座の前で、ブロンとシイカはひざを折る。


「貴様、魔王様の御前である。」


 兵士が俺に声をあげる。


「よい。貴公、名は?」


「悠弥だ。」


「悠弥、なぜ我を前に、膝をつかぬ?」


「つく理由がないからだ。」


「ここが魔王国であると分かっての返答であるな?」


「もちろんだ。」


 シイカが「悠弥、悠弥」と、呟きながら、俺の服を引っ張っている。


「陛下!」


 ブロンが割って入る。


「ブロンガス、申せ。」


「はっ。この男は私に勝利いたしました。」


「ほう。ブロンガスに勝ったか。それが何か、今の状況と関係があるのか?」


「非常に申し上げにくいのですが、、、」


 ブロンガスは震えている。


「よい、申してみよ。」


「私の本気を、赤子の手を捻るかのように、、、この男は、、、魔王様より、、、」


 魔王の間に、赤い閃光が走った。


「おい、自分の部下に何やってんだ。」


 俺は、ブロンガスにシールドを張った。シールドの一部がまるで熱を帯びたように赤く光っている。

 危険察知が無かったら、危なかったな。


「これを防いぐか。ふむ、、、だが、我より強者である理由にはならんな。」


 シイカが、「悠弥、落ち着いて!」と、俺にしがみつき止めている。


「その自信がどっから来るか分かんねぇが、あんたより強かったら、文句ないんだな。」


「やってみせよ。」


 大した自信家だ。


「!?」


 俺は、魔王の首に、刀を突き付けた。周囲がざわつく。


「あと少し力を入れたら、この国はどうなるんだ?」


「、、、」


 魔王の額には、汗が滲む。俺は、刀を外した。


「見えてねえのは、防げないってことだ。どうする?俺は、この国が欲しいわけじゃない。ちょっと話をしに来ただけだ。あんたは魔王だろ?」


 俺は、囁いた。


「ふむ。我の隙をつく、見事な攻撃であった。その勇気に免じ、ブロンガスも不問とする。」


「油断してたところに、運もあった。”今回は”こっちに天秤が傾いただけだ。次はどうなる分からないな。」


「では、のちほど、貴公らとは、別室にて、話をするとしよう。」


 これにて、謁見は終わりとなる。

読んでいただきありがとうございます。


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