18 ブレイン聖国
まず最初に向かったのが、ブレイン聖国だ。オリビア、シイカの話と、王立図書館の歴史書に記された勇者召喚を行った国。
国王は、聖王と名乗り、教会のトップがそのまま国王となる。
宗教は、ヒシム教。唯一神ヒシムを崇拝する。書物によると、600年前に新興した宗教だ。
俺たちは、王都に立ち寄り、馬車を調達。ブレイン聖国に向けて、出発した。
「悠弥、ブレインでの注意だが、、、」
「他の宗教を名前は出すな、とかか?」
「そうだ。よく分かってる。さすが、悠弥。」
「大体、宗教がらみは、そうだろう。特に今回は、向こうにゲートを開くための旅だ。面倒は起こしたくない。」
「ここ最近の出来事は、各国の間者は掴んでいると思ったほうがいい。」
「そうだよな。ちょっかいを出してきてないところを見ると、まだ正体までは分かっていないか、想定を超えたせいで、対応に困っているのか。どちらにせよ、バレてると思って、行動する。」
「ですね。今はセルザイン国内なので、派手な動きは見せませんが、相手の土俵となると、少し不安もあります。」
「あれこれ考えても結局、出たとこ勝負になるな。」
こうして、1か月後、俺たちはブレイン聖国に入国した。
「聖都までは、10日掛かるので、怪しまれないよう、どこかの村か町で、補給を兼ねた休憩を取ろうと考えているのだが、悠弥もそれでいいか?」
「そうだな。もう仮想敵国だからな。」
入国から4日後、小さな宿場町についた。
「情報では、聞いていましたが、まさかブレイン国内が、これほど荒廃しているとは、思ってもいませんでした。」
俺たちは、街並みを見て、絶句した。大通りには、浮浪者が両脇を固め、整備もされておらず、建物は崩れ落ちているものも見える。
「嫌な予感しかしねぇな。」
そんな気持ちを抱えつつ、宿を探した。
「一泊銀貨30枚だ。馬車は、裏の厩舎に止めな。」
「たかっ、、、主人よ。価格を間違ってはいないか?」
「間違ってないよ。それが嫌なら、野宿でも何でもしな。こっちだって、商売なんだ。」
俺たちは、顔を見合わせる。
「しょうがない、1泊で3部屋頼む。」
「はい、毎度。」
「悠弥、2部屋でいいじゃないか?私たちは夫婦だろ?それとも、私では不服か?」
「お前、その聞き方は卑怯だぜ。2部屋で頼む。」
「はいよ。これがカギだ。」
俺たちは、部屋に入った。
「一度、家に帰ろうと思ったんだが、、、これは、どうするか、、、」
「悠弥、どうした?」
「たぶん、囲まれてる。この町に入った時から、一定間隔で付いてくる気配があるとは思っていたんだが、戦乙女だけでも返すか。相手がどう出るか分からん。俺とシイカは同じ部屋だから大丈夫だが、戦乙女とあいつらの実力差がはっきりしない以上、リスクは減らすべきだな。」
「分かった。彼女らを呼んでくる。」
彼女たちを、拠点に戻し、俺とシイカは、常に二人で行動しながら、夜を待った。
-ぎぃぃぃ-
部屋の扉が開く。
(正面から来るのか)
暗い部屋の中、俺たちは身構える。
「悠弥様でいらっしゃいますか?」
その男は言った。殺気はない。
「だったら、なんだ?」
「これは失礼。私は、ブレイン聖国の大司教級貴族コール様より、命を賜り、お迎えにあがった次第でございます。」
随分と大物が出てきたな。
「用件は何だ?」
「我が主は、あなた様に一度、御目通り願えないかと思っております。どうか、ご一考ください。」
シイカを見ると、小さく頷いた。
「茶菓子はうまいんだろうな?妻は甘いものには、少々うるさいぞ。」
「ありがとうございます。最上級のものをご用意いたします。では、ご案内いたしますので、ご同行願います。」
「敵じゃないみたいだな。敵意や殺気は感じない。」
俺はシイカに耳打ちをする。
「私もそう思う。朧気ではあるが、コールと言う名に聞き覚えがある。」
「分かった。行こうか。」
俺たちは、3日掛けて、貴族が待つ屋敷に到着した。
応接室と思われる部屋に通される。少しして、その人物は現れた。
「いやぁ、来てもらえて、嬉しいよ。」
それは20代後半くらいと思われる青年だった。
「僕が、ザイナー家当主のコールだ。よろしく頼むよ。」
気さくそうな男だ。
「さっそく本題に入りたいんだけど、いいかな?」
「良くないな。」
約束が違う。
「貴様!ご当主様からのお言葉に、異を唱えるとは、何事か!」
コールの後ろにいた屈強な男が、声を荒げる。それを見たコールが、”あっ!”という顔見せる。
「よい。彼は、礼儀の話をしている。悠弥殿、これは失礼した。」
彼は、2回手を叩くと、執事と思われる男が、茶菓子を持ってきた。
「これでお話させてもらえるかな?」
「あぁ、いいお茶だ。これで妻も満足させられる。じゃあ、話を聞こうか?」
屈強な男は、何か言いたそうだったが、コールが止めていた。
「悠弥殿のお噂は、この国にも届いています。何やら、無知の森にお住まいとか?」
「あぁ、だが、今の話に関係ない話は必要ない。俺とあんたの間には、まだ何も成していない。」
「そうですね。あなたは、権力とか財力とかに興味は無さそうです。では、率直に申し上げると、我々と手を組みませんか?」
「断る。」
俺は間髪入れずに答えた。
「言い方がまずかった。ザイナー家と手を組んでいただきたい。」
「なぜだ?」
「ここに来られるまでに、町を1つ、この町も含めれば、2つをご覧になったと思います。」
「あぁ、酷い有様だった。」
「今の教皇猊下になってから、この国の経済は下落の一途を辿っています。」
「おいおい、まさかクーデターでも起こそうってんじゃないだろうな?」
「まさか、、、そこまでは考えておりません。ただ、私の憶測ではありますが、悠弥殿は、召喚者とお見受けいたします。今の時代、”魔王討伐”など意味なき事。ならば、その使命は何か?世界の変革ではないかと、愚考した次第です。」
中々に鋭いが、
「世界を変えようなんて、思っちゃいない。俺は、俺の邪魔をする者を許さないだけだ。」
「でしたら、今のブレイン聖国は、きっと貴方のためにならない事と思います。」
こういう交渉事は、苦手だ。バルフェルトの時は、自分の力を誇示した上での、ごり押しだったが、そもそも前世でも、人付き合いは得意だったほうじゃない。精一杯やるしかない。
「あんたと組むメリットは?」
「そうですね。現在、セルザインから送られてくる間者を見逃します。これでも私、教会では偉いんですよ。」
「シイカ、どう見る?」
「コール殿、いったん持ち帰ってもよろしいか?」
「どれほどお時間が必要でしょう?」
「1週間ほど。」
「分かりました。では、よいお返事をお待ちしております。」
俺たちが部屋を出ようとした時、
「悠弥殿、我々はあなたの味方ですが、他の者はそういうわけには参りません。私の教会での信用のために、一芝居打たせていただきます。ご対応お願いします。」
「貸しだ。」
俺の言葉に、コールは一礼し、俺たちは宿に戻った。
「さて、とりあえず変な事になったが、今からイブリスに向かう前に、ブレイン聖国に絡まれる。シイカは、どうする?」
「私は、悠弥と共に戦う。」
「そうか。戦乙女は、こっちに呼び寄せない方向でいく。シイカも、装備である程度は、強化されているが、油断はするなよ。」
「分かっている。私も、ずっと訓練を続けてきたのだ。その辺の雑兵などにやられるものか。」
翌日、町の出入り口付近にて、
「そこの男と女、止まれ。」
行きにはいなかった兵士に止められた。
「なんでしょうか?」
シイカが対応してくれる。
「悠弥とシイカ・ベントだな?」
「そうですが、何か?」
「枢機卿が、お待ちである。ご同行願おう。」
出た。教皇じゃなくて、”枢機卿”ね。きな臭くなってきたな。俺が出るべきだな。
「嫌だと言ったら?」
「こちらも手荒な真似はしたくない。速やかに準備せよ。」
「俺は、自由なんだ。別にどこかの臣民でも信徒でもない。枢機卿だか大司教だか知らんが、用があるなら、そっちから来い。」
「貴様!反抗すると言うのか!」
周囲の兵たちが武器を構える。
「シイカ、何人いける?」
「4人なら。」
「十分だ。残りは任せろ。」
俺たちは武器を持つ。もちろん、鞘からは抜いていない。
「抵抗する意志を見せたな!捕縛する!かかれ!」
兵士が一斉に飛び掛かってくる。が、相手にならない。横薙ぎ一閃、ほとんどの兵士をなぎ倒した。
シイカも4人なら、と言っていた割りに、多くを倒していた。
「4人じゃなかったのか?」
「思っていたより、私は強くなっているようだ。悠弥には、感謝しかない。」
「俺のおかげじゃねぇよ。シイカが頑張った結果だ。」
俺たちは武器を納め、他の兵士が固まっている中、「じゃぁ、枢機卿によろしく。」と、町の外に出たところで、
「これだけの数を前に、荒野のごとく進みますか。あなたは、魔王か何かなのですか?」
立派な衣装を身に纏う男が現れた。
「誰だ?」
「申し遅れました。私は、フライスと申します。教会では、司教を務めさせて頂いております。」
「で、その司教さんが何か用か?」
「どうもあなた方には、信仰心が足りていないとお見受けし、私が少し説教をしてさしあげようかと。そうすれば、枢機卿と会う気になっていただけるかと。」
これだから、やってられない。
「信仰心で、腹は膨れないんでな。他所でやってくれ。」
「なんと、神が悲しんでおられる。これはいけません。」
HUDが反応する”法力増大”。ん?魔力とは違うのか?
フライスが、天を仰ぐと、昼間でも分かるほどの光が差し、何かが降りてくる。
「悠弥、まずい。あれは執行者だ。聖国の司祭以上が使えるスキルだと言われている。」
天使みたいなもんか?
「で、シイカは勝てる相手か?」
「前の私では、相打ち覚悟なら、、、しかし、あれはスキルだ。やつと相打ちしたとて、また復活する。」
「そうか。シイカと相打ちなら、そこまでか。」
「複雑だが、悠弥なら、ぎりぎり勝てるのではないかと思う。」
シイカの俺の強さの見立ては、その程度かと、少しがっかりしつつ、
「さぁ、説教を始めましょう!」
俺は、刀を一振り、居合のように抜いた。
-チンー
と、刀が鞘に当たる音だけが響いた。
「どうしたのです!執行者よ!奴を拘束するのです。」
フライスが、それを見た時、真っ二つに割れる。
「バカな!!私の執行者は、ハイクラスですよ?それがこんな、、、」
またHUDが”法力増大”を表示、執行者が出現するが、俺はそれを無情に斬る。
「そんなバカな!バカな!バカな!こんな事があってはならないのです!」
俺がフライスに近づくと、「ひぃっ!」と、尻餅をつく。
「あのな、俺は敵対する気はない。ちょっかいさえ掛けなければ、俺たちから何かをする気はない。」
フライスは、必死にうんうんと頷いた。
「じゃぁ、そういう事だから、俺たちは行くぞ。その枢機卿とやらに、よろしく伝えといてくれ。」
こうして、俺たちは聖都を経由し、次の国へ旅を続ける。
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