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20話

 草の中を道なりに進んでいくと、数十秒も経たないうちにあるアパートらしき建物の前にたどり着いた。

 なんでアパート”らしき”なのかというと、それはそのアパートが見た目が壊れそうなほどボロい、というわけではなくとてもキレイだったから。

 そのキレイさが、さっきまで見てきた外からの様子や草木のあふれた敷地内の様子には合っていなくて、逆に浮いているように見えた。


 あと俺は普通のアパートっていうのをそこまで詳しくは知らないけど、この建物はアパートと言うには結構デカい気がする。

 外から見ただけだと分からないけれど、なんか窓の配置とか扉の数的に、ひとつの部屋あたりが広そうだと感じた。

 俺らはその建物の裏側に周り、織部から教えられた部屋の扉の前に着くと芽彩が扉横にあるインターホンを鳴らした。


 するとインターホンじゃなく扉の方から直接、はいはーいという声が聞こえたかと思うと、鍵のガチャっと開く音が鳴り目の前の扉がすっと開かれた。

「よぉ!よく来たなー」

 そう言って、私服姿の織部が、ノブを持って扉を大きく開けながらそこに立っていた。

「ここ凄いねぇ~」

 開口一番、芽彩が心底楽しそうに織部にそう話し始めた。

「何というか、秘密基地みたいだ」

「そうか?でも確かに、柴田の想像する秘密基地はわかんねぇけど、周りから隠されてる感じはあるかもな」

「何か起こりそうで面白そう~!夏の夜とかに来てみたいねぇ~季節外れの肝試しとかやるぅ?やっていい~?」

「絶対嫌だ」

 芽彩の言葉に間髪入れず俺がそう答えると、芽彩は本気で残念そうな表情を浮かべて俺のことを見てきた。

「えぇ~絶対面白いのにぃ~」

 何度言われても無理なものは無理だ。

 てか俺がホラー嫌いになった一番の原因はお前なんだからな。

 なんて言葉は口には出さず、ホラーの良さについて隣で熱弁している芽彩の声を聞き流す。


 そんな俺らの様子を見ていた織部は、面白い物を見ているような様子で、適当な話を続けている俺らに向けて話始めた。

「ははっ!お前らはほんといつも仲良くて楽しそうだよなー。てか、ずっと部屋の前で喋ってるのも何だし早く中入れよ」

「それはそうだな」

「織部に言われるのを待ってたんだよぉ。私たちの方から家入れろ~!って言うのも違うでしょ~?」

「俺は別にそれでいいけどなー」

 そう話を続けながら、一番扉の近くにいた芽彩の後に続くように俺と咲弥も部屋の中へと入って行った。


 中は外から見た建物の様子の通り、とてもきれいで多分最近建てられたんだろうという感じがした。物がほとんど置かれていない玄関は、靴がキレイに整頓されている。

 玄関自体はそこまで広くなく、すぐ目の前が廊下になっていた。

 左右に二つずつ扉があり、突き当りにはすりガラスがはめられた木の扉があるのが見えた。


「靴は適当に端の方に置いといてくれ。気になるなら下駄箱の方使っていいぜ。あとスリッパはこっちな。

 洗面所はここだから、手洗ったら突き当りの部屋来てくれ。トイレはその隣な」

 そう言うと織部は先に突き当りの部屋の方へと入って行った。

 俺らは一人ずつ靴を置いて中に入り洗面所に向かった後、言われた通り部屋の方へと向かった。


「おわぁー」

 部屋に入ると、そこはリビングとキッチンが一体になったような部屋で、入ってすぐ左手にキッチンのカウンターがあった。

 さらに奥へ行きカウンターをぐるっと回って入ると壁際の方からコンロ、シンク、冷蔵庫が並んでいた。レンジとかもちゃんと置かれている。


 部屋に入って右手の方には、二人三人ほど座れそうなソファの前にローテーブルが置かれていて、さらに壁際の方にはそれなりに大きいテレビが置かれていた。

 部屋の南側はリビング側の方だけ大きな窓があって、そこを開ければ外に出られるようになっている。

 テレビの右側には上に続く階段があり、2階は吹き抜けになっていた。2階にも部屋があるらしく、下からも扉があるのが見えた。


 まず部屋に入って思ったのはめちゃくちゃ物が少ない。必要最低限の物しか置いていないようで、それもあってか全体的にすごく広い部屋に見えた。

「へぇ」

「なんだよその反応」

 部屋の中を見渡していたら、どうやら俺の声が漏れていたらしく、近くにいた織部にそう聞かれた。

「いやなんか、」

「思ってたよりいいところ住んでるねぇ~」

 全く遠慮することなく、既にソファに座っていた芽彩が織部にそう言った。

 もっと言い方があるだろ。失礼と図々しいの域を超えてる気がする。

 まあでも確かに俺も、家の中入るまで織部はヤバいところ住んでるんだって思ってたけどさ。

「お前らさぁ。俺がどんなとこ住んでると思ってたんだよ……」

「え、ボロくて狭いアパートとか」

「俺もそう思ってた」

「まぁねぇ。この辺りで新しい家って、あんまりないからねぇ~」

 俺たちが口々にそう言うと、織部はすごい呆れたような表情をした。

「ものすごい正直だなぁ」

「いやぁ、それが私たちの取柄だからねぇ~」

「事実だし。もしかして、なんかダメなことだったか?」

 いつもの調子で話している芽彩に対して、悪意を持って話すということを全くしない咲弥が、意味に気づかず本気で困惑している。

 多分、「ボロくて狭い」が別に悪くないと思ってるんだろうな。まあ実際それ自体悪いわけじゃないしよくある話ではあると思うけど、そういうことじゃない。

 それが悪口だと思わないのが、良くも悪くも咲弥の性格なんだよなぁ。


 それは置いといて、まず外からこの街に来る人ってのが滅多にいないから、空き家とかアパートみたいな建物ってのが元々あんまりない。これはガチの話。

 それに一人暮らしで、知り合いに借りたって聞いてたから、それで昔から建ってる家のイメージになるのは結構普通だと思うんだけども。


 てか、あの外の様子見たら誰でもそう思うんじゃないか?

 なんて野暮な話は聞かない。これを続けてると話が進まなそうだし。

「でも一人暮らしするにしては、ここ結構広いよねぇ~」

 そう言いながら芽彩が首をぐるっと回し、ソファに座ったまま部屋を大きく見渡していた。

「ああ、一応二人なら余裕で住めるくらいの広さらしいぞ?」

 確かにリビング以外にも個々に使える部屋はいくつかあるし、個人部屋も余裕で持てそうではある。

 流石に四人以上だと若干狭いとは思うけど、全然暮らせないことはないだろうし、一人だと逆に持て余しそうだなと思った。

「俺の場合、兄弟がたまに来るからなー。意外と丁度良いぜ」


 それを聞いた芽彩が、織部に視線を向けて分かりやすくワクワクとした様子を見せた。多分、兄弟ってワードに反応したんだろうな。

「いやまだ来ねぇよ」

 織部もその様子で察したらしく、芽彩が口を開く前にそう答えた。

 芽彩の方は、そういう返事が来ることは分かってはいただろうけど、口を挟む間もくれなかったことに、若干わざとらしくふて腐れた様子を見せていた。

「ちぇ~」

「それよりも、今日は勉強するために集まったんだろ?

 俺の話なら後でいくらでもしてやるから、とっとと準備しろよなー

 ちょっと用意してくるから好きなとこ座ってくれ」

 そう言って織部はキッチンの方へと向かって行った。

 俺らはリビングの方に行きローテーブルの周りに集まると、それぞれ座る場所を自由に決めた。ソファにあったクッションを借りたりしつつ、持ってきた教科書やノートなんかをそれぞれ鞄から出して、机の上へ並べていった。


 キッチンの方に目を向けると、織部は大したものじゃねぇけどと言いながら、飲み物やつまめるお菓子なんかを用意してくれている。

「あ、そう言えばこれ買ってきたんだよねぇ~これも一緒に出して~」

 そう言って芽彩がドーナッツの入っている箱を織部に渡す。

 実は家に着く前、手ぶらで行くのもなんだという話になって、三人そろった後にお店に寄って買ってきた。

「おおー、サンキューな。この皿使っていいから、そっち持ってってくれねーか?」

「おれがやるよ」

 俺は織部から皿を受け取って、箱からドーナッツを一つずつ取り出し皿の上に並べていった。

 それをテーブルの方まで持っていくと、ちょうど織部もお盆に飲み物やお菓子を乗せてリビングの方へとやってきた。

 一通り準備が終わり全員が机の周りに集まったところで、いつも通り勉強会が始まった。


 そこから数時間か数十分ほど経ち、ある程度切りの良いところまで進んだところで休憩を挟んだ。

 その流れから誰かの提案で、休憩がてら織部の話を聞きたいという話になっていた。

「この場所って知り合いに借りたとかって言ってたよな。やっぱあの屋敷の方とかも誰か手入れしてるのか?」

 そう聞いてみると、

「あー、俺がここに案内してもらったときは、定期的に来て庭の管理とかしてるって言ってたぞ。あの屋敷も長期の休みとかに来てたまに使ってるらしいぜ」

 という返事が返ってきた。

「そんな漫画みたいな話、本当にあるんだねぇ~」

「じゃあお化け屋敷じゃなかったのか」

「んー、そんな噂立ってるのか?」

 織部が珍しく少し驚いた様子でそう言ってきた。

「俺が小学生の時はあった。人も来ないしあの様子だから、肝試しをしている奴もいたらしい」

 織部はそれを聞き、なるほどなーと納得していた。

「俺は行ったことが無いから詳いことは分からない」

「ふ~ん。最近もそういうのやってる子いるのかなぁ~?」

「どうだろ。話は聞かないけど」

「でも子供なら一度はやりたがるよねぇ~」

「いやそれ、やりたいのは芽彩だろ」

 思わずそう言うと、芽彩は少し目を細めて、悪戯がばれた子供のような顔をした。

「あ、ばれた?」

 本当に分かりやすい。

 でももし誘われたとしても、俺は絶対に行かないからな、という感情を目線に乗せて芽彩に疑いの目を向けてみると、そんなことするわけないじゃん~という返事が返ってきた。どうだか。

「でも実際、やる子はいそうだよねぇ」

「大丈夫なのか?」

「近くを使う分には問題ないと思うぞ。でも敷地の中だってなるとさすがにまずいなー。何かあってもよくねぇし、敷地の主には俺が話しておくよ」

「それがいいかもねぇ」

 そんな話をしているうちに休憩時間が終わり、俺たちは各々また机に向かい始めていた。


 それからさらに数時間か数十分ほど経ったころ。

「部屋見たいなぁ~」

 手を止めていた芽彩が唐突にそう言った。

 どうやら集中力が切れたようで、机に向かっていて凝った体をよく伸ばしながら織部にそう尋ねる。

「別にいいぞ」

 やった!と嬉しそうな声を合図に、芽彩はすっと立ち上がってさっそく部屋探索を始めていた。

 俺も普通に気になるから、ささっと切りの良いところまで手を動かして、芽彩の後に続き部屋を見て回った。


 まず一階は、玄関からリビングまでの間の廊下に四つの扉があり、それぞれ洗面所、トイレ、物置、空き部屋となっている。

 洗面所から風呂場につながっていて、部屋は区切られている。トイレは洗面所の横の部屋。

 リビングから見て左手にある玄関に一番近い扉は、靴や外出用のものを置くスペースになっている。

 さらに左手にあるもう一つの扉は空き部屋になっていて、織部は特に何も置いてないらしい。多分本来は私室や寝室に使われるんだろう。


 で、メインのリビングはさっき話した通り。

 テレビの置いてある場所から右側の方に行くと手すり付きの階段があり、そこを上ると2階に行くことができる。

 2階に上ると右手側がリビングになっていて、吹き抜けからリビングの方が見下ろせるようになっている。2階にはシンプルな同じ形の二つの扉があった。

「俺の部屋は左の方な」

 下にいる織部が2階に向かってそう答えた。


 俺らは2階に上り、織部の部屋に入った。

 リビングの物の少なさから、ベッド以外何もないかと思っていたけど、以外にも棚とかがいくつか置いてあった。

 入って正面には作業する用の少し広めの机と椅子、その上にはデスクトップの画面が置かれている。作業に使っていたらしきものが机の上にキレイに整えられている。

 入口のすぐ左手にある棚には色々な本がびっしりと入れられていて、その本のジャンルは様々。さっと見た感じ、高校の教科書から勉強関係の参考書、趣味の本まで色々と置いてあった。

 見てると手あたり次第っていう感想が浮かんだ。


 でもよく見ると全体的に、この地域特有の本とか社会系の本が多い気がする。何でこんなのが興味あるんだろうって不思議に思うけど、織部のことはよく分かんないな。

「意外と普通だな」

「全体的にシンプル」

 部屋を見ながら咲弥とそんなことを呟いていると、後ろから軽く肩を小突かれた。

「悪かったな地味で」

「別にそうは言ってないだろ」否定はしないけど

「すごい本の量だねぇ~何の本かは分からないけどぉ。本読むの好きなのぉ~?」

 芽彩が吟味するかのように棚の方を一通り見ている。

「嫌いじゃないぜ。情報とか集めるのは面白いからなー。情報は地域性とか出るし、歴史とか分化は実際にその場所に行って聞いてみないと分からないことも多いしな」

 そう言う織部は心底楽しそうに語っているように見えた。なるほどな、色々なものを見てきたヒトの感想って感じがする。

 言い換えるなら好奇心の塊。


「……」

 作業机の上を見ると、机の端の上にまとめられた紙類の一番上に、この間図書館で見た絵本が置かれていた。そのすぐ横には、聞き覚えのあるタイトルの本が置いてあった。

『鬼とサイちゃん』

 多分この間言っていた芽彩が貸した本だろうな。

 俺はその本を手に取って少しめくって読んでみる。見覚えは、ある気がする。

 でもどこで読んだのかは覚えてない。多分、学校で借りて読んだとかだろう。


 こんな内容だったか?とか思いながら読んでいたら、俺の左隣に織部がやってきて、その本を指で差しながら芽彩に向かって礼を言っていた。

「そういやこの本貸してくれてありがとなー。読み終わったからそっちが都合いい時に返すよ。時間があるときに教えてくれ」

「ん~?今日で大丈夫だよぉ~。何か役にたったならよかったぁ」



 俺と芽彩と咲弥はリビングの方に戻り、堕されていたお菓子をつまみながら適当に雑談をしていた。その話題はもちろん織部の話だった。

「織部ってほんと何でも知ってるよねぇ~」

「何を話しても通じるし幅が広すぎる」

 何を聞いてもってのは、凄いを越えて怖いとも言えるかもしれない。

 そう言えば、織部の口から「分からない」とかっていう言葉を聞いたことが無い気がする。

「まあでもあの知識の多さには納得。ちゃんと努力家なんだな」

「それが趣味の域までいってるのが面白いよねぇ~」

「ほんと変な奴」

「あぁん?」

 あ。こいつは本当にタイミングが良いな。

 話をしていたら、ちょうど織部が2階からリビングの方に戻ってきていた。その手元にはA4サイズの薄い紙の束が抱えられている。紙には見覚えのある内容が印刷されているのが見えた。

「これ作ってみたんだ。時間あるときに使ってみてくれ」

 そう言って織部が渡してきた紙には、今回の試験範囲の内容がきれいにまとめられていた。

 特に俺が苦手な教科と苦手な範囲の解き方や簡単な問題、その部分が教科書のどこに書かれてるかなんかが書いてあった。


 織部は手元の紙を二人にも渡していて、横から見てた感じそれぞれ書かれている内容が違うらしい。

「すごい」

「一人ひとりまとめてくれたのぉ?」

「よくこんな時間あったな」

 別に嫌味を言ってるわけじゃなくて、使える時間は俺らと大して変わらないはずなのにって話だ。地頭が良いってだけの話じゃないんだろう。本当に変な奴だな。

「結構作るのおもしろかったぞー。まあ多分こういうの向いてるんだろうな。データの方でも欲しかったら送るから言ってくれ」

 織部はそれが普通とでも言うような様子で平然とそう言ってきた。

 万能だなーって言ったらさすがに怒るか?まあ怒らないだろうなと思いつつ、俺は受け取った紙の内容を読んでいた。


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