19 イブリス魔王国
「悠弥!なぜ帰ってきてくれなかったのですか!」
俺は今、オリビアに正座させられている。
「いやね、オリビアさん。」
「黙りなさい。」
はい。
「約束しましたよね?毎日帰ってくるって!何日もシイカと二人っきりで!」
「そっちかよ。別に何も起こってないよ。」
「そうです、殿下。ブレインでは、色々ありまして、帰れるタイミングを失っていたんです。」
「その色々を教えていただきましょうか。」
俺たちは、ブレインで起こった出来事を報告した。
「で、その司教を追い返したのね。これはお父様に報告しないといけないです。」
「やっぱりそうなるか。」
「当たり前です。悠弥がどう思ってい様と、向こうにとっては、セルザイン王国から来た人物が、司教に手を出した形になるのです。悠弥が何者かは、関係ないのです。」
「よくある話だ。」
「分かってやってたなら、余計に質が悪いです!もう!!」
すまん、オリビア。
「まぁ、いいです。ブレインへの対応は、お父様に丸投げします。」
バルフェルト、すまん。
「で、次はイブリスですか?」
「あぁ、こればっかりは、順番にやっていくしかないな。」
「出発はいつにしますか?」
「2日後には出る。その間に、馬車を少し改造する。」
俺がゲートで戻ろうとした時、オリビアは背中から抱き着いた。
「悠弥、毎日とは言わないです。シイカだけでなく、私のことも構ってください。」
「そうだな。寂しい思いをさせて、すまん。」
俺たちは、聖都のはずれの村へ移動した。
イブリス魔王国は、魔王を中心とした軍事国家だ。魔王は選抜制で、現魔王が引退、死亡、挑戦者が現れると、魔王選抜が開催される。現魔王が王座に就いてからは、303年が経過している。
種族は、魔族がその大半を占め、とくに差別などはないが、好戦的な性格も相まって、喧嘩はほぼ毎日どこかで起こっている。
生活スタイルは、ヒューマン種と大差ない。文化的にも、他国と交流があるため、一定のレベルには到達している。ただ、戦闘スタイルに種族差があり、魔力が非常に強いために、身体強化でぶん殴るというシンプルな力押しが多い。
イブリスまでの道程は順調だった。イブリスの最初の町までは1ヶ月ほどで到着。
「悠弥、魔族は相手の魔力を感じ取る能力に長けているので、確実にあなたは人気者になると思います。」
「なんか含みがあるな。」
「えぇ、魔族は非常に好戦的です。1mの距離ですれ違っても、”今、魔力が当たった”とかで、絡んで来る輩もいます。」
「厄介極まりねぇな。」
「ある程度、強さを見せれば、それも収まるかもしれませんが、1つ町に寄るごとに、1回は戦う必要があると思います。」
ため息が出る。それで何かが楽になるなら、必要か。
「では、行きますよ。すでに何名かは、私たちに興味を持っている様子です。」
馬車も落ち着いて、降りられないのかよ。よく国家として、やっていけるな。
で、予想通り、馬車を一歩降りた瞬間、絡まれた。
「よう、ヒューマン。こんなとこまで何しに来た?」
魔族の男が、女をはべらせて、絡んでくる。
「魔都に行く物資を補給するために、少し立ち寄っただけだ。貴方たちの文化は、十分に理解しているが、ここは穏便に通してもらいたい。」
シイカが対応してくれるが、彼は聞く耳を持たないといった態度だ。
「そうかよ。俺は、そっちのにーちゃんに用があるんだ。」
「だから、、、」
「シイカ、いいよ。で、俺に何の用があるんだ?あっちで話をするか?」
広場に大きな円形闘技場らしきものが見えたので、そっちを見る。
「話が早くて、いいねぇ。話が分かる奴は、キライじゃねぇ。」
周囲がざわついている。
「あいつ、ブロンとやる気か?」
「正気かよ。」
「これだから、ヒューマンは、、、」
などと、好き勝手言っているが、どうやら、あの男はブロン、相当な強者なのだろう。
俺たちは、中央で向き合う。
「さぁ、喧嘩を始めようか!」
合図は誰がするのかと考えていた矢先、ブロンが殴りかかってきた。ほぼルール無用。まさに喧嘩なのだろう。
奴の右大振りは空を切る。もちろん躱したためだ。
「おっ、やるねぇ。最近、俺と喧嘩するやつも少なくなってきてな。久しぶりに熱くなってきたぜ。」
「3回。」
「はっ?」
「今の間に、お前は3回、倒れている。ぐだぐだ言ってねぇで、掛かってこい。」
「面白い!面白いぞ、ヒューマン!俺に啖呵を切ったやつは、ごまんといるが、お前のそれは、虚勢じゃねぇな!」
奴が飛び掛かってくる。
奴の右のハイキックを前傾で躱し、その勢いで左の踵落としを繰り出すが、ブロンは、両腕でブロック。俺の足を掴もうとしてきたところに、右足の踵落としを浴びせる。
「なんだぁ、この技は!?」
奴は寸でのところで、首をひねり、左肩で受けた。
「あそこでよく躱したな。」
「俺も久々の本気だあ!」
HUDが”強化増大”を表示。身体強化の強度があがったのだろう。
再び、ブロンが飛び掛かってくるが、スピードが段違いに上がっている。
奴は組技に行こうとしてるのか、俺の左袖を掴む。
「取ったぁ!」
俺は奴の右腕を内側から巻き取り、右腕を外す。ブロンの左腕が飛んでくるが、そのまま背負い投げ、
「くそがぁ!」
粘ろうとしてくるが、もう遅い。”バキッ”と大きな音を立てて、ブロンは盛大に床に叩きつけられた。
「終わりだな。」
ブロンが立ち上がる。奴は右腕を抑えながら、俺を見ている。
「俺の負けだ。まさか、俺が負けるとはな。お前、何もんだ?はっはっはっはっ!」
笑っている。
「折れてるだろ?」
「あぁ、折れてる。まさか投げられたあとに、折られるとは思わなった。力でも技でも負けたな。」
「俺は強いからな。」
「気持ちいい奴だな。今から、俺と来い。飲むぞ。」
俺はシイカを見ると、頷いている。
「分かった分かった。」
俺は、歓声を受け、ブロンと酒場に入った。
「まずは、自己紹介からだ。俺はこの町を納める領主のブロンガスだ。」
「やはりか、ブロンと聞いて、もしやと思っていたが、魔王軍四魔将だな。」
「おっ、ねーちゃんは、俺を知ってるのか。」
「名前は、聞き及んでいる。」
そんなすごい奴だったのか。
「魔王さまが、この国に強者が入国したとおっしゃってな。町を歩いていたお前たちを見て、もしやと思ったわけだ。」
「で、俺たちは、どうだった?」
「どうも何も、俺の負けだ。で、お前たちは何しにきた?」
「ちょっとした旅行だよ。こう見えて、俺たちは夫婦でな。少しばかり前に、結婚したばかりだ。」
「そいつはおめでたいな。」
「あぁ、だから、ゆっくりと、、、」
「それを信じると思うか?お前の事は分からないが、そっちの嬢ちゃんは、セルザイン王国、オルリベイラ王女護衛騎士シイカ・ベント嬢だろ?」
シイカは有名だったのか。
「で、俺たちは何をしたらいい?」
「魔都へは、俺たちが案内しよう。魔王様に会ってもらいたい。」
「そんなに簡単に、信用して大丈夫か?」
「俺たち魔族は、ただ喧嘩してるわけじゃない。相手と拳で語り合ってんだ。お前が悪い奴じゃない事は分かった。」
「そうかい。そいつはどうも。」
「では、今からでも出発する。」
もう昼過ぎてるぞ。
「もっとゆっくりしたいんだが?」
「大丈夫だ。騎乗竜に乗っていく。魔都までは、4時間ってところか。」
異世界の定番来たな。俺たちは、ブロンに案内され、魔都へと向かう。
-魔都ジャーク・魔王城 魔王の間-
「四魔将ブロンガス、参上いたしました。」
「入れ。」
左右にズラリと並ぶ魔族。その最奥に鎮座しているのが魔王だろう。
玉座の前で、ブロンとシイカはひざを折る。
「貴様、魔王様の御前である。」
兵士が俺に声をあげる。
「よい。貴公、名は?」
「悠弥だ。」
「悠弥、なぜ我を前に、膝をつかぬ?」
「つく理由がないからだ。」
「ここが魔王国であると分かっての返答であるな?」
「もちろんだ。」
シイカが「悠弥、悠弥」と、呟きながら、俺の服を引っ張っている。
「陛下!」
ブロンが割って入る。
「ブロンガス、申せ。」
「はっ。この男は私に勝利いたしました。」
「ほう。ブロンガスに勝ったか。それが何か、今の状況と関係があるのか?」
「非常に申し上げにくいのですが、、、」
ブロンガスは震えている。
「よい、申してみよ。」
「私の本気を、赤子の手を捻るかのように、、、この男は、、、魔王様より、、、」
魔王の間に、赤い閃光が走った。
「おい、自分の部下に何やってんだ。」
俺は、ブロンガスにシールドを張った。シールドの一部がまるで熱を帯びたように赤く光っている。
危険察知が無かったら、危なかったな。
「これを防いぐか。ふむ、、、だが、我より強者である理由にはならんな。」
シイカが、「悠弥、落ち着いて!」と、俺にしがみつき止めている。
「その自信がどっから来るか分かんねぇが、あんたより強かったら、文句ないんだな。」
「やってみせよ。」
大した自信家だ。
「!?」
俺は、魔王の首に、刀を突き付けた。周囲がざわつく。
「あと少し力を入れたら、この国はどうなるんだ?」
「、、、」
魔王の額には、汗が滲む。俺は、刀を外した。
「見えてねえのは、防げないってことだ。どうする?俺は、この国が欲しいわけじゃない。ちょっと話をしに来ただけだ。あんたは魔王だろ?」
俺は、囁いた。
「ふむ。我の隙をつく、見事な攻撃であった。その勇気に免じ、ブロンガスも不問とする。」
「油断してたところに、運もあった。”今回は”こっちに天秤が傾いただけだ。次はどうなる分からないな。」
「では、のちほど、貴公らとは、別室にて、話をするとしよう。」
これにて、謁見は終わりとなる。
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