14話
彼らと分かれた後、またいつも通り散歩コースを進み上の方に行く道を歩いていく。
坂道も関係なしに上へ上へと走って行こうとしてるワサビのスピードについていけるはずもなく、傍から見たら俺が散歩されている側みたいにも見えるかもしれない。
飛ばしすぎないように気を付けつつ、マイペースにいつもよりも少し遠くの道を通る「休日散歩ルート」を進んでいく。
しばらく道沿いを歩きいくつか道を曲がったりしながら学校の近くまで来ると、突然さっきと同じようにワサビが道の角で立ち止まり、尻尾を大きく振りはじめていた。ものすごいデジャブを感じる。
「…芽彩」
「藍じゃん、おはよぉ~。いやこの時間ならこんにちはかなぁ~。藍ならどっちでも変わらなそうだけどぉ~」
何か聞こえた気がしたけど…角の向こうからやってきた人影は、なんとなく予想していた通りの人物だった。
まあワサビが反応する、かつこのあたりで出会う人物は限られてるからべつに驚きはしない。
制服姿の芽彩は、いつもより身軽なトートバッグを肩にかけ、にこやかな表情で俺たちの方を見て軽く手を振っている。
ワサビがまた飛びかかる勢いで芽彩に向かって走り寄って行こうとしたから、全力で止めつつ彼女の方に近づいていった。
「それはいいとしてぇ、お散歩中ですかぁ~?わぁ、ワサビとサクラは久しぶりだねぇ~」
芽彩はワサビが近くに来ると、しゃがみこみ両前脚を膝にのせてきたワサビの体や頭をなでていた。
「休みの日にこんなところでなにしてんだ?」
「いやぁちょっと学校に用事があってねぇ、ちょうど帰るところだよ~」
ワサビちゃんたちに合えるなんてラッキぃ~っていう心の声が聞こえてきそうな表情で、夢中になってお手とか顔を両手で包んだりとかしている。
そんなふたりの様子に対し、サクラはしっかりといつもより念入りに芽彩の匂いを嗅いでいる。多分、芽彩の家にいる猫たちの匂いが気になるんだろう。
「ん?うちの猫たちの匂いついてるかも。一応猫の毛が付かないように奥の方にしまってるんだけどねぇ~
サクラは他の猫苦手なタイプ?」
「気にはするけど、そこまで嫌がりはしないと思うよ。この間うちに来たときも別に芽彩のこと避けてなかっただろ?」
「たしかにねぇ。うちの子たちとは大違い」
芽彩はサクラに空いている方の手を差し出して匂いを嗅いでもらうと、すぐ撫でろと言わんばかりに手に頭を押し付けてきたサクラを慣れた手つきで撫でていた。
「サクラもかわいいねぇ~うちの猫たちは短毛種だからこんなに毛は長くないからさぁ。
このふわふわ感は長毛種の特権だねぇ~」
芽彩とふたりの間だけ時間がゆっくりになってるような、ふわふわとした雰囲気が流れているのを感じた。
「芽彩の家の猫たちは散歩とかしないのか?」
「うーん、うちの子たちは外苦手だからねぇ~あんまりないかなぁ
散歩って言うなら、外の子たちと行くことは多いかもぉ?完全にうちで飼ってるってわけじゃないけど、家の近く歩いてたりとか公園行ったりすると、近所のさくら耳の子たちとかが近くに来るんだよねぇ~」
その話は昔からよく話してたけど、芽彩以外から聞いたことがないんだよな。
多分、芽彩は動物の中でも特に猫に好かれやすい体質なんだろうと思う。あんまり聞いたことないけど、事実サクラも芽彩の足元に体を摺り寄せ、全く離れようとしない。
そういえば一時期、猫の集団を連れてる人がいるって噂になってたけど、もしかしなくても芽彩のことだろうなとは思っていた。俺も一度くらいその現場を見てみたいと前々から思ってる。
「そういやさっき川の方で咲弥きょうだいに会ったよ」
「へぇ、それって下の子たち?咲弥の弟妹ってすごく可愛いし優しいよねぇ~あと咲弥にすごい似てる。抜けてるところ以外、見た目も性格も反応もそっくりだよねぇ。さすがきょうだい。
二人って今何歳だっけ?」
「たしか下の妹ちゃんが小2で弟くんが小3って言ってたな」
「もうそんなにおっきくなったのかぁ、早いねぇ~
初めて会ったとき、すごいちっちゃくて触るのが怖かったんだよねぇ~懐かしいなぁ」
すごく分かる。俺は下に妹弟がいないから、あのとき初めて間近で赤ちゃんを見たんだよな。それで思ってたよりもすごく小さくて軽くてやわらかくて驚いたのを覚えてる。
「うちはさいろいろ複雑でしょお?だから弟の小さい頃のことは知ってるけど、生まれたばっかりのころをあんまり見たことなかったからぁ。ああ、こんなに小さかったんだぁ~ってね、なってたんだよねぇ
それにその時の私はまだ小さくてあんまり色々と詳しいことにも興味がなかったからなぁ。」
まぁ今はずっと一緒にいるからねぇ~本当うれしいと思ってるよぉ、と芽彩は続けた。
芽彩も向こうの兄弟に負けず劣らずのブラコン。関係性はちょっと違うけど、仲が良いことには変わりない。
本当に俺とは大違い。
「藍と菫さんも仲良いでしょ~?」
「いや、どこをどう見たら仲良く見える?」
「だってぇまったく口きかないとか、会ったらすぐ喧嘩するってわけじゃないでしょ?仲良くなかったら一緒にいることもないと思うけど~?」
んーそうか?
でも仲が良かったら勝手に俺のモノを借りていく(パクっていく)なんてことしないと思うけどなー。ちなみに借りられたものがちゃんと帰ってきたことはほぼない。
それにくだらないことで大人げなく俺に嫉妬してくることもしないと思うんだけどなー
我儘で自分勝手で嫉妬深くてうるさくて俺のミスに対してはすぐ冷やかしてくるクソ姉貴…
真面目に、いいところが全く思い浮かばない。
「全然仲良くねぇよ」
「ほんと素直じゃないねぇ~昔は何かあればすぐすみれちゃんに頼ってたのにさぁ
お姉ちゃん!って言って後をずっとついて回ってたよねぇ~」
「マジでさぁ、それ今俺しかいないところで話す意味ねぇだろ」
てかよくそんなこと覚えてんな
「その話続けるなら帰っていいか?」
「えぇ~逆に誰かが聞いてるわけじゃないんだからいいでしょ、何で認めないかねぇ~
てか、私はもうちょっとこの子たちと戯れたいんですけどぉ?」
はいはいって、何で俺が妥協しているみたいになるんだよ
そんな会話をしつつ、しばらく道の外れで芽彩とワサビとサクラが遊んでいるのを見ていた。
ワサビが芽彩の動きを真似てその場でくるくる回ったり手をあげてタッチしたり、あとは芽彩がワサビの頬をみょーんと伸ばして両手でこねたりしていた。
芽彩の足元には、サクラが外にいること関係なしに道路の上を転がって、お腹を芽彩の方に見せている。
これは後で毛を手入れしないとだな。




