第13話:聖女様の檻、ついに壊れる?
「――湊くん。昨日の『マーキング』、辻岡さんに変な解釈をされたせいで、私、昨夜は一睡もできなかったわ」
放課後の図書準備室。陽葵は目の下にうっすらとクマを作りながら、俺の首にかけたストラップを指先でなぞった。
「所有者……迷子札……。あの女、わざとやってるのかしら。それか脳みそがバスケットボールでできているの?」
「後者だろ。……それで、今日は何をするつもりだ。また新しいグッズか?」
俺が尋ねると、陽葵は暗い笑みを浮かべ、カバンから一冊の分厚い『学園規約集』を取り出した。
「いいえ。物理的な手段が効かないなら、次は『制度』よ。私、理事会に働きかけて、新しい委員会を設立することにしたわ。その名も――『聖女直属・夜凪 湊 更生委員会』よ」
「(……どんどん名前がヤバくなってるぞ)」
「この委員会のメンバーは、委員長の私一人。そして更生対象の湊くん。活動場所はこの図書準備室。これによって、辻岡さんのような『外来種』が、部活動の用具の返却などの口実で君に接触することを、学園のルールとして完全に遮断するわ!」
陽葵が勝利を確信したように高笑いした、その時。
ドンドンッ!!
「夜凪ー!天ヶ瀬さーん!朗報だよー!」
扉を叩く、聞き慣れた元気すぎる声。春香だ。陽葵の顔が、鬼の形相になり殺気に満ちる。しかも小鬼とかそういうレベルではない。最終形態のようなものだ。
「……何よ、今度は何の用? 辻岡さん。今、私たちは非常に重要な『委員会の設立儀式(という名の膝枕)』の最中なんですけれど」
陽葵が委員会の設立儀式(という名の膝枕)を途中でやめ、立ち上がりドアを開けると、そこには春香と、相変わらず無表情な美月が立っていた。
「あのね、さっき先生から聞いたよ!『夜凪更生委員会』ができるんだって?それ、すごくいいアイデアだよね!」
「……ええ、そうよ。だから、部外者のあなたはもう――」
「だからね! 私と美月も、『副委員長』として立候補してきたよ!バスケ部の顧問の先生が『辻岡なら夜凪とも仲が良いし、適任だ』って推薦してくれたんだ!よろしくね、天ヶ瀬委員長!」
春香が親指を立ててグッ、と笑う。美月は後ろで「……私は無理やり連れてこられただけなんだけど。まあ、面白そうだし、いっか。しらんけど」とスマホをいじっている。
「………………………………はい?」
「(行動力すげぇ……)」
感心している俺の横で陽葵は喉から、空気の漏れるような音が出た。自分の「独占のための檻」に、あろうことか一番入れたくない敵が、学園の公式な手続きを経て、副委員長として乗り込んできたのだ。
「私と美月がいれば、天ヶ瀬さんの負担も減るでしょ?夜凪、これから毎日一緒だね!楽しい更生活動にしよう!」
「(……新作の小説…書く暇なさそうだなこれ)」
陽葵の手の中で、学園規約集がミシミシと音を立てて砕け散っていく。
「…………辻岡……春香…………ッ!!」
陽葵の瞳に宿ったのは、もはや嫉妬を超えた、純粋な「狩猟者の本能」だった。 聖女様の独占計画は、天然の光を放つ春香という存在によって、最大の危機を迎える。
「…くんは……湊くんは……私のもの……私の、暗い檻の中だけで、愛でる……私の……!!」
ブツブツと呪詛のように呟き始める陽葵。一方で、春香は「あ、明日はリンゴ持ってくるね!」と爆弾を投下して去っていく。
聖女vs天然。湊を巡る、決して交わらない二人のヒロインの戦いが、今ここに幕を開けた。




