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【連載】異世界における特異点  作者: とぐさ
第一章 今より少しマシな未来へ
12/47

12 一件落着とはいかない

改稿版

 ジャスタの元へ向かう王女たち。ほとんどの者たちは王女を見つけると道を譲ってくれている。


「殿下!」

「殿下!」

「姫様!」


 それは彼女がいかに臣下の信を得ているかの証明でもあった。


-王城・地下牢-


「ジャスタ!」


 牢で静かに時を待つジャスタの姿がそこにはあった。


「殿下。ご無事でしたか。」


「私の事はよいのです。」


「ここに殿下がおれられるという事は、この件に関しては解決したのでしょうか?」


「いえ、今は私の友人が兄上の元へ向かっております。」


「まさか、無知なる森の支配者殿ですかな?」


 王女は頷いた。


「では、その者と友誼を結べたという事ですか。さすがは王女殿下。そのお転婆も捨てたものではありませんな。」


「ジャスタ!そんな冗談を言っている場合ではありません。早くここから脱出し、この混乱を治めましょう。」


 牢を開こうとしたが、鍵が壊れない。


「殿下、御下がりください。」


 シイカが剣を抜く。


「ふんっ!」


 -ガキーンッ-


 牢は傷一つ付けられなかった。


「さすが、王城の地下牢ですね。私の剣でもビクともしません。」


「えぃ。」


 何を思ったのか、王女が悠弥からもらった短剣で錠前を斬りつける。


「殿下、さすがにそれで、、、」


 -ガシャン-


 錠前が真っ二つに割れる。


「「「えぇぇぇ!!」」」


 三人はさすがに目を疑った。


「シイカ、この短剣は何で出来ているのでしょうか?」


「分かりませんが、、、業物だとは思っていましたが、まさかこれほどとは思いませんでした。まさか私の短剣も、、、」


 -キンッ-


 鉄格子が簡単に斬れる。


「はぁ、悠弥殿。あの人は何というものを私たちに預けたのか、、、」


 ジャスタは王女たちに護衛され、地下牢を上がっていく。


「待たれよ!」


 地下牢を上がると、そこには正規軍参謀ボード・グンダが待ち構えていた。


「これはボード殿、貴殿も、、、」


 -シュッ-


 シイカの顔のすぐ横をかすめるように矢が飛んできた。頬に少し傷が出来る。


「ボード殿、何を!」


「これは国賊オルリベイラ一行とお見受けする。それに地下牢に閉じ込めていたジャスタ殿も一緒とは、、、」


「ボード、下がりなさい。私は、、、」


 王女が弁解をしようとしたが、ボードは聞く耳を持たない様子。


「主犯自らが現れたとあっては、もう言い訳はできませぬぞ。」


 ボードが剣を抜く。


「ボード、貴様!王女殿下に剣を向けるのか!」


 シイカは激昂し、剣を抜く。


「戦乙女は王女を護衛。何があっても指一本触れさせるな!」


 王女の周囲を戦乙女が固め、シイカはボードの前に出る。


「私は参謀ではあるが、戦術だけではないという事はご存じのはず!」


 ボードが斬りかかるが、シイカはそれを受け止めた。


「やりますな。だが!」


 会話で隙を突き、シイカの腹部に前蹴りを入れる。


「ぐっ、、、」


 腹部を抑え、剣を構えるシイカ。


「そのように思った事はない。なぜだ!あなたは軍の中でも誠実な方だと、、、私の勘違いでしたか?」


「おしゃべりして、剣が振るえますか!」


 ボードは突きを見せる。


 シイカは剣で剣筋を逸らし、後ろに倒れこむように躱す。


「甘い!」


 ボードの蹴りがシイカを吹き飛ばす。


「あなたに剣を教えていたのはギルベルト団長です。その剣は私も同じ。勝てるとお思いか?」


 ボードはゆっくりとシイカに近づく。


「ぐっ、、、勝てる勝てないではない、、、私は王女殿下を守るためにここにいる。」


 シイカは何とか立ち上がり、剣を構えるがその手は震えている。


「それは良い心掛けですな。では、ここで王女殿下と共に沈んでいただく。」


 ボードが大きく踏み出し、上段から剣を振り下ろした。


 それは咄嗟の判断だった。


 シイカは腰にあった悠弥の短剣でボードの振り下ろした剣を斬る。


-キィィィィンッ-


 金属がこすれ合う高い音が響いた。


 ボードの顎先にシイカの剣が当てられる。彼の剣は横に折れ、その刃先が壁に突き刺さっていた。


「そこまでだ!双方ともに剣を納めよ。」


 廊下の向こうから声が聞こえる。


「父上!」


 国王バルフェルトだった。

 両陣営は剣を納め、膝を折る。


「オリビア、大事ないか?」


 王女は国王に抱き着いた。彼も彼女を強く抱きしめる。


「はい。父上もご無事で!」


「ジャスタ、そなたも無事であったか?」


「はい。このように元気に隠居生活の練習をしておりました。」


「元気そうだな。」


 国王はボードに首を向け、


「ボードよ。なぜこのような事に?ギルベルトはどうした?」


「はっ。現在、軍団長は無知なる森の者に対応中でございます。私は、、、」


 シイカを横目で見る。


「ボード、どうであった?」


 それに気付いた国王が彼に問う。


「いやぁ、驚きました。あの幼かったシイカ嬢がこのように立派な騎士に。」


「ということだが、シイカ・ベント。そなたはどうだ?」


「はっ、言いたい事は山ほどありますが、今は言いますまい。」


「はっはっはっ、シイカ嬢、そう怒りなさるな。ちょっとした児戯ではないか。それよりもその腰のものには驚いたぞ。まさか私の剣がこうも斬られるとは、、、」


「ボード殿、この事はあとでギルベルト殿とよく相談させていただきますので、それとも奥様に相談いたしましょうか?」


 ボードは「いや、待たれよ、シイカ嬢。」とシイカに頭を下げている。


「して、その腰の短剣がどうした?」


 国王がシイカに尋ねると、王女が自分の短剣を彼に渡した。


「これは無知なる森の者、悠弥殿が私たち二人に譲ってくださった短剣です。」


 国王は短剣を鞘から抜く。


「これは、、、何という代物だろうか。この黒く金色に光る剣身、、、ディバネイトではないか!?」


「こちらも、、、」


 シイカが国王に見せる。


「それはブレサイトで出来ているではないか?その悠弥と申す者はどこにおる?」


「今、兄上の元に”お話をする”と向かっております。」


 国王が焦り出す。


「いかん!早くその者を止めよ、、、いや、その者より早くケイルを止めるのだ。」


 国王が合流した王女一行は、ケイルのいる玉座を目指し移動を開始した。



 一方、悠弥は王城を荒野のごとく独り歩く。


「俺と勝負するやつはいるか?」


 悠弥の気迫に兵士たちは尻込みしている。


「やぁぁぁ!」


 たまに仕掛けてくる兵士もいるが、


「不意を突くのに声を出すな。」


 と一蹴する。


 長く続く廊下を優雅に歩く悠弥。その向こうに一人の騎士が立ちはだかる。


「他のやつとは違うみたいだが?」


 悠弥は刀を抜いた。明らかに他の兵士たちと纏う空気が違う。軍団長ギルベルト、その人である。


「この城内を荒野のごとく闊歩する。無知なる森の者とお見受けする。」


「あんたらは俺の事をそう呼んでいるのか。悠弥だ。」


「セルザイン王国軍軍団長ギルベルト・ウェルフェン。ここを通すわけにはいかぬ。通りたければ、私を倒してからにしていただこう。」


 ギルベルトも悠弥の纏う独特のオーラに剣を握る手に汗が滲む。


 少しずつ距離が縮む両者。


 先に動いたのは、ギルベルトだった。


「ちぇぇぇ!」


 彼から繰り出されるは高速の突き、


 悠弥は半身でそれを避ける。


 ギルベルトはそのまま首を薙ぎに行くが、


 悠弥は身を翻し、その勢いのまま回し蹴りをギルベルトの頭部にお見舞いした。

 衝撃で揺らされた脳は平衡感覚を失い、


 -ドサッ-


 ギルベルトはそのまま大の字に倒れる。


「一合も打ち合えないとは、、、おそれいった悠弥殿。」


「あんたの突きも悪くなかったぜ。」


「あっさり躱しておいて、何を言う。」


「俺じゃなかったらな。」


 ギルベルトは笑っている。


「さて、あんたたちの王子様はどこにいる?」


「この廊下を真っすぐに左を向くと謁見の間だ。」


 悠弥は腰だけ起き上がったギルベルトの肩をポンポンと叩き、奥に進んでいく。


「あれが王国最強だといいが、、なっ!」


 -ガキンッ!-


 黒ずくめの者たちが悠弥を襲った。一人の短剣は刀で弾き、あとの2人は蹴りと拳で吹き飛ばした。


「なんだぁ?あれがボスじゃなかったのかよ。」


「・・・」


 黒装束の者たちは沈黙を保つ。


「分かりやすい恰好しやがって、、、ミゲルたちの仲間だな。」


 黒装束の一人が少し反応を見せる。だが、3人は一定の距離を取ったまま動かない。


「何企んでるのか知らねぇが、こっちから行くぞ!」


 悠弥は踏み込んで刀の峰で相手の腹部を殴打する。


「ぐぇ、、、」


 続けざまにもう一人の顎にアッパーを喰らわせる。

 それを見ていた3人目は距離を取った。


 腹部に峰打ちを喰らった黒装束は悶絶している。顎にくらった奴は平衡感覚を失い、嘔吐している。


「殺しちゃいない。ただ肋骨はバキバキだろうな。肺に刺さったんじゃないのか?ほっといたら死ぬぞ?」


「ふん。我らの仕事は貴様を殺すことだけよ。」


「やっとしゃべったと思ったら、物騒な事言いやがる。」


「貴様の剣は見切った!」


-ツルンッ-


 黒装束の男が踏み込んだ瞬間、足元を滑らせて転んだ。


「ぐわぁっ、、、」


 そこに悠弥が上から押さえつけ、短剣を持つ手を踏んで折った。


(”拘束バインド”)


 男たちは縛られて、動けなくなった。


「そこでおとなしくしてろよ。」


 そのまま廊下を進み、謁見の間の扉の前についた。


 『透過暗視』『気配察知』


(でかいな。中には、、、二十人くらいいるか?武器持ったやつは半分くらいか。あの中央にいるやつが王子様か、、、)


 悠弥は扉を蹴り飛ばした。


-どぉぉぉん-


 轟音と共に扉が倒れこんだ。


-ざわっ-


 一瞬、周囲が騒がしくなるが、悠弥は構うことなく中央を歩く。


「と、止まれ!私はセルザイン王国王太子ケイン・クィン・セル、、、ぶべぐぇっ!」


 悠弥は喚き散らす王子に拳を食らわせた。

 ケインは盛大に吹き飛び、玉座は背もたれが半分無くなっていた。


「ひぃぃっ、、、」


 ケインは鼻血をたらし、左の頬をかばいながら、後ろのない壁に後ずさりしている。


「な、何をやっておる!この者は私に手を挙げたのだぞ!やれ!早く!」


 ここにいる兵士たちは王族の護衛になっているくらいだ。精鋭中の精鋭なのだろうが、ギルベルトほどのオーラは感じなかった。

 武器を構える兵士たち。


「やるならいいが、それは勇気でも誇りでもなく、無謀だと思うがやるか?」


 兵士たちの手足は震えている。悠弥は刀をふと振り、兵士たちの武器が斬れる。

 完全に心が折れたのか兵士たちは尻もちをついて、ただ眺めるだけとなってしまった。


「ぎゃぁ!」


 悠弥がケインの肩を足で壁に押し付ける。


「痛い痛い痛い、、、やめ、、、ろ、、、」


 悠弥が王子を睨みつける。


「や、、、やめてください、、、イタイ、、、お願いします。」


 悠弥は足を下ろした。


「どうも王子様。無知なる森の者です。なぜこんな事になっているか分かりますか?」


「・・・」


 王子は震えるばかりで話にならない。


「俺に関わるな。分かったか?」


 王子は恐怖で首を一生懸命に縦に振るばかり。


「あと直接の指示役がいるだろ?どいつだ?」


 王子は横に首を振る。すでにここにはいないようだ。

 まだ終わらないのかと頭を抱える悠弥。


「悠弥!」「悠弥殿!」


 王女とシイカが悠弥を追ってきたようだ。


「早かったな。ちゃんと助け出せたのか?」


「もちろんです。」


 王女がシイカを見る。


「おいおい、なんかボロボロだな、ははは。」


「笑わないでくれ。必死だったのだ。」


「悪い悪い。ん?頬に傷がついてるな。」


「これくらいただのかすり傷。そのうち治るさ。」


「いや、やっぱり女性の顔に傷があるのは気になる。」


「じょ、女性だと、、、」


 シイカは照れくさい。悠弥がシイカに近づくと、頬に触れた。


「綺麗な顔が台無しだ。」


 暖かな光がシイカの頬を覆った。


「き、綺麗などと騎士には不要なゴニョゴニョ、、、」


 しどろもどろになるシイカをよそに顔の傷は綺麗に治った。


「ゴホンッ」


 国王が咳払いをする。


「あっ、悠弥、この方が私の父上、バルフェルト国王です。」


「セルザイン王国国王バルフェルト・クィン・セルザインだ。」


「悠弥だ。よろしく頼む。」


「先ほど聞いた通り、貴公は傅かぬのだな。」


 悠弥の態度にバルフェルトは笑っている。


「俺は国民でも何でもないからな。」


「それも聞いておる。」


 ある程度の情報は道中で聞いている様子だった。


「で、俺は今からどうしたらいい?」


「それなのだが、悠弥よ。今回の件は我が息子の不祥事。この国王に預けてはくれぬか?」


「それは構わない。俺は悪戯をする王子様と少し”お話”したかっただけだからな。」


「此度の件、非情に申し訳なかった。」


 頭を下げようとするバルフェルトの肩に手を置き、悠弥が止める。


「王族が簡単に頭を下げるもんじゃないな。それくらいは俺も分かる。」


 耳元で囁く。


「その気遣いに感謝する。」


 下々の者に頭を下げる行為は王族としてはその権威に綻びを生じる危険をはらんでいる。


「じゃぁ、今回の件はこれで終わりって事でいいな?」


 悠弥がその場を去ろうとするが、国王に止められた。


「悠弥よ。少し待て。王子の件はそれで済んだが、貴殿が壊した城の設備については話が別だ。」


「えっ、それも含めてだろ?」


「ジャスタよ。今回、悠弥が破壊した設備の修理にはどれほどの費用が掛かる?」


「はい。まず玉座が、、、」


 ジャスタが計算をし始める。


「これほどかと、、、」


 ジャスタに耳打ちされた額に国王が膝をつく。


「これでは国家が傾きかねん修繕費だ。あぁ、どうすればよいのだ、、、」


「あぁ、嘆かわしや、、、陛下、、、これで我が国は、、、」


 ジャスタもそれに乗り、国王を慰める。


「あぁ、分かったよ。どれだけの金を払えばいい?」


 悠弥の言質を取った事を確認した二人は、素早く立ち上がり、


「それは別室にて、話し合おうではないか?」


「狸爺かよ。」


「はっはっはっ。国を動かしておるのだ。狸爺と呼ばれるくらいでちょうどよい。」


 国王はテキパキと命令を下し、謁見の間をあとにした。

読んでいただきありがとうございます。


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