↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/81

第9話:聖女様の天敵は、無自覚な光

◇◆◇◆◇


 翌日、俺の机にはまた小さな変化があった。昨日、松田に踏まれてボロボロになったノートの代わりに新しいノートが置かれていたのだ。


「あ、夜凪。それ余ってたからあげるよ」


 声をかけてきたのは、バスケ部の辻岡 春香だった。彼女はいつも通り、眩しいくらいの笑顔で俺を見ている。誰にでも忖度なく接する彼女は万人から愛されているだろう。


「……悪い。でも、いらない。関わるとお前まで変な目で見られるぞ」


「いいって、気にしなーい!それより夜凪って字が綺麗だよね。この前の黒板の文章?私、実はちょっと感動しちゃったんだ」


 春香が屈託なく笑う。俺という影に温かい光が触れた瞬間、教室の入り口からヒヤリとした肌を刺すような殺気が飛んできた。


 天ヶ瀬 陽葵だ 彼女は聖女の微笑みを浮かべながら、アサシンのように音もなく俺たちの距離を詰め、春香と俺の間に割って入った。


「おはようございます、辻岡さん。……夜凪君に何か、ご用かしら?」


「あ、天ヶ瀬さん!おはよう!夜凪にノートあげようと思って」


「まあ、親切ですのね。でも……」


 陽葵は春香が差し出したノートを、細く白い指先で拒絶の意を込めてそっと押し返した。その目は、全く笑っておらず虚無だけが春香を射抜いている。


「夜凪君の『管理』は私が任されていますの。彼に与えるものは、たとえノート一冊であっても、私が厳選したもの以外は認めるわけにはいきませんわ。……わかりますわね?」


「え、あ、うん……。そっか、厳しいんだね。ごめんね、夜凪」


 春香は不思議そうに首を傾げながら、美月が待つ自分の席へと戻っていった。遠くで美月が「だから言ったじゃん」と春香を嗜めているのが聞こえる。


「ねぇ美月。あれって本当に管理ってやつなのかな?」

 不満げに少し頬を膨らませて春香が漏らす。


「……そうなんじゃないの?しらんけど」

 興味なさそうに携帯を弄りながら、美月は短く返した。だが、彼女の視線は鋭く、陽葵と俺の不自然な距離を捉えていた。



 陽葵は春香が去ったのを確認すると、俺にだけ聞こえる低体温な声で告げた。


「……湊くん。あの女、誰?なんで湊くんにあんなに無防備に笑いかけるの?……後でシュレッダーにかけていいかしら?」


「……結局貰ってないだろ。落ち着け。……シュレッダーってノートのことだよな…?」


「落ち着けないよ!湊くんの凄さに気づき始めてる子が、私以外にもいるなんて……。あんな太陽みたいな子に湊くんが照らされたら、私の『暗い檻』から逃げたくなっちゃうじゃない……!」


「暗い檻って言っちゃってんじゃん」


 陽葵の独占欲が、焦燥感とともに膨れ上がっていく。今までは「全員が湊を嫌うこと」で安定していた彼女の箱庭が、春香という無自覚な光によって揺らぎ始めていた。


◇◆◇◆◇


 放課後。いつもの準備室で、陽葵は俺を椅子に座らせると、俺の両膝の間に割って入り、俺の首筋に額を押し当てた。


「ねえ、湊くん……。約束して。あの子とは、二度と目を合わせないって。あの子から、何も受け取らないって。……もし破ったら、私、あの子の……」


「……何をするつもりだ」


「バスケ部の推薦、取り消させちゃうかもしれないわ。お父様に言えば簡単だもん……」


 冗談には聞こえなかった。聖女様の愛は、いつだって冷徹な権力と、一歩間違えばすべてを壊す狂気に裏打ちされている。


「……わかった。あいつとは関わらない」


 俺がそう答えると、陽葵はやっと満足そうに顔を上げ、俺の唇を自分の指でなぞった。


「ふふ、いい子。湊くんは、私の影の中でだけ生きていればいいの。……ねえ、湊くん。今日はお詫びに、私の指を……」


 だがその時、図書準備室のドアが鋭い音でノックされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。