19話
数日後の昼休みの学校屋上。いつも通り4人で集まっていて昼食を食べながら適当に世間話をしていた。
中間テストまでの期間をできるだけある程度勉強に費やしていたわけだけども、突然問題は起きた。
「ねぇ明日ってさぁ~図書館の休館日だよね~?」
何の脈絡もなく発っせられた芽彩の一言が俺の耳に入ってきた。
そうなんだよな、ちょうど休日だっていうのに工事が入るとかで明日は図書館が開いてないないらしい。
「でもテストまでそんなにないし、どっか勉強できるところないか?」
と織部が聞いてくる。
そういう場所は織部なら結構知ってそうだけど、俺らにとってという意味でそう聞いてるのか。
「明日はちょうど学校も開いていないし、お店だと長時間はいられないし」
考えながら咲弥がそう言った。でも結局そうなんだよな。
ただでさえ小さい街なのに、休日は意外と外の方から人が来たりしていて、お店で長時間は難しいところも多い。
ファミレス、カラオケ、カフェ……思いつく場所はあるけど、どこもこの時期は大体混んでる。
外でやるわけにもいかないし誰かの家でやるか?俺の家でもいいけど、犬猫たちは絶対部屋に来るだろうし、皆の性格と経験談からして多分集中できないとは思う。というかまずこの前来たんだから、あんまり呼びたくないというのが本音。
芽彩や咲弥の家も騒がしいって意味だと多分同じ感じだろう。どうしたもんか。
「じゃあ俺の家来るか?」
みんな口をつぐみ色々考えていると、織部からそう声が上がった。
え、織部の家?
「え!普通に行ってみた~い!」
「俺も気になる」
芽彩と咲弥がいつもよりテンション高めな様子でそう答える。
そういう俺も気になってる。気になるというか、織部は謎が多すぎるから、まずこういう提案をしてくると思わなかった。
「逆にいいのか?急だし家の人に迷惑にならないか?」
そう聞いてみると、織部はそんなことかとでも言いそうな笑顔で話を続けた。
「俺は一人暮らしだし誰か来る予定もないから大丈夫だ。それにこの間俺の家にも呼ぶって言ったしな、ちょうどいいだろ。
あ、もしかしたら俺の兄弟が一瞬来るかもしれないけどそれでもいいなら、」
「全然!むしろ織部の兄弟会ってみたい!」
さらにテンションが上がった様子で芽彩がそう答えた。
咲弥も声には出してないけど、何か面白いことを見つけた子供のような表情をしてる気がする。純粋な謎織部の私生活への興味と、勉強ばっかりで退屈だと思い始めていたころだった……なんて思ったりしてんだろうな。
別に決して俺がそう思っているなんてわけじゃない。
まあでも確かに、織部が兄をやってるところは想像つかないな。結構面倒見は良いから兄弟仲は良さそうだけど、やっぱ普段見てる織部とちょっと違うのか?
そんなことを考えながらあーだこーだ三人で話してるうちに昼休みが終わった。
「そんな変わらねぇと思うけどなー」
なんて声が横の方から聞こえた気がした。
翌日、俺らは織部の家に集まることになった。
昨日の話の雰囲気的にまあそうなるだろうとは思ってた。
ということで織部の家に向かったわけだけども、俺は織部の住んでいるところについて全く知らない。
咲弥や芽彩も知ってるはずもなく、俺は二人と待ち合わせをして送られてきた住所に向かった。
ここまでは別におかしいことじゃないし、流れからしてそうなるのはほぼ確実だった。
じゃあ何か問題があるのかという話だけども、その建物の場所が何とも不思議と言うか。
まず建ってる場所が、あんまり見たことが無いところだった。
別に俺も街の全部を知っているわけじゃないから、当然見たことが無い場所はある。俺が言いたいのはそういう意味じゃなくて、その場所があんまり人の住んでいないところだということ。
この街は大きく分けると、家が集まっている住宅地の部分と、駅や店が集まる部分に分けられる。
俺らの家や学校なんかはその住宅地の方にある。図書館はその中間地点くらいかな。
で、織部が送ってきた場所は、その住宅地から少し離れた周りに家がほとんどない場所で、どちらかと言えば街を囲んでいる山側に近い場所だった。
こんなところに家なんてあったのか、と思うぐらいまず行ったことが無い場所。
それを咲弥や芽彩とマップを見ながら話してると、睨むような目つきでマップを見ていた咲弥がはっとした様子で口を開いた。
「この場所、昔お化け屋敷があるって言われてた場所だと思う」
「お化け屋敷?」
はて、そんな話あったかと思いつつ話の続きを聞いた。
「確かすごく大きくて古いお屋敷?みたいなのが建ってた気がする。小学生のときに肝試ししようって誘われたことある」
そんな噂あったんだな。俺はそういう誘いは詳細を聞く前に断ってたから全く知らなかった。とか思い出しつつ芽彩の方を見ると、なぜかすごい驚愕の表情を浮かべた彼女は、咲弥の顔に食いつく勢いで近づいてきて、その勢いのまま話し始めた。
「何その話ぃ!私知らないんですけどぉ~?
え、本当に学校で話してたぁ?いつぐらいの話~?そんな面白そうなことやってたなら言ってよぉ。咲弥、私がホラー好きなの昔から知ってたよねぇ?
てかこの街にもそういう場所あるんだぁ~全然知らなかったぁ!この辺りの土地情報ってあんまりないからなぁ。
やっぱりもっと自分の足で街の隅から隅まで探してみないとだめかぁ。今度誰か誘ってやろうかなぁ~」
いつものゆっくりとした喋り方からは想像がつかないほどの速さで、芽彩の口からそう発せられた。
まだぶつぶつと何か言っていて、その詳しい内容については俺には全く聞き取れなかった。別に興味ないし引き込まれても嫌なので、芽彩のことは一旦置いておく。
問題は
「その場所に織部が住んでいるってわけなんだが」
そう俺が口に出すと、咲弥がすごく微妙そうな顔を俺に向けてきた。
「謎だとは思ってたけどさらに謎は深まるばかり」
「まあ本当にそのお化け屋敷かはまだ分からないだろ。咲弥だって建物自体も直接見たことないんだろ?」
「それでも本当にこの辺り、だれも住んでないし」
それはそうなんだよな。事実として気になるところしかないことは変わらない。
てか普通に行きたくなくなってきたんだけども。
「実は人間じゃないとかぁ~?」
妄想に想像を膨らませていそうな芽彩さんが、なんとも楽しそうにそう言ってきた。
「おれリアルお化け屋敷とか普通に無理なんですけど」
「でもいくしかないでしょ~」
まあ今更だしそうだよな。はー……
なんて話がまあ一つ目の問題だったわけで。
”まず”なんて言ってるからにはもちろん問題はそこだけじゃない。
いや別に問題は何もないんだけれども、よく言う常識と比べて変なんだよ。
二つ目のことは、実際にその場所に行ってからのことだ。
言われた場所に無事たどり着いてみると、俺たちの目の前に塀があった。
超広い敷地を囲むまあまあ高い塀が、道の角から角まで続いているのが見えた。
確かに、マップを見たのと咲弥の話から、結構広い場所なんだろうとは思ってた。が、その場所は俺の想像を優に超える広さをしていた。
俺らの背よりも高い塀の先には、建物の屋根の影すら見えなかった。
塀の高さもあるが、敷地内はここしばらく人の手が入ってない様子で、塀の外側から見ても分かるほど緑であふれていたのも原因だと思う。
草が生い茂り、それが塀の外にまで巻き付き、さらに塀の内側には背の高い植物が生えていて中の様子が全く見えない。
人が住んでいるとは到底思えない様子だった。
「なんというか……」
「怖いよりすごいが勝つねぇ~これぇ」
「これ人住んでるのか?てかここで本当に合ってる?」
そんな会話を、敷地の入口らしき扉の前で繰り広げる。
「でも一応、表札は合ってるみたいだよぉ~?」
そう言って芽彩が指した先には、生い茂る植物の合間にかろうじて見える古い表札があった。
表札の周りだけ植物が無くなっていて、そこだけ人の手が加えられていることが分かる。
人が住んでる様子はなかったけども、さすがに数十年手を加えていないって程の様子ではない。
定期的に管理をしに来ている人がいるんだろうかと考えてると、スマホを見ていた芽彩が画面を見た状態で俺らに対して話し始めた。
「織部からの話だとぉ、もう少し先に曲がれる道があってぇ~そっち側から入れる裏口があるらしいよぉ~」
改めて送られてきてた内容を確認してみたら、確かにマップの端に手書きでそう書いてあある。
「本当にここなんだな」
「本当に人が住んでるとは思えないねぇ」
送られてきてた指示のまま道を曲がってみると、確かに塀の途中に裏口らしきところがあった。
表側の緑が張り付いた植物の壁みたいになっていたものと違い、しっかりと扉だと分かる格子のような黒い扉があった。
その周りだけキレイに緑が無くなっていて、最近人が出入りしていたのが分かる。
周囲に人が暮らしていないからか、街頭も少なく日が昇っているのに少し薄暗いその場所は、なんと言うかとても怪しい雰囲気があった。
「普通に帰りたい……」
「ここまで来たんだから、もう後戻りはできないよぉ~」
俺の言葉の抵抗が聞き届けられることなく、芽彩に引っ張られるように裏口の扉をくぐっていった。拒否権はないらしい。
咲弥もその後に続いて塀の内側に入ってきた。
てか、芽彩は一人だけ目的が変わってる気がする。
目に見えてウキウキ、ワクワク感が抑えられていない。
「はぁ……」
俺は抵抗することを諦めて、まあ始めからそんなつもりもなかったけども、生い茂る草の中にある道らしきところを通って、芽彩の後をついていくように歩みを進めていった。




