17 強くなる二人、受入準備
改稿版
二人が鍛錬を始めてしばらくが経った。
「悠弥、これを見てくれ!」
シイカが嬉しそうに魔法を見せる。
「おっ、魔法陣が展開出来ているな。順調じゃないか。」
「悠弥、私も出来ていますよ。」
「オリビアもきれいに出来てるな。」
一人が褒められると、もう一方が褒めろと迫る。ライバル意識がある事は良い事である。
「今日も俺は工房にいるから、何かあったら声を掛けてくれ。」
「分かった。」
「わかりました。」
悠弥は二人の魔法訓練が落ち着いてきた頃から、武器や防具、魔道具の作成に勤しんでいた。
「ん~、ゲートを魔法石に組み込むには、何か足りないんだよな。」
便利なゲートを魔道具化出来ないかと彼は悩んでいた。このアイテムが完成すると、世界の常識は崩れ去り、そのアイテム一つを巡って、混乱と戦争が起こるだろう。
だが、悠弥はそんな事を承知の上で研究を続けている。待ち受ける勇者召喚で起こりうる全ての可能性を考え、彼無しでもゲートで移動できるようにしたかった。もちろん平時は、そのアイテムの使用は控えてもらうが、何かあってからでは遅い。
「ん?ここのディバネイト板を、、、こう重ねて、、、もう一枚あった方がいいか、、、よし、これでどうだ。」
HUD:
『設置型空間自在』
☆悠弥が開発した設置型ゲート装置。
携行可能。
現在、一か所登録が可能。
「よし!うまくいった。」
悠弥はそのままもう一つ製作し、実験を行う。まずは識別コードを登録し、ペアリングを行う。魔力を流すと、空間の扉が開いた。
まずは正常に起動しているか、適当な物を投げて試す。
「いいねぇ。」
続けて、自分の手を細心の注意を払い、ゆっくりと入れると、対になるゲートへと繋がっていた。
「いけるか、、、」
思い切って、体を入れてみたが、実験はうまくいった。
「よし、あとはもう何個か作って、この拠点に置くゲートステーションはマスターゲートとして、制限は設けない形がいいか。」
ようやく作りたい魔道具がひとつ出来上がった。他にも製作したいアイテムは多々あるが、拠点の拡張もしなければならない。
夜、
「明日から、拠点を拡げようと思うんだが、どれくらいにしたらいいと思う?」
「そうですね。最低でも三〇〇人は生活できるようにした方がいいかもしれません。」
「それはデカくないか?」
「いえ、私の侍女や戦乙女たちが一五〇人程度来ますので、その食料確保のためにはもっと大きいくらいでもいいです。」
「食料問題か。確かに今の畑だと全然足らないか。分かった。」
「悠弥、あと訓練エリアも作ってほしい。」
シイカの希望だ。
「そうだな。戦乙女が来るなら必要か。明日は防壁を拡張するから、二人にも手伝ってもらいたい。たまに森からモンスターが出てくるから、魔法で応戦してくれ。」
「分かりました。実戦訓練ですね。出来る限り、努力します。」
「私も頑張るぞ!」
「二人とも頼りにしてる。」
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翌日、悠弥は防壁の拡張工事に入る。
方法は前回と同様だ。土魔法で成形した一〇メートルの土壁にディバネイト鋼板で外壁を張っていく。
まずは森の伐採からだ。風刃で木々を倒し、ボックスに収納する。
「私たちも挑戦してもいいですか?」
「何してたか分かったのか?」
「はい。風の魔法で木を切り倒したのですね。」
「風を刃のようにイメージするんだが、ただの塊を飛ばすだけじゃダメだぞ。刃が回転しているイメージだ。」
分かりました。と彼女たちも挑戦し始めた。
やはり風の刃が回転するというイメージが難しく、木の幹に傷が残る程度の威力しか出せなかった。対人戦なら、その威力でも十分に発揮してくれるだろうが、木を切り倒すにはまだ訓練が必要な様子だ。
「やはり風の魔法は一朝一夕ではいきませんね。」
「私もだ。イメージが安定しない。」
午前中に拠点周辺の木々を伐採し終え、午後からは防壁の工事に入る。
「初めて見ますが、このように防壁を建設していたのですね。土魔法と錬金術の組み合わせでしょうか?」
「そうだな。ただ鋼板の施工だけは手作業だから、それだけが手間だな。」
悠弥はオリビアとシイカにアドバイスをもらいながら、黙々と作業を続けている。
一日掛けて、北側の外壁工事は終わった。
「驚異的なスピードだな。無知なる森に突然、現れたのも納得できる。」
シイカとオリビアは感心している。
リビングで寛ぐ三人。
「父上がご覧になられたら、大騒ぎするでしょうね。」
「やめろよ。俺はどこの国家にも加担しない。」
「分かっていますとも。それを承知で私は嫁いできたわけですから。そうですね、シイカ。」
「もちろんだ。私も悠弥の不利益なるような事はしない。」
「よし、そんな二人には今日はスイーツだ。」
悠弥はプリンを出した。
哀愁を漂わす黄色いボディ、
渋みを醸し出すカラメルヘッド
触れば分かるそのわがままボディ。
彼女たちは歓喜のあまり興奮した。
「何ですのこのプリンというスイーツは!」
「何なのだ、この口の中で蕩けるような食感。砂糖の甘さにカラメルの苦味がアクセントを加えて!」
興奮する様を呆れ顔で眺める悠弥。
今、この瞬間にプリン祭りが開催されていた。
「「ぷ・り・ん!ぷ・り・ん!」」
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防壁工事が完了し、堀も新たに作り直した。
「悠弥、もう家とは呼べないな。」
「こんなつもりじゃなかったんだけどな。」
「いえいえ、これから忙しくなりますよ。もしかしたら、移住者とかも来るかもしれません。そうなったら、もう村ですね。」
「勘弁してくれよ。俺はゆっくりと好きな事して、生きたいの。」
中に入り、畑の拡張作業。侍女たちの宿舎建設のための基礎工事などなど、色々とやっているうちに、その日を迎える。
「来たな。」
悠弥の気配察知に反応があった。
「開門願おう!セルザイン王国国王軍軍団長ギルベルト・ウルフェインと申す。悠弥殿、開門願いたい。」
悠弥は、大きな門を開ける。
「ご苦労さん。」
悠弥と軍団長は握手を交わす。
「いや、道中は大した事故なども発生せずに順調そのものでした。」
「そりゃ、良かった。」
「それにしても、見事な城壁ですな~。」
「モンスター対策のために建てたんだがな。どうやら、やり過ぎだったようだ。」
「この城壁ならば、どんなモンスターも侵入できますまい。それにしてもすごい。」
「とりあえず中に入ってくれ。」
悠弥はギルベルトと戦乙女、侍女たちを防壁の中へ案内する。
すでに休憩できるようテーブルと椅子を用意し、彼らはそこに思い思いに座る。
「代表の者以外は、ここに食事と酒を用意した。休んでくれ。」
悠弥は代表の者を集め、リビングで今後の展開を話し合う。
「長い道のりをよく無事で頑張ってくれた。俺がこの拠点の主で、オリビアの夫の悠弥だ。気軽に悠弥と呼んでくれ。」
悠弥から自己紹介を始める。
「お初目にかかります。私は拠点での雑事を担いますゼリム。執事でございます。」
「ゼリム、、、どっかで、、、」
「悠弥様、屋敷で執事を担当しておりますのが、私の兄グリムでございます。」
「あぁ、グリムの弟さんなのか。よろしく頼むよ。」
ゼリムは一礼し、座る。
「私はシイカ隊長の後を任させましたシトラしゅぶべ、、、」
(かんだ、、、)
「シトラス・ホーメントです。シイカ様に負けぬよう戦乙女隊長を務めたいと思います!」
シトラスが座ると、悠弥がこの拠点の現状を説明する。
「さっき見たが、150人程度って聞いてたのに、多くないか?」
悠弥の疑問にシトラスが応える。
「それはですね。王都での王太子暴走事件で戦乙女の活躍が女性たちのやる気に火をつけたみたいで、貴族の次女以降の家督継承権が低い女性たちが殺到致しまして、六十人だった部隊が、一〇〇人を超えた事が原因です。」
「倍じゃなかっただけマシか。分かった。現状、今日の宿泊は敷地内で野営形式を取ってもらう。明日からは自分たちの宿舎、兵舎と俺たちの屋敷の建設を行っていく。それと畑の拡張だな。」
「では、建築は私が指揮を執りましょう。これでも少々、覚えがあります。」
ゼリムが手を挙げる。
「農業に関してですが、私の部下に農業が得意な者がおります故、その者に任せてみてはいかがでしょうか?」
またもゼリムの提案だ。
「ゼリムの案を採用しよう。」
「かしこまりました。では、早急に野営の準備と食事の準備を致します。」
そういうと、彼は足早に外に出ていった。
「それとゼリムは行ってしまったが、その作業と並行して、俺とオリビアとシイカは少し拠点を離れる事がある。オリビアかシイカのどちらかは残ってもらうが、作業は続けてもらう。」
簡単に作業の説明は終わった。全員で外に出て、次は建設する家屋の規模などを話し合う。
実際の土地のスペースを見てもらい、過不足を相談する。
「建築の人手は戦乙女にお任せください。我らは戦闘能力は正規軍に及びませんが、作業はどの部隊よりも練度が高いと自負しています。」
それはどうなんだ?と悠弥はシイカの顔を見るが、シイカは目を合わせようとはしなかった。
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戦乙女は不遇の部隊である。正規軍からは、「王女様の気まぐれ部隊」などと揶揄され、正規軍の扱いはされていない。
幾度か王女のお転婆で戦場に赴くが正規軍ではないために、十分な補給も受けられず、あまつさえ、女性だけの部隊という事で、正規軍の男どもたちからは娼婦のような扱いさえ受けていた。
そんな彼女たちが戦場で生き残るために考え、苦しんだ結果、、、全てを自分たちで賄うというものだった。
戦場での天幕設営はもちろん、食料調達まで全てを自分たちで努力した。
こうして、戦場で頑張っている彼女たちの姿を見た正規兵たちも少しずつ態度を軟化させ、現場では彼女たちを見くびる兵士たちはいなくなった。
ただ軍内部ではその扱いは変わっておらず、ひどいものである。
しかし、悠弥が現れ、王女が輿入れをした事で状況は一変する。強大な力を持った悠弥の噂は軍内部でも評価が高く、その恩恵を少しでも受けようとする者も少なくない。
王女輿入れの際、悠弥の拠点護衛のために貴族の息の掛かった部隊を付けるという提案もあったが、王女はそれを断った。
「私には戦乙女がいますので、そのような気遣いは不要です。私は王族から除籍されますので、正規軍が私を守るのは不自然に感じます。」
この時、初めて軍内部の上層部連中は今までの対応に後悔する事になった。
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悠弥は戦乙女の話をシイカから聞いていたが、もう少し軍としてのプライドはあるかと考えていたが、本人たちから出たその言葉で、彼は呆れると同時に彼女たちのこれまでの努力を賞賛した。
悠弥はゼリムとシトラスの意見を聞き、それを図面に起こす。この世界に丈夫な紙は無いので、錬金で作った少し厚手の紙に転写していく。それでも彼らにとってはいい紙に見えたらしく、驚いていた。
必要な材料を計算し、それを悠弥が準備する。
道具と建材を全て一か所に用意すると、さらに驚いていた。
「こんな所か。もういい時間だな。食材を用意するから、全員分の料理を用意してやってくれ。酒も置いておくよ。」
門を入ったすぐの場所で天幕などを設置している戦乙女と侍女たち。
その中にいたシェフを呼び出し、食材と共に簡単に大量にできる料理のレシピを説明する。
「それはすごい発想ですね。」
シェフは驚いていた。悠弥にとってはただの唐揚げなのだが、この世界に油で揚げるという料理はない。
調理器具を用意してやると、シェフたちは手際よく調理を開始する。さすがはその道のプロである。悠弥にスキルがあるとはいえ、手際の良さや所作は経験によるところが大きく、彼が見ていてもその作業は見飽きることはなかった。
唐揚げから漂う香辛料の風味に、周囲はざわついている。戦乙女たちは、久しぶりの匂いにしびれを切らしている者までいる。
「悠弥殿、これは貴殿が考案した料理だろうか?」
ギルベルトが鼻息を荒くしながら、悠弥に迫る。
「あぁ、そうだな。」
「なんと暴力的な匂いなのだ!これはニンニクか!それに胡椒まで!これほどまでに芳醇に漂う匂いを私は嗅いだことがない。」
興奮するギルベルトを見て、少し呆れている悠弥。
「そんなに楽しみにしてもらえて、レシピを提供した甲斐があったってもんだ。」
「なんと!あの者たちにレシピを教えたのか、、、そうか、、、彼らは悠弥殿のシェフ、、、これは秘伝なのだろう、、、くそぉ!どうして、私も志願しなかったんだ!」
悶えるギルベルトを見て、悠弥は楽しませてもらっている。
「ギルベルト、礼って事でもないが、レシピを贈るよ。」
「ん?礼とはなんの礼だろうか?」
「いいだろ、気にすんな。これで帰っても食べられるぞ。食材は自分で調達しろよ。」
ギルベルトはレシピを受け取ると、両手を天に仰ぎ、神に感謝の言葉を述べていた。
のちにギルベルトが持って帰ったレシピが王都で大流行し、国王にまで献上される事態になるのだが、その話はまた別の機会に。
料理が完成し、テーブルに並べられると、ギルベルトの音頭で乾杯が始まり、唐揚げやサラダ、それにステーキなどが恐ろしいスピードで消費されていく。
シェフは十人以上いるにも関わらず、そのスピードは彼らを凌駕した。人の食欲というのはおそろしいものである。
全員が満足した時、シェフたちはもうクタクタだった。最後の料理を出し終え、戻って来た時には全員が地面に座り込み、「よく頑張った。」とハイタッチを交わしていた。
酒はまだ終わっていないようで、好き者同士が集まって、宴会を開いている。
「あんまり飲み過ぎるなよ。」
そう言い残し、悠弥はその場をあとにし、自分の家に戻った。
「久々に楽しかったなぁ、、、」
ベッドに倒れこむと、そのままうとうとと意識を失っていった。
――――――――――――――――――――――――
翌日、少し遅めに起きた悠弥。家の外からは元気よく作業している声が聞こえている。
「朝早いな。昨日、あんだけ騒いだのに、すごいな。」
リビングでお茶を飲むオリビアとシイカ。テーブルに着く悠弥。
「よく食べて、よく飲んで、遊んだら、その分頑張る。常識だな。」
シイカに尤もらしい事を言われる。悠弥は朝食を済ませ、今日、出発するギルベルトに挨拶をする。
「ギルベルト、もう少し滞在してもいいんだぜ?」
「そうしたいのは山々ですが、私は王国軍の軍団長ですので、そう何か月も空けるわけにもいかんのです。」
二人は握手を交わし、
「また王都に行くことがあったら、顔を出すよ。」
「それは楽しみですな。お待ちしております。」
ギルベルトは昨日のレシピの礼を言うと、護衛部隊を率いて、王都へと帰還した。
ゼリム指揮の元、新たな屋敷や執事、侍女たちの宿舎、兵舎などは順調に進んでいるようだ。
「材料も十分です。この分だと一ヶ月ほどで完成すると思われます。」
彼は自信ありげに報告する。
「分かった。その通りに進めてくれ。俺は三日後には拠点を出るから、分からない事はそれまでに聞いてくれ。」
「かしこまりました。」
ゼリムは一礼すると、作業に戻っていった。悠弥はその足で倉庫に向かい、倉庫の内壁にディバネイト鋼板を張る。何をやろうとしているのかと言えば、旅に出る間の食料を保存するために冷蔵庫を作ろうとしている。
すべての内壁を張り終わると、魔法石を設置する。この魔法石には冷たい空気が流れるように魔法陣を組み込んだ。
冷気が放出されている事を確認し、旅の話をするためにオリビアとシイカを探した。
「悠弥、もう終わりましたか?」
彼女たちは魔法の訓練をしていた。
「あぁ、何とか全部終わったかな。それで旅の話なんだが、まずはどこに向かおうか?」
「そうですね。危険な事は先に終わらせたほうがいいかと思うので、ブレイン聖国でしょうか?」
「三百年前に勇者召喚を実施した国か、、、大丈夫か?」
「大丈夫かどうかは分かりませんが、悠弥なら大丈夫だと思いますよ。状況によりますが、いざとなればゲートで逃げればいいだけですから。」
「そうだな。まずはブレイン聖国にするか。」
「でしたら、私はお留守番ですね。」
オリビアは残念そうながらも、当たり前だという態度だ。悠弥がなぜだ?という表情を読み取ったか、続けて言う。
「私はまだ悠弥との結婚を発表しておりませんので、対外的にはまだ王女という立場になります。私がお忍びでも他国へ渡れば、それは大騒ぎになるでしょう。それに他国にも諜報部隊がいますので、私が動けば、筒抜けでしょうね。」
「特にブレイン聖国は、、、って事か。」
「ですね。悔しいですが、今回は私はお留守番ですね。」
「シイカもそれでいいか?」
「あぁ、構わない。」
そういうと、オリビアとシイカは固く握手を交わす。
「せっかくです。楽しんで行ってきてください。」
三日後、悠弥たちは準備を整え、ブレイン聖国に向かい出発した。
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