16話
10月と言えば中間テストがある。
今朝のホームルームで俺の担任がちゃんと勉強しろよと、ど直球で釘を刺してきた。
勉強ねぇ
俺は別に勉強は得意でもなく苦手でもないと思う。
ある程度それなりに、時間があれば勉強はしているが、毎回テストで絶対9割以上を取るなんてことはなく赤点を取ることもない。大体どの強化もほぼ平均で、良くもなく悪くもない平凡で普通な成績。
でもさすがに単位を落とすと面倒だし、落とすと補講でゲームする時間が減るから、特に定期試験は真面目にやっているつもりではある。
だから今回もいつも通り、授業でテストに出るって言われたポイントを押さえて勉強する予定ではある。まあ特に問題はないだろ。
「……勉強教えてくれ」
昼休みに入り屋上にいつもの四人が集まった瞬間、開口一番に咲弥がそう言ってきた。
いつも静かで口下手寄りの咲弥が、少し必死そうな真面目な様子で言ってきたから結構驚いた。
「咲弥がそんなこと言ってくるなんて珍しいねぇ~。なんで急にぃ?咲弥ってそんなに勉強苦手じゃなかったよねぇ?」
芽彩が心の底から不思議そうに咲弥にそう言っていた。
確かに今まで小中高と、咲弥と芽彩とは同じ学校だったが、特に勉強関係で相談されたことはあまりなかった気がする。
あるとしても課題で分からないところがあるとか、答えを確認したいとかその程度で、ここまで切羽詰まった様子は初めて見た。
「ほんとどうしたんだ急に。咲弥も毎回平均は取ってるだろ?」
まあ良い点数が取れて損はないけどさ。
「確かに赤点は取ったことないけど、いつも平均止まりでそこまで良い点が取れたこともない。
それに今回は俺の苦手な教科がいくつかある。だから勉強を教えてくれませんか……」
確かに今回はいろいろ難しそうな、というか面倒な問題の出し方をするタイプの先生がいるから、俺も自信があるとは言い切れないけど。
「私はいいよぉ~」
「俺もいいぜ」
俺も大丈夫、むしろありがたいかも。楽に勉強できる場所があれば時間をうまく使えるし、そっちの方が俺的には集中できる。その分家でゲームする時間が作れるっていうのが本音ではある。
「でも俺らだけでやるなら、勉強の得意不得意がちょっとは分かれてないと難しくないかー?」
「たしかに、まず誰がどの教科が得意、不得意かを知っとかないと」
ちなみに俺は英語が無理。文章を読むくらいなら少しできるけど、話すのとか聞き取りとかはマジで苦手。
「俺は基本どの教科もいけるけど。どちらかというと文系教科の方が得意かもなぁ」
「私も偏って苦手な教科はないかなぁ~国語と英語は得意な方で~す」
「俺は基本どれも普通……英語と理系、特に数学が苦手」
「おれも英語は苦手、それ以外はまあまあかな。暗記系の方が得意寄りだと思う」
全員の得意な科目と苦手な科目が分かった。といっても、織部と芽彩はまず苦手な科目がないなら例外だとして、それに関係なく全体的に文系に偏ってる気がする。
多分暗記系が得意なのか、暗記力も理解力も高いのかの違いなんだろうな。
「つまり教える側は英語と数学か?柴田の苦手な科目を中心に、俺と桜木がそれぞれ教えるって感じでどうだ」
「私はそれいいと思う~。もし分からないところがあっても、私たちの方で聞き合ったりして一緒に考えられるし私たちの勉強にもなるからねぇ~」
「おれもそれでいいよ」
まあ俺はそれを言う立場じゃないけど。
何にしろ、それを聞いた咲弥は、頭を床につきそうな勢いで下げると
「本当にありがとうござます」
と今年初めて聞くかもしれないガチのトーンでそう言ってきた。
さっきから思ってたけども、いつも部活一番で部活に全てを捧げているような咲弥がこんな提案をしてくるってのがまず珍しい気がする。
頭打ったか脅されたのか。そんな冗談は置いておいて、何かあったとしか思えない。いや、でももしかして……
そんなことを考え、ふと頭に思い浮かんだことをそのまま咲弥に尋ねてみた。
「もしかして、部活の方でなんか言われたとか?」
「次の中間の点数が悪かったらしばらく部活参加禁止、とかぁ~?」
「……」
どうやら図星っぽい。冗談で言ったつもりだったけど、咲弥にとっては「部活動禁止」がある意味脅しといっても過言なのかもしれない。
「でも、咲弥って部長になったんじゃなかったっけ?部活をやるかは咲弥次第なんじゃないの?」
「たしかにぃ~。でも部長が点が悪くて部活できないなんてぇ、メンツが立たないもんねぇ~」
「じゃあ顧問の先生に言われたとかか?」
ああー、それが一番可能性が高い気がする。いや多分、顧問だけじゃなく同級生やら他の部員からも言われたんだろうなー。
咲弥のところは仲良いし、咲弥自身が慕われてるからそういうノリは多いらしい。
確か「部活動は真面目に、それ以外はゆるくてもいい。でも怠りはするな」がモットーって言ってた気がする。信頼ゆえの厳しさ(?)なのかとは思う。
「てか柴田が部長やってるところ想像つかねぇなー。部長だってことも今聞くまで知らなかったし」
「そうか?運動出来て性格良くて頼りになる、こんな運動部の部長向きな人中々いないと思うけど」
咲弥は鋭い目と口数の少ないところから怖い印象とかを持たれがちだけど、喋ってみると結構印象変わるタイプだと思う。知る人ぞ知るって感じ(これ使い方あってるか?)
「ふ~ん、藍の咲弥への印象ってそんな感じなんだねぇ~」
「本当のこと言っただけだけど。芽彩だってそう思ってるだろ」
昔芽彩が咲弥に対して同じようなことを言ってたのを覚えてる。
「ま、そうだけどねぇ~」
「その話はもういいから!勉強会のこと決めよう」
咲弥ってほんとこういう話苦手だよなー褒められ慣れてない感じ。今はそんなこと考えてる余裕がないからかもしれないけど。
「じゃあとりあえず放課後、図書館とかでいいかぁ?」
「私は委員会が終わった後ならいけるよ~」
「おれもいつでも大丈夫」
「俺は副部長とかにも聞いてみて調整してみる。絶対行くからそこだけは心配しないでくれ」
そのあたりは信用してるから大丈夫。
「そこまでして来ないのはただのヤバい奴だろ」
おい織部、ストレートだな。確かに正論ではあるけども。
「咲弥なら大丈夫でしょ~押し負けない限りは」
「何があっても絶対行きます、後輩にお願いされても体育館が爆発しても台風が直撃しても何が何でも行きます」
「それは覚悟決まりすぎだろ」
「弟妹たちにお願いされたらぁ~?」
「……心を鬼にして行きます」
そんな悲しそうな顔するくらいならお願いは聞けばいいだろ。別に勉強だけやれってわけじゃないんだからさ。ほんと極端だなー。
「あんまり意地悪言うなよ。芽彩だって弟にお願いされたら断れないだろ?」
「それはそぉ~」
「じゃ、勉強会についてはそんな感じで」
そんな雑談をしているうちに昼休みの終わりのチャイムが鳴った。
各々が立ち上がって教室へ戻ろうとしたとき、同じように立ち上がっていた芽彩がふと何か思いついたような表情を浮かべ、一度動きを止めて俺らの方を見ると言葉を発した。
「あ、図書館さぁ~学校のじゃなくて街の方のに行きたいんだけど~」
「ほう。それはまたなんで?」
「学校の図書館って、この時期ちゃんと人が多くて席があんまり空いてないんだよね~。
街の図書館なら広いし静かだし。学校からはちょっと歩くけど、私たちの家の方にあるから帰りも楽だしさぁ~」
へーそうなんだ。普段図書館なんて使わないから混んでるとかは全く知らなかった。
街の方のも全く行かないからなー下手したら数年ぶりとかかも。
「おっけー、じゃあとりあえず明日からか?柴田も聞く時間が必要だろうしな……」
「えぇ~今日からでいいでしょ~」
え
「思い立ったらすぐ行動!善は急げでしょ~」
勢いも行動力もすごい芽彩らしい……でもそれはちょっとさすがに咲弥が可哀想なんじゃないか?
すこし苦そうな顔をした咲弥のことは全く気にせず、一度始まった芽彩の思考は止まらない。
絶対できないことは言ってこないけど、それ以外のことならなんでもやってみる精神だから、毎回行動力がすごいんだよな。
なんて思っているうちに昼休みが完全に終わった。




