11 王城へ
改稿版
悠弥は村を出る前に今後の事も考えて、結界を張ろうかと提案するが、
「あなたの力は、この世界では強すぎる。おいそれと使っていい力ではない。」
と、シイカに釘を刺されていた。それから数日は何事もなく馬車移動が続く。
王都から続く街道は比較的モンスターや野盗は少ないらしく、順調に旅は進んだ。
「しかし、悠弥殿の力は恐ろしいほどに強力だな。殿下が貴殿と敵対しなかった事に感謝する。」
「相手が敵対しない限り、俺から仕掛ける事はしない。」
3人で世間話をしていると、馬車の外からジブの声が聞こえる。
「殿下、、、王城で動きがありました。ゴーク大臣を筆頭に、反国王派の貴族たちが共謀し、宰相ジャスタ殿を牢に幽閉致しました。まだ裁判は行われていません。ですが、これを好機と見たケイル殿下が、王女殿下を国賊と認定いたしました。」
馬車を停め、その報告を聞く。
「そうですか。私を国賊に認定しましたか。兄上のやりそうな事です。」
「はっ、現在、王都の前に迎撃部隊を展開している模様です。」
オリビアはやれやれとため息を落とすが、
「分かりました。何があろうと一度、王都には戻ります。司令官はギルベルトでしょう。彼ならば、父上に報せを送っているはずです。それに合わせて、帰還致しましょう。」
「大丈夫か?」
悠弥がオリビアを心配する。
「申し訳ありません。兄上がこのような。」
「気にすんな。オリビアのお兄様とは”お話する”予定だったんだ。分かりやすくていい。」
悠弥は、刺客たちの黒幕はケイルだろうと考えていたが、それはあくまで憶測である。
ゴークとお話したあとに力業でケイルと”お話する”つもりでいたが、ケイルが敵対する意思を見せたために分かりやすい構図が出来上がった。
非公式とは言え、王女の護衛を依頼されている悠弥には、対象を守る”責任”が生じているため、道をふさぐ障害は排除せざるを得ない。
という事は建前である。そんな大義が無くとも彼は単独で侵入し、解決するつもりであった。
「こっちの戦力は戦乙女二十人程度に、俺とシイカくらいか?」
「私も戦えます。」
王女は胸を張る。
「そういうわけにもいかんだろ。向こうの目的はオリビアなんだろ?わざわざ体を晒すこともないだろ。」
「悠弥殿の意見に賛成です。今回の戦いは殿下を守る戦いです。どうか後ろで見守っていただきたい。」
命に代えてでも守るという決意がシイカの表情から見て取れる。
「シイカ、そんなに肩ひじを張るな。相手の戦力次第じゃ、俺一人でも大丈夫だろう。」
「悠弥殿、これは戦だ。一人が戦況を左右するなど、、、悠弥殿ならありえるか、、、いや、、、」
「迷うなよ。やってみるだけだ。無理そうだったら、その時に考えるさ。」
そんな悠弥の態度を見て、二人は期待してしまう。
「ジブ。相手の戦力はいかほどでしょうか?」
「はい。王都前に展開している部隊は、第一三師団だと思われます。旗印がメメス家の紋章を確認しております。数は二千ほどだと思われます。」
「メメス家ですか。ご当主のシカリ殿は大変な人格者なのですが、ご子息のクーズ殿は少し性格に難がある方でしたわね。」
王女はため息をつく。
「二千ですか、、、正面から戦う事はできませんね。さて、どうしましょうか、、、」
王女は頭を悩ませた。
「シイカ、王都は防壁以外に堀はあるのか?」
「もちろんある。防壁の上には常に警備のために兵士が巡回しているが、今は戦時体制を取っているものと思われる。」
「堀に水は張ってあるんだな?」
「近隣の川から引いている。補給が無かった場合に備えての水源も兼ねているからな。」
「分かった。それだけ分かれば、やりようはある。」
悠弥の中で何か作戦があるようだった。
「何か策があるのですね。このような戦闘で、無益な血は流したくないのですが、多少の犠牲は仕方ないとしましょう。」
「うまく行けば、戦死者なんて出ないだろうさ。」
悠弥は少し笑みをこぼす。
「悠弥を信じます。兄上にこれ以上の蛮行を許すわけにはいきません。」
王女一行に王都が見えるようになった。シイカと悠弥は護衛のために馬車を降り、並走する。
「悠弥殿、馬に乗られよ。」
悠弥のために、シイカが馬を用意するが、
「すまん。馬は乗ったことがないんだ。こんな事になると思わなくてな。練習もしてない。」
「そうですか、ならば私も悠弥殿と一緒に歩きます。」
「いや、そこまでしなくていい。多分、俺が走ったほうが馬より速い。」
そんなバカなとシイカは言うが、彼は馬より速く走れるだろう。
「まだ小さくて分かりづらいですが、やはり王都前に正規軍が展開しているようですね。」
「殿下!お控えください。」
馬車から顔を出す王女をシイカが止める。ここは既に戦闘地域に入っている。
伏兵や罠があっても不思議ではない。
「暢気なもんだな。さすがはお転婆王女だ。」
「悠弥殿!貴殿も殿下を止めていただきたい!」
「ははは、すまんすまん。見てると可愛くてな。」
「な、何を言うのですか!今は戦時です。そのような戯れはやめてください。」
王女は赤くなる。
「率直な感想を言っただけだ。」
「お二方!本当に戦時なのです!」
シイカがすごい剣幕で怒っていた。
「そろそろ長距離武器の射程圏内です。」
シイカが言った瞬間だった。
「!?」
悠弥の危険察知に反応がある。
「シイカ!」
悠弥は叫ぶ。何かただ事ではない空気は読み取ったシイカだったが、状況が掴めていない。
「くそ!」
悠弥が前に走り出す。戦乙女たちも状況が把握できてない。
(”魔法防壁”!)
悠弥が両手いっぱい広げると、大きな魔法陣が王女一行の上に覆いかぶさるように展開した。
-カンカンカン、、、-
無数に降り注ぐ矢の雨。魔法防壁に阻まれて、地面に落ちていく。
「王女がいてもお構いなしか。本当にやりにきやがった。」
悠弥は頭に血が上りそうになるが、深呼吸で抑える。
「悠弥殿!」
慌てて、シイカが駆け寄る。
「シイカ、戦乙女を立て直せ、混乱している。相手さんの攻撃は無効化できている。慌てるなよ。」
「分かりました。」
彼女の指揮で戦乙女たちは落ち着きを取り戻した。
「もう話し合いの余地はないな?」
「悠弥殿、どうなさるのか?」
「ちょっと行ってくる。シールドはそのままにしておくから、この盾の下から動くなよ。」
悠弥は走り出した。
「シイカ、悠弥は何と?」
「はい。この盾の下から動くなと言って、駆け出してしまいました。」
「そうですか。あの矢の雨を防ぐ力があるのです。滅多な事はないと思いたいのですが、それでも心配ですね。」
(よく漫画では見てたが、王族ってのは本当に面倒だな。本当に親兄弟も関係ないのかよ。)
悠弥は王都に向けて、爆走している。
「当たらねぇよ!」
相手も悠弥に気付き、矢を射かけてくるが、彼のスピードに翻弄されている。
それに業を煮やしたのか、何かが光る。
「なんだ?」
今度は無数の火球が悠弥を襲う。
「だから、無駄だ。」
悠弥は自身の周囲にシールドを展開し、火球を防ぐ。
「はい、到着。」
第一三師団の前に悠弥は立った。矢も魔法も効いた様子がない悠弥に兵士たちは動揺を隠せない。
「そっちの指揮官は誰だ?」
悠弥が問うと、一人の老兵が前に出た。
「私がこの師団の副司令である。」
「司令官はどうした?」
「私が応じよう。」
「そうかよ。今すぐに軍を引くなら、何もしない。抵抗するなら、それなりの覚悟を持てよ。」
悠弥は静かに魔法と展開する。
堀の上に魔法陣が展開され、堀の水がせりあがる。
「我らは騎士。戦場に出た時から、覚悟はしておる!ふざけた事をぬかすな!若造め!」
「よく言った。言ったがすまんな。」
「何!?」
大量の水が兵士たちを襲い、引き波に攫われていった。
「おー、うまくいったな。」
悠弥が上から落ちた兵士たちを見下ろしている。
「貴様!」
さすが副司令といったところだろう。ギリギリで耐えていたが、
「こんな状況じゃなきゃ、騎士の誇りってやつに付き合ってやれたんだがな。」
と言って、副司令を蹴飛ばした。
「きさまぁぁぁ!」
落ちていった。
「!?」
-ガキン!-
剣戟音が辺りに響いた。
「やるな。シールドを張る隙がなかった。いいスピードだ。」
波にも耐えた兵士が悠弥を襲ったが、彼は刀で受け止めた。
「この国賊どもが!」
「はいはい。そういうのいいんで、お前も落ちてくれ。」
彼は身をひるがえし、兵士を蹴り落した。
「きさまぁぁぁ!」
堀の中で兵士たちが喚いているが、そんな事は関係ないと、門に近づく。
「通っていいか?」
門を警備する兵士に声を掛ける。
「王女殿下のご帰還ですね。どうぞ、お通り下さい。」
兵士の顔は清々しい表情だった。
王都内は戦時中とは思えないほど落ち着いていた。
「殿下、戦闘が終わったようです。王都に入りますか?」
シイカは馬車の王女に指示を仰ぐ。
「行きましょう。」
馬車は戦いの痕を横目に、王都に入った。
「悠弥殿!」
シイカが悠弥に駆け寄った。
「これから俺は王城に乗り込む。オリビアたちはどうする?」
「私たちも王城に行きますが、宰相が幽閉されている牢に行き、助けようと思います。」
「分かった。気を付けろよ。無理だと思った逃げろ。俺が何とかする。」
「ありがとうございます。」
悠弥たちは二手に分かれた。
先に王城に到着した悠弥。城門前には警備の部隊が戦闘態勢を整えていた。
「通してくれるか?」
「バカかお前は。一人で来て、この人数相手に何を言ってるんだ?」
数十人はいるだろうか、兵士が一斉に襲い掛かる。
「バカはお前たちだろ。」
襲い掛かる兵士たちをヒラリヒラリと躱し、気絶させていく。
「この人数相手になぜ立ち向かう!」
物量差で圧し切れると余裕ぶっていた兵士は焦りを見せる。
簡単な理屈だった。どれだけの人数を相手にしていても、一度に行動できる兵士の数は決まっている。周囲をぐるりと囲んでも、一斉に攻撃できるわけではない。彼らの脳裏には同士討ちに対する恐怖心やタイミングを図ろうとする思考があるからだ。
だから、悠弥にとっては一人対部隊ではなく、一人対四、五人程度の戦いになっている。その技量さえあれば、多対戦闘でも十分に勝機はある。
これは彼のスキルが教えてくれる知識だった。
「だから、通してくれってお願いした。」
悠弥は最後の一人を気絶させ、城門を力で開ける。
「もう終わってしまったのか?城門はどうやって開けたのだ?まさか押し開けたのか?」
後ろからシイカが馬で駆けてきた。
「やれるもんだな。」
「そんなに軽いわけないぞ。どのような力をしているのだ。悠弥殿には呆れるばかりだな。」
遅れて、馬車が来た。王女が降り、悠弥に頭を下げる。
「悠弥、兄上を頼みます。」
「オリビア、王族が簡単に頭を下げるな。」
悠弥はオリビアの肩をポンと叩いた。
「シイカ、これをやる。」
悠弥は短剣を渡す。
「これは、、、業物ではないか。こんなもの貰えない。」
鞘から抜くと白い刃が輝く。
「ただのよく切れるナイフだと思ってくれ。」
「悠弥、私には無いのでしょうか?」
オリビアが悠弥を見ている。
「そうだな。じゃぁ、これやるよ。」
悠弥が黒い刃の短剣を渡した。
「”じゃぁ”が気にはなりますが、ありがとうございます。私の宝に致します。」
「そんな大層なもんじゃない。護身用に持っていてくれ。使われないのが一番なんだけどな。」
悠弥は城内のメイン通路へ、王女たちはジャスタが投獄されていると思われる地下牢へと向かう。
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