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13話

 今日は家に誰もいない。両親は夫婦二人だけで出かけていて、明日帰ってくるらしい。

 休日にもかかわらず今、家の中はとても静かで不思議な感じがする。やることは終わらせたからガチで暇だ。

 ゲーム…はやりたいけど、なんか今じゃない気がする。

 暇だなー

 ”ミャー”

 今俺は自分の部屋のベッドでソラと一緒に朝からずっとごろごろしている。仰向けにぼーっと天井を眺めていたら、急に視界の端からのっそりと何かが現れ、目の前がデカいモフモフにふさがれる。モフモフの正体である猫のサイベリアンという種類であるサクラが、俺の顔面に乗ってきた。鼻が塞がれていて息がしずらい、あと重い…

 あいたい、つ、爪が俺の額に食い込んでる。サクラぁー、ごめんて


 そんなことを起きてから数十分ほどしているが今日は休日。せっかくの休日にずっと寝ているのもあれだし、何もしないのもなんだと思い、一旦体を起こして俺の顔面に全身で乗っかってるサクラを両手を使い持ち上げる。

 そのままサクラの体に顔を近づけて軽く吸ってみた。ネコの匂いがする…日向の匂い。

 まったく抵抗しないサクラの肉球を触ったり、しまわれている爪をにゅって出してみたり、サクラをベッドの上に置いて伸びるだけ伸ばしてみたりした。

 本当に、されるがままで全然動かないし何も言わない。でもちょっと面白い。


 そんなことをしていたら横から服を引っ張られた感覚がする。サクラをわしゃわしゃと触っている俺の視界の端に、黒いふさふさの耳が映っているのが見える。ワサビ?ワサビ姫ー?ちょっと、その服を引っ張るのやめてくれますか。

 服伸びちゃう、穴空くから…

 俺が構ってくれないと分かると、彼女は今度は俺の足もとの方に来て、さっき起きてすぐ履いたばっかりの靴下を持って行こうとした。マジでそれやめて。それのせいで何十足の靴下がダメになったことか


 そんな俺の言葉を聞くこともなくワサビが散歩をねだってくる。ラブラドールのサンゴさんは散歩には興味ないらしく、俺のベッドの横にあるイヌ用の布団で寝ている。

 彼女よりも、サクラが外に出たそうにしていた。元々サクラは外に行くのが好きだけど、長毛で夏の暑さはさすがにヤバいということで、最近はあまり外に連れ出していなかった。

 最近は特に元気が有り余っているようで、暇さえあれば家の中を走り回ってるのを見かける。

 あと毛が長すぎて、外を歩くとすぐ汚れてしまうから、俺の都合的に頻繁には散歩に連れて行っていない。

 外好きなのはいいけど、水嫌いだから毎回汚れ体を洗うのには苦労する。


 同じ猫のソラも、若さも相まって無限に元気ではあるが、どちらかと言うとインドア派らしく自由にいろんなところを歩いたり日向ぼっこをしたりして、好きな時に好きなところで眠るというよく言う猫らしいマイペースな性格をしている。

 あと、外には興味がないというか少し苦手らしく、車が通ったときにその音にビビっている姿を何回か見たことがある。




 なんだかんだで今日はワサビとサクラを連れて散歩に行くことにした。幸い今日は少し涼しいという予報だったから、ちょっと上の方まで行ってみようかと考えてる。


 楽しそうに俺の少し前を突き進んでいくワサビと、何かを見つけるのかすぐ脇道にそれるサクラの手綱を握りつつ散歩に行った。

 いつも通りの散歩コースを進んでいくと、ワサビが角を曲がってすぐ、道の先の方を見てくるりと丸い尻尾を、すごい勢いと速さで左右に振っている。これは知ってる人に会ったときの反応。

 前へ前へと引っ張られる勢いを止めつつ、道の先にいる人物の元へサクラのマイペースなスピードに合わせて歩いていく。


 数メートル行ったところで、道の反対側から歩いてきた咲弥が俺らの目の前に来ていた。

 普段の制服姿ではなくラフな格好をした、いつも通りの穏やかな表情を浮かべた咲弥の元にワサビが飛びついていく。

「おおワサビちゃん、この間ぶり。それに藍とサクラちゃんも。珍しいな、藍が休みの日に外にいるなんて」

「別におれだって外ぐらい出るけど?俺のこと何だと思ってるんだよ…」

 たしかに普段ならほとんど家から出ないでゲームしてるから否定はできないけど…なんかむかつく

 行けワサビ、そのまま咲弥を舐め倒してしまえ


「ごめんって。ちょ藍、ワサビちゃん止めてくれ」

 ワサビに全力で飛びつかれている咲弥を見ていると、彼の後ろから二つの小さな影様子を伺うように出てきた。それに気づいたワサビが一瞬動きを止め、それを見ていた二人はワサビに気づくと彼女の傍に駆け寄ってきた。

「わあー!わんちゃんだ!」

「ネコもいる!」

「「かわいい!」」


 おお、子供の元気ってすごい。いつも遠慮なく目の前に突っ込んでいくワサビがちょっと押されてる。

 多分咲弥の身長がデカすぎて、ワサビは二人がいることに気が付かなかったらしい。

 そんな二人は咲弥の弟と妹。咲弥とは少し年が離れているがとても仲の良い兄弟だ。

「らんくんだ!こんにちわ!」

「らん兄ちゃん、久しぶり!」

「うん、久しぶりだね」

 二人にされるがまま、珍しくじっと大人しいワサビに対し、それをサクラは目を付けられないようにこっそり俺の後ろで見ていた。ふと二人の動きが止まり、その視線がサクラに注がれてる。

 少し面倒くさそうな反応をしつつ、前にでることもなくそのまま二人を見続けているサクラの傍に、柴田弟妹は遠慮なく近づいてきた。

「わんちゃんくろーい!ぺろぺろしてる!ねこちゃんおっき~い!もふもふ!」

「このイヌとネコってらん兄ちゃんの家の子なの?」

 柴田弟が目をキラキラとさせながら、俺にそう聞いてくる。

「そうだよ、二匹ともうちのかっこよくてかわいいワンコとニャンコ」

「すごくふわふわしてる~かわいいね!」

「さわってもいい?」

「いいよ~、尻尾とか耳は触らないでね。怒っちゃうから」

「「はーい」」

 二人は元気にそう返事をすると、すぐにワサビとサクラのことを撫で始めていた。

「名前なんていうのー?」

「こっちの(ワンコ)がワサビ、(ニャンコ)がサクラ。二匹(ふたり)とも女の子だよ」

「へ~、わぁ!」

 ワサビは柴田妹が撫でようと差し出した手をべろべろと舐めると、尻尾をぶんぶん振りながら妹ちゃんに甘えていた。

 小さい子が相手だからか、いつものように勢い任せで飛びつくことはしてなかったが、妹ちゃんに合わせて体を低くしてそのままお腹を見せて地面に転がり始めそうだった。妹ちゃんもワサビに全く怖がることなく楽しそうにしているからよかった。


 弟くんの方は、普段その辺で見る猫よりも少しデカめのサクラに最初は驚いていたが、多分驚きよりも興味が勝ったようで、慎重そうに怖がることはなく彼女に手を近づけていた。

 サクラがその手の匂いを嗅ぎすぐその手のひらに頭をこすりつけると、弟くんはものすごくうれしそうな顔をしていた。

 ほんと素直で優しくていい子たちだな。まあ咲弥があの性格なのも含めて、本当に仲が良くて優しい家族なのは一緒に過ごしてきた俺はそれなりによく知っている。


 その隣では咲弥が、そうだよなこの子たちかわいいよなと言うかのようにうんうんとうなずいている。

 ほんと昔からブラコンなんだよな。多分、いつもの咲弥の姿しか知らない奴からしたら、別人なんじゃないかって思われるくらいには溺愛してるのが分かる。


 咲弥と日常的なくだらない話をしながら、彼の弟妹と犬猫たちがわちゃわちゃしているのを眺めていた。

「ちなみに二人を連れて何してたんだ?散歩か?」

「外に行きたいって言われて、休日だから俺が一緒に公園とかに行くかって言ってこう」

「なるほどな」

 ほんと家族思いで優しいやつだな

「それで言うなら藍はなに、散歩?サクラちゃんも散歩連れてくんだな。猫の散歩って初めて見た」

「涼しい時期はたまに連れて行ってるんだよ。家の中だけだと動き足りないみたいだからなー」

「へー」

 あんまり興味なさそうな反応が返ってきたけども、まあいいや。

 ここまで全然いつも通りで、十分ちょっと話したあとその場で柴田兄弟たちとは別れ、そのまま散歩を続けた。

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