10 謀略の王国
改稿版
-王都セルズ・フレイベルク家屋敷-
「ジャスタ様、お客様が来ております。」
執事がジャスタの執務室に来た。
「分かりました。応接室に案内してください。」
ジャスタ・フレイベルク。
フレイベルク家の現当主である。幼少期よりその才を認められ、若くして先代より当主の座を譲り受ける。
フレイベルク家は代々宰相の家系である。ジャスタもそれに漏れず、国王バルフェルトにその神算鬼謀を認められ、宰相の座を用意された。
応接室で彼を待っていたのは、商人であった。
「これはこれは、商人殿が何の用ですかな?当家は、高価な品などを買えるような家ではないのですが。」
「いえいえ、名家のフレイベルク家に相応しい逸品をお持ちしております。」
商人は得意げに品を出す。
「これは珍しい。確か大陸の北方諸国では、このような調度品があると聞いた事があります。」
「さすがは宰相殿、お目が高い。そして、博識であられる。いかがですかな?」
「大変ありがたいお話ですが、当家は質素が一番だと、先祖よりの教えです。申し訳ない。」
「そうでございますか!それは失礼しました。では、またお伺いする時は、宰相殿のお眼鏡に適う品をお持ちいたしますので、よろしくお願い致します。」
そういうと商人は帰っていった。
「セルバ、あの商人を調べなさい。」
ジャスタはセルバに命じた。
「かしこまりました。最近少し多いですな。」
セルバは部屋を出ると、メイドたちに指示を出したようだ。
再び、部屋に戻るセルバ。彼は先代より仕える有能な執事である。元冒険者という事もあり、ジャスタの護衛も兼ねている。ジャスタの良き相談相手でもある。
「ここ数か月の間に訪ねてくる商人が増えました。当家の家訓を知っている者ならば、よほどの事がない限り、来るはずないのですが、、、」
「作為的なものを感じますかな?」
「ここで結論を急ぐべきではないと思います。」
「数日中には判明いたしましょう。」
-数日後
そして、調査報告書が届く。
「やはり裏で糸を引いてる黒幕がいますね。」
「王太子派の貴族ですかな?」
「一番怪しいところではありますが、断定はできません。まだ決定的な証拠が見つかっていないので、警戒を強める事しかできないですね。」
「分かりました。屋敷の警備と王都への商人の出入りを調べ、今回の黒幕への手掛かりを探しましょう。」
セルバは一礼し、部屋を出ていった。ジャスタは慎重な男であった。何事においても確証が得られるまでは判断せず、動かない。
この性格が後に起こる事件への対応を遅らせてしまう。
調査を開始して、しばらくが経った頃、セルバがジャスタの執務室に報告書を持って、訪れる。
「ジャスタ様、報告書を持ってまいりました。」
セルバは報告書の束をジャスタに渡す。
「訪ねてくる商人は大陸の北方諸国が多いですね。」
「はい。セルザイン王国を目指すには、少々無理があるかと思われる国ばかりです。」
「そうですね。仮にうまく辿り着けたとしても、護衛や輸送費を考えると帳尻が合わないですね。」
報告書に記載された情報には疑問が残るものばかりだった。
「しかも当家を訪ねてからの経路を見ると、最初から当家が目的のような意図を感じられます。」
「ジャスタ様もお気づきですか。その商人が訪問した貴族の屋敷の者に話を聞いたところ、世話話程度で帰っているそうです。」
「最初は、貴族への繋がりが目的かと思いましたが、そのような動きを見せない、、、まだ尻尾を見せませんね。手ごわい相手です。」
-王城・ジャスタ執務室-
国王バルフェルトは数日前にカシリア公国に向かった。
出発前、バルフェルトは宰相ジャスタに漏らす。
「私は国を空けている間、宰相に全てを任せるが、最近になって、裏でうるさくしている者どもがいるようだ。十分に警戒し、事にあたるよう。」
「心得ております。私もその情報は得ておりますゆえ、警戒は怠りません。」
「そうであったな。私のジャスタ・フレイベルクはそういう男であった。」
(今日も何事も起こらねばいいが、、、)
机に向かいながら、思慮を巡らせる。
「ん?」
何やら、外が騒がしい。
-バンッ!-
ノックも無しにドアが開く。
「ジャスタ様!」
見た事のある兵士だった。胸にはフレイベルク家の紋章。私兵団の兵士だった。
「落ち着きなさい。どうしましたか?」
冷静に兵士を宥めるジャスタ。
「お逃げください!我々は嵌められました!」
何を言っているのか分からなかった。
突然の事にジャスタは冷静に対応しようと心掛けるが、私兵団の兵士の後ろから、数人の兵士と法務省の大臣が入って来た。
「ホメロン大臣、何事ですか?」
ジャスタが尋ねるも、ホメロンはジャスタの前に黙って立つ。
「随分、大事のようですが、何かありましたか?」
さらに尋ねると、ホメロンが口を開く。
「宰相殿、大変残念です。ジャスタ殿、国費横領の罪にて、拘束いたします。」
「な、何を!?」
ジャスタが反論しようとするも空しく、兵士に拘束されてしまった。
「大臣殿、これは何かの間違いではありませんか?」
「いえ、証拠は全て揃っております。おとなしく罪を償う事を考えていただきたい。」
ジャスタは弁解も聞き入れられず、ジャスタは牢に入れられた。
-王城・王太子執務室-
「ゴーク。報告は聞いている。」
「これはお耳が早い。さすが王太子殿下。」
「世辞を言える余裕があるのだな。我が妹は貴様の仕業だと思っていないぞ。それをどうするのだ?」
「現在、王女殿下は王都に向かい帰還中です。そして、国王陛下も留守にしている状況です。最近は王女殿下の勝手な行動にも周囲は大変に迷惑しております。」
「まだ宰相のジャスタが残っているではないか。」
「ご心配には及びません。彼も今頃は牢の中でしょう。」
「何をした?あの宰相が罪を犯すとは思えんのだが?」
「殿下、煙が無い所には火を持って行ってやればよいのです。」
「ふっ、そういう所には頭が回るな。」
「綺麗ごとばかりでは、貴族は生きていけませぬゆえ、、、」
「それは王族とて、同じか、、、いや、私がか、、、」
宰相ジャスタは、ゴーク大臣によって嵌められた。
当初の計画は、北方の商人たちを使い、フレイベルク家に商品を売り、その商品が盗品だった事を理由に宰相を排除しようと企んだがうまくいかず、強硬手段に出た。
宰相が公務のため、屋敷を不在にしている間に、商人たちを無理やり屋敷に訪問させ、商品を大量に置いていった。その支払いを裏帳簿まで作り、国費で支払ったようにみせかけたのだ。
現代社会のように鑑識などが整った世界なら、このような事はすぐに暴かれてしまうのだが、異世界での調査能力、鑑定技術はとても拙く、証言や証拠は階級により、信頼を得てしまう。
今回の件も財務省大臣が裏帳簿を見つけ、ゴーク魔法省大臣がフレイベルク家の屋敷に大量の商品が運び込まれているのを見たと証言した事により、ジャスタ拘束に踏み切った。
ジャスタ拘束を好機と見たケイル王太子は、
「大臣たちを至急、謁見の間に集めよ。」
父バルフェルト国王を排斥しようと動き出した。
-謁見の間-
「皆の者、よく集まってくれた。」
周囲は何事かとざわついている。
「この度、我が妹オルリベイラの謀反が発覚した。無知なる森に住まう敵性勢力と手を組み、皆が愛するセルザイン王国を我が物にしようという計画だ。この国王不在時に、何たる蛮行か。緊急を要するため、国王代理として、ケイル・クィン・セルザインがこの件の指揮を担う。意見がある者は申せ。」
ケインは玉座に座る。
「殿下、それは確かな情報なのでしょうか?」
ギルベルトが前に出る。
「軍団長か。そうか、貴殿はオリビアとは仲が良かったな。我が妹がそんな事をするはずがないと思うのも無理はない。ならば、オリビアの無実を貴殿が証明しろ。」
(くっ、このような時にジャスタ殿はどこにおられるのか、、、)
王国不在のおり、宰相がその政治的決断を担うのが慣習だったが、ゴークの策謀により宰相ジャスタ・フレイベルクは幽閉されている。
「承知しました。では、これにて失礼いたします。」
ギルベルトは苦渋の思いで、謁見の間をあとにした。
「では、皆の者。王国の平穏のため、共に尽力しよう!以上だ。」
通例ではこのような軍事的な事案は、国王以下大臣にて協議を行うはずなのだが、国王、宰相の不在を理由に王太子は強硬決議に踏み切る。
本来ならば、王太子にそのような権限は存在しないのだが、王女謀反という事案の大きさに誰も異を唱えなかった。
もちろん、反国王派がそれに異を唱える事はない。
-王城・廊下-
「団長、王太子はなんと?」
「ボード、今すぐ動ける師団はどこだ?」
ギルベルトの後ろから付いてくる男はボード・グンダ。正規軍参謀である。
この二人は入団当初からその才覚を表し、二人三脚でいくつもの戦場で活躍してきた。
「まさか王女殿下を討ち取ろうというのですか?」
「国王陛下と宰相殿がいない今、王太子の命令が最優先だ。参謀は国王陛下に伝令を出せ、今すぐ動ける師団長に王都の門前で部隊を待機させろ。」
「分かりました。今動ける師団は第一三師団のみです。」
「あそこの坊ちゃん師団か、、、ちょうどいい出せ。」
「承知しました。では、そのように。」
城内が慌しく動き出す。
「ボード!」
駆けだしたボードをギルベルトが止める。
「十分に警戒せよ。私は宰相殿の行方を追う。今は王太子殿下の機嫌を損ねる事だけは気を付けろ。」
「分かりました。団長もご武運を、、、」
ボードは準備のために駆けていった。
数日後、王城から第一三師団が行進を開始する。
王女が叛意を示したとの噂は、すぐに王都中に広がった。
元々、王女の人格は城内外でも周知されていた。そのため、国民は今回の王女の行動を信じられるはずもなく、
「王女殿下が、、、」
「あの方がそんな事するはず無ぇ!」
「やっぱり王太子殿下と仲が悪かったのかしら、、、」
街では彼女の噂で持ちきりだった。
そして、そんな噂もすぐに現実だと知る事となる。
王城から第一三師団が行進を開始したからだ。師団の兵数は4000人。その半分が街を力強く行進しているのだ。国民の誰が見ても、疑いようのない現実だった。
「道を空けよ!国賊オルリベイラ討伐のため、第一三師団が出陣である。」
大通りは、見物人で賑わいを見せていた。
読んでいただきありがとうございます。
感想・指摘・アドバイスは大歓迎です。
誹謗中傷などは、お控えください。




