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15話

「この後はどうするのぉ?この子たちはまだ体力有り余ってそうな感じするけどぉ」

 芽彩がふたりにかまいながらそう聞いてきた。

 多分、この後このまま家に帰るのか散歩を続けるのかを聞きたいんだろうな。

「もう少し上の方まで行って帰る予定」

「そっかぁ、じゃあまた学校でねぇ~。ワサビとサクラも散歩楽しんできてねぇ~」

 サクラが名残惜しそうに、芽彩の足元に張り付いてなかなか離れようとしなかったが、俺が無理矢理抱きかかえて引きはがした。サクラから珍しく抗議の声が聞こえてくる。

 なんだかんだで芽彩と別れ、いつも通りの散歩コースを進んで行き、さらに少し坂を上ったとこにある高台の方に向かった。


 学校を越えて道沿いを進み、坂を上った先にある高台は、俺らの住んでいる街全体を広く見通すことができる。

 周囲を小高い山々に囲まれ高低差のある街は、住宅街や高校のある高い場所から、駅や店の集まる中心地に向けてたくさんの人が行き来している姿が見える。

 夕方ぐらいの時間になり、街のあちこちから店や家の明かりが見え始めているのが分かる。


 ワサビは流石に少し疲れてきたのか、歩くペースが落ちてきたがそれでも止まることはなく道を上っていた。サクラの方は、坂沿いにある塀の上にスッとジャンプして飛び乗ると、尻尾を上げながらトトトっと慣れた足取りで歩いている。

 ふたりの様子をみながら高台にたどり着くと、誰かが街の方を見ながら立っているのに気づいた。


 高台の一番街が良く見通せる場所に、跳ね気味な黒い髪の見覚えのある人物が立っていた。

 そいつは高台を囲む柵によりかかり、夕焼けに染まる空と遠くに見える街の様子を眺めているようだった。

 さらにその人物に近づくと、夕日に照らされた彼の髪や瞳が、少し赤みがかっているように見えた気がした。

 その横顔にはいつものような飄々とした笑みはなく、一点を見つめている姿は何を考えているのか、つもよりもさらに落ち着いているように見えた。


 あと違和感があるとすれば、今日の彼は眼鏡をかけていない。

 というか、眼鏡をはずしているところ自体初めて見た。学校でも外で俺らと会うときも、いつも絶対にかけていて外しているところは一瞬たりとも見たことが無い気がする。


 そいつ、織部は俺が近づいてきたことに気が付くと、街の方から視線を外し俺の方を向くと

「よ、昨日ぶり」

 といつもの軽口で話しかけてきた。その表情は普段学校で見かけるものと同じ、何を考えているのかよく分からないわざとらしい笑みを浮かべていた。


「こんなとこで何してんだよ」

「別に俺がどこでなにしてようが今お前には関係ないだろ?」

 当たり前かのようにそう言ってきた。確かに、彼が何をしていようと、俺には全く関係ないし興味もない。

 でもこのタイミングで俺の前に現れたのはさすがに偶然ではないと思うけど……


 普段全く家出ない俺と、こんな連日で偶然会うことはさすがにないだろ。いくら同じ地域に住んでいるからって、意図してやってるか、毎日外出てるとかじゃない限りこんな出会うことねぇと思うが?

「さっき桜木に会ってさぁ、藍がこのあたりに行くって聞いて、暇だし行ってみるかって思ってなー

 本当に今日は何も用はない。このあたりはあんまり来たことがなかったし、ついでに街を見通せるところはねぇかなって思ってこの場所に来ただけだ」

 ほんとかよ。言ってることは別におかしなことじゃないが、彼の笑みを見ているとなぜか何を言っても嘘くさく感じる。

 嘘くさいというか、何かを隠している気がしてならない。


 彼の性格は苦手だけども、飼い主とは違い犬猫たちはこいつに懐いてるらしく、彼のことに気づくと一番に駆け寄っていった。さっきまであんなに走ってたのに、まだそんな元気あるのかよ。

「おお、また会ったなワサビ!今日はサクラもいるのか~」

 ワサビとサクラはじっと彼の方を見て鼻や耳をぴくぴくと動かしている。さっき芽彩や柴田に会ったときと違い、真っ先に飛びつくことはしなかった。


 彼はふたりの顔を見ると何か考えるそぶりを見せ、口角を上げてニヤニヤと笑う。

 この表情は彼がいつも何かを企んでいるときの様子に似ている気がする。

「ふむふむ、最近藍がそっけなくて寂しいってか?自分たちがかまってあげてるのに見向きもしないからムカつくって?はは、なんか想像つくな~」

「おい、俺はちゃんと時間があるときはかまってるだろ。てかお前は勝手に代弁するな。

 そんなにかまってほしいなら、俺じゃなくて姉さんや母さんのところに行けばいいのにさ。なんで俺なんだよ」

「んー、ちょっと間抜けで自分たちがいないとダメになるから?面倒くさがりながらもなんだかんだかまってくれるから?」

「なんで疑問形……てかそれ一部はお前の本音なんじゃないのか?」

 彼らは揃いも揃って俺のことをジロジロと見てくる。間違ってるところなんてあったか?とでも言わんばかりに両手を腰に当てて体を傾け首を傾げている。

 ワサビとサクラも一緒になって首をかしげるなよ


 そんなよく分からない会話をしているうちに、橙色に染まっていた空がさらに薄暗くなっていく。さすがにそろそろ帰ろうかというところで、特に用事もないと言う彼と共に高台を後にした。

 帰りの坂は、ワサビとサクラと彼が結構な本気で駆け下りていくのをまあまあ必死に追いかけて行った。普通に疲れた、普段ほぼ引きこもりと言っても過言ではない俺にこの運動量はつらすぎる…


 途中、夕日に照らされた街を見た彼が、改めて街の方を見て

「ここはきれいだな」

 と言っていた。そう言ったときの彼の顔は、さっき高台で一瞬見えた表情に似ていた。

 俺からすれば十数年ずっと見てきた光景だから、キレイかどうかはよくわからない。


 そんな感じで住宅街の方まで普通に降りていき帰路につこうとしたところ、ふと思い出したことがあって織部に声をかけた。

「この後時間あるなら、俺ちょっとスーパーに寄りたいからその間こいつらのこと見ておいてくれない?」

「いいけどなにお前、自炊でもするのか?」

「そうだけど」

「へぇー」

 え、なに、そんなに驚くことか?別に俺だって自炊ぐらいするけども。

「お前料理できるんだな~」

 失礼な奴だなおい。

「家に誰もいない日は自分で作ってんだよ。別に日常的にはしねぇけど、大抵の料理はレシピがあれば作れる。そんなに疑うなら今日うちで食べていくか?」


 織部は少し考える素振りを見せた後、

「今日はいいや。色々と面倒くさいことになりそうだからな」

 と言ってきた。面倒なことってなんだ、何でそんな不穏なこと言うんだよ……

 そんな俺が料理を作っただけでなんか起こるわけないだろ。俺が大量の唐辛子を織部の料理にだけ仕込まない限りはなんもねぇと思うが。

「そんな顔すんなよ。まあ、料理はまた他の二人とかがそろってる機会にでも作ってくれ」


 目元や口元はニヤニヤとしているが、俺には彼の口ぶりは結構真面目に言っているように聞こえた。

「別にいいけど」

 でもそれって俺の負担デカくないか?二人分ならともかく、四人分は結構ちゃんとした量作らないといけないだろ。

 あるかも分からない後のことに文句を言ってもしょうがないけど。

「もしその時はお前らも手伝えよ」

「はいはい」




 そのまま下まで降りてスーパーに寄った。

 織部にふたりを預けてスーパーに入り、買い物が終わって店の外に出ると、みんな疲れていたようで、同じ方向を見てぼーっとしていたのは面白かった。

 別に、織部が犬みたいとか猫みたいだとかって思ったわけではない。多分


 スーパーを出てすぐ彼と別れ、俺はサクラとワサビと家に帰った。普通に散歩に行くだけのつもりが、いろいろあってさすがに疲れた。

 なんでこうゆっくりしたい日に限って面倒なことばっかり起こるんだよとか思いつつ。こういう時はゲームをするに限るということで、さっき買った材料と家にある者で簡単に夕飯を作って食べた後、犬猫たちに餌をあげて自分の部屋に戻り、いつも通りパソコンの前に座ってゲームを始めた。



 ちなみに、家に帰って手を洗ったりワサビの足を拭いたりした後、家のどっかに逃げられる前にすぐサクラのことを洗った。

 サクラは水が嫌いな上、体が大きくて力が強いから毎回洗うときには苦労する。

 でも毛が長くてゴミもつきやすいから、さすがに洗わないとまずいということで、毎回バトルするつもりで洗っている。洗った後は、すごい不機嫌な様子で俺から離れてたけど、いつの間にか俺の膝上に乗ってきて尻尾で俺のことをペシペシと叩いてくる。


 別に俺は嫌われたっていいんだけどな。嫌なことをやったのは分かってるから、一応さっきリビングから持ってきたおやつをサクラにあげた。お詫びってことで

「にゃ」


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