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第13話:聖女様の檻、ついに壊れる?

◇◆◇◆◇


「――湊くん。昨日のマーキング、辻岡さんに変な解釈をされたせいで、私、昨夜は一睡もできなかったわ」


 放課後の図書準備室。陽葵は目の下にうっすらとクマを作りながら、俺の首にかけたストラップを指先でなぞった。


「所有者……迷子札……。あの女、わざとやってるのかしら。やはり脳細胞の一つひとつがバスケットボールで構成されているの?」


「後者だろ。……それで、今日は何をするつもりだ。また新しいグッズか?」


 俺が尋ねると、陽葵は暗く湿った笑みを浮かべ、カバンから一冊の、重火器のように分厚い『学校規約集』を取り出した。


「いいえ。物理的な手段が効かないなら、次は制度よ。私、理事会に働きかけて、新しい委員会を設立することにしたわ。その名も――『聖女直属・夜凪 湊 更生委員会』よ」

「(……どんどん名前の不穏さが増しているぞ)」


「この委員会の構成員は、委員長の私。そして更生対象の湊くんのみ。活動場所はこの図書準備室。これによって、辻岡さんのような要注意外来種が、部活動の用具返却などの卑しい口実で君に接触することを、学園の法理として完全に遮断するわ!」


 陽葵が勝利を確信したように高笑いした、その時。


 ドンドンッ!!


「夜凪ー!天ヶ瀬さーん!朗報だよー!」


 扉を叩く、聞き慣れた元気すぎる声。春香だ。陽葵の顔が、鬼の形相になり殺気に満ちる。しかも小鬼とかそういうレベルではない。最終形態のようなものだ。部屋中の酸素が焼き尽くされるような殺気が充満する。


「……何よ、今度は何の用?辻岡さん。今、私たちは非常に重要な委員会の設立儀式(という名の膝枕)の最中なんですけれど」


 陽葵が委員会の設立儀式(という名の膝枕)を途中でやめ、立ち上がりドアを開けると、そこには春香と、相変わらず無表情な美月が立っていた。


「あのね、さっき先生から聞いたよ!『夜凪更生委員会』ができるんだって?それ、すごくいいアイデアだよね!」


「……ええ、そうよ。だから、部外者のあなたはもう二度と――」


「だからね!私と美月も副委員長として立候補してきたよ!バスケ部の顧問の先生が『辻岡なら夜凪とも仲が良いし、適任だ』って推薦してくれたんだ!よろしくね、天ヶ瀬委員長!」


 春香が親指を立ててグッ、と太陽のような笑顔で笑う。背後では美月が「……私は無理やり連れてこられただけなんだけど。まあ、あの傲慢な天ヶ瀬さんが顔を真っ赤にするのは面白そうだし、いっか。しらんけど」とスマホをいじりながら淡々と告げる。


「………………………………はい?」

「(行動力の化身かよ…)」

 感心している俺の横で陽葵は喉から空気の漏れるような音が出た。自分の独占のための檻に、あろうことか一番入れたくない敵が、学園の公式な手続きを経て、副委員長として乗り込んできたのだ。


「私と美月がいれば、天ヶ瀬さんの負担も減るでしょ?夜凪、これから毎日一緒だね!楽しい更生活動にしよう!」

「(……新作の執筆どころか、一文字も書く暇なさそうだな、これ)」


 陽葵の手の中で、学園規約集がミシミシと音を立てて砕け散っていく。


「…………辻岡……春香…………ッ!!」


 陽葵の瞳に宿ったのは、もはや嫉妬を超えた、純粋な狂戦士の輝きだった。聖女様の独占計画は、天然の光を撒き散らす春香という特異点によって、最大の存亡危機を迎える。


「…くんは……湊くんは……私のもの……私の、暗い檻の中だけで、愛でる……私の……!!」


 ブツブツと呪詛のように呟き始める陽葵。一方で、春香は「あ、明日はリンゴ持ってくるね!」とさらなる規約違反(物品の授受)の予告爆弾を投下して去っていく。


 聖女vs天然。湊を巡る、決して交わらない二人のヒロインの戦いが、今ここに幕を開けた。

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