命を懸けてごめんなさい
登場人物紹介
・近藤 由美
地獄に堕ちた女子中学生。
自分の罪を自覚、反省し、自ら虐めた川口 美咲とその兄に謝罪することを望む。
・川口 創一
地獄の創造主。 地獄王を操っていた張本人。
初めて由美と対面し、激しい憎しみを放つ。
実は精神が壊れている。
・ファスト
獄卒長だが元の世界では王だったらしい。
戦闘力が滅茶苦茶高く、山より巨大な鬼すら一太刀の下に葬り去る。
・サアド
獄卒長だが元の世界では守護女神。
神なだけあって、元の世界では一番上位の存在。
彼女の作るバリアは何者も破る事は出来ない。
また、記憶を元に再現世界を創造できる。
・川口 美咲
由美に虐められていた女子中学生。
生前は優しい子だったらしい。
・赤松 レイ(地獄王零)
創一の傀儡として地獄王にされていた。
現在は創一が自身の創った地獄に干渉するために、彼の身体を乗っ取った。
このまま外野に任せていいのか? 私は……。
「う……うっ……」
いいわけないよね?
「う、よっ……よいしょっ!」
だって……そうだろ?
「皆ぁっ!」
これは私の償いの物語なのだから!
「私を忘れるなぁぁぁぁぁ!!!」
獄卒長達の凄まじい力の余波で吹き飛んだでしまったが、それくらいなんのその。
今まで何度も死んできた身体には、巨大な鬼を吹き飛ばす程の爆風もそよ風の如し!
なんちゃって!
まぁ、そんなこんなでこれが最後だ。
被害者の兄にして、今回の事件の黒幕。 川口 創一は居る。
「近藤……由美ぃ……妹の仇……ここで消してやる……」
離れていてもわかる。
この男は私を激しく憎んでいる。 その表情はまさに鬼そのものだ。
怖い、怖い、逃げ出したい……。 それに私が何もしなくてもファストとサアドが川口兄を倒せば元の世界に戻れるかもしれないし……。
ち、違う。 そんなんじゃダメダメダメ!
ここで逃げたら私は変われない。 逃げるな由美、自分の尻は自分で拭け。 さぁ、始めるぞ! ケジメの時間っ!
私がするべきことはただ一つ、許してもらえるまで謝るだけ。
じゃ、行くよ。 近藤 由美!
「ごめんn……オブっ!?」
あ……れ……?
首のあたりに激痛が走った。 一体何が……。 恐る恐る閉じたまぶたを開き辺りを確認する。
あれ、空が下に……って、私の首、もげてるーっ!?
そう、謝ろうとしたその時のこと、川口兄は無数の触手を腕から生やし、私の首を跳ね飛ばした。
「う……うるさい。 今更謝罪の言葉なんていらない。 真に反省してるなら、お前は何も知らずここで永遠にその身を削ってればよかったんだ。 何を今更……」
川口兄は空間を破り、何か煙のようなものを出した。
その煙は瞬く間に川口兄の身体を包み込み、身体は変形していく。
「近藤 由美、この世界は終わりだ。 お前への罰も終わりだよぉ……。 これで美咲は浮かばれなくなった、俺の心も晴れねぇよ……。 俺は永遠に憎い憎い憎い憎い憎いニクイにくい憎すぎるお前を苦しめたかったんだ。 それをお前は勝手に自分の罪を思い出し勝手に反省して終わらせやがったんだ……。 このまま元の世界に帰しはしねぇ、せめてここでお前の人生に引導をくれてやる!」
話終わる頃には変形は完全に終わり、彼の姿は元の面影すらない怪物となった。
この怪物は……そうだ、地獄に堕ちて一番初めに出会ったあの緑のバケモノだ。
「この姿に見覚えがあるか? そうだろうな、これはお前を地獄に堕とした裁判官だ。 これこそ俺の傀儡にして地獄王零、その本人……そしてこいつはお前の元カレ、赤松 レイの魂のなれ果てでもある」
「赤松君もここに来てたのね」
「そうだ、こいつは美咲をたぶらかしお前が嫉妬でいじめを行うよう仕向けた男だ。 しかもその目的は女の子が苦しむ姿を見たいからというしょうもない理由でな」
「知ってる……」
「なら、お前が地獄に堕ちたのもこいつが原因だと思わないか? こいつがお前から美咲に乗り換えさえしなければ、お前だって今頃普通の女子中学生としての日常を歩んでたんだぞ? 理不尽だろ? 許せないだろ? なんで私だけこんな酷い目に……自分は地獄に堕ちるほど悪くなかったんだ……そう思わないか?」
(さぁ、反省の気持ちなんか忘れて逆切れしろ、そうすればお前は反省の気持ちが薄れていき、罪ポイントは再び加算され地獄に逆戻りだ……)
分かってる、赤松の思惑も性癖のことも……。 たしかに元はと言えばあいつが全部ぶち壊したんだ。
でもだからって私が許される訳じゃない。
いじめの実行犯は紛れもなく私なんだから……。
「思わない! 悪いのは私、私が川口さんをいじめなければ今回の出来事は無かったんだから……だから私は貴方に伝えなきゃならないんだ。」
このまま首のまま転がってちゃいけない。
「その通りだ、近藤 由美。 お前に懺悔の意思があるなら首に力を入れてみろ」
ファストは叫んだ。
なんで首に力を? よく分からないけど、ファストに言われた通りにしてみよう。
「ふん!」
ニュル、ニュルニュルニュル!
生えた、首から身体が生えた。 えっ、キモッ! 私キモッ!?
ってそんな場合じゃない。 これで私は川口兄の方に走れるんだ。
「お兄さん! 今からそっちに行き、貴方に私の気持ちを伝えたい!」
起き上がると同時に川口兄に向かって走り出した。
「偽善者ぶるな、クソガキがぁぁぁ!」
川口兄が両手を上げると私の周囲にありとあらゆる形状の刃物、武器が浮遊していた。
「魂ごと粉々に砕いてやる!」
刃物は一斉に襲いかかり、身体の至る所を余すことなく切り刻む。
「ギャアアア、イタイイタイイタイィィィッ!」
私の身体は瞬く間に無数のサイコロのようなものになり散らばった。
切り刻まれた時の激痛が走ったと思ったら、意識がどんどん遠のいていく……。 やっぱりファスト達に任せて待ってれば良かったのかなぁ……。
意識だけではない、気持ちの方も諦めかけていた……。
そんなときサアドが口を開いた。
「近藤 由美。 貴女はこのままでいいのですか? 貴女の謝罪の気持ちはこの程度でいいのですか? 貴女はまだ動ける。 目の前に居る彼はもちろん川口さん本人に謝りたいという気持ちを強く意識して見て下さい……」
どういうこと?
「さぁ、イメージしなさい。 貴女は再び立ち上がれる」
よくわからないけど、言われた通りイメージしてみた。
『既に罪は浄化済みです、罰はキャンセルされました』
何かのアナウンスがその場に響き渡る。
「はっ!?」
身体が戻ってる。 身体が再生した?
「この世界は近藤 由美の罪を物理的な攻撃を罰として浄化する場所だ。 故に彼女の罪を認め心から反省した今、罰は成立しないのだ」
「さっきの首から身体が生え再生したのも、お兄さんの攻撃による罰がキャンセルされたからですね。 ただ罪の浄化は罪への後悔や反省の気持ちがあって初めて完成するもの。 だから貴女が罪から目を背けた瞬間、この世界は再び貴女に牙を剥くことになります」
ファスト、サアド……解説サンキュー。
「大丈夫、私は忘れていないよ。 全部サアドが課した追体験のおかげで身体に反省と後悔が刻まれてるからね」
さぁ、寝てる暇はないぞ。
よいしょっと……。
「はぁぁぁぁぁぁ、お兄さん! 私の気持ちを聞いてくださぁいっ!」
私は起き上がり再び走り出した。
「来るな、来るな、来るなぁっー!」
川口兄は私を拒絶。 先程みたいに私の周りに刃物を出現させ足止めを図る。
「何度蘇っても無駄無駄無駄ぁー! 俺は何度だってやってやる。 さぁ、醜い肉塊に戻れ!」
川口兄は両手を力いっぱい振るう。 浮遊している刃物はそれに反応するかのように一斉に私に襲い掛かった。
再生出来るとはいえ、肉塊になるのは相当の激痛を伴う。 私は来るであろう激痛に備えて、歯を食いしばった。
浮いていた無数の刃物は容赦なく私を目掛けて降り注ぐ!
ガッ!
「……ぅ、うう……あれ? 何とも……ない?」
襲いかかる刃物を前にし、私は腰を抜かし尻餅をついつていた。
身体は無事だ。 傷一つない。
代わりに周囲には砕け散った刃物が散乱していた。
「近藤 由美ィッ! このまま黙って見てるだけでは時間の無駄と判断した。 故に私達は助太刀する」
ファストが大きな声で喝を入れる。
「あの男の技は可能な限り私達の力で打ち消します。 貴女は自分のすべきことだけ考えて突き進んでください」
サアドも……。 彼らは彼らで自分の世界を取り戻すために私に懸けているみたいだ。
川口兄妹だけじゃない、思えばこの世界の元々の住人も私の身勝手の被害者だものね。
私ってホント何やってんだろ……。
「しっかりしろ近藤 由美! もう少しだ!!」
起き上がるや否や、右足を勢いよく蹴って前進!
「来るなぁー!」
それを川口兄は断固として拒む。
川口兄は刃物を再び召喚!
ガキン!!
しかしファストが私の前に出てその全てを叩き落とす。
「やめろ、やめろ、やめろーっ!」
次に地面から針を山程生やし足止めを図る。
「くっ、痛っ!」
私は勢いよく針を踏みつけてしまい、刺さった針は足を貫通してしまう。
でも、これしきで立ち止まるわけにわいかない!
「ふんっ、うぅぅぅぅぅん」
悲鳴を上げたいのを必死に堪え、涙を滝のように流しながら針の山を突き進む!
「痛くない、我慢するんだ。 私はやらなきゃならないんだぁぁぁ!」
謝罪したい気持ちが強い使命感に変わった時、私の真下に広がっていた針の山は一瞬のうちに消え去った。
『既に罪は浄化済みです、罰はキャンセルされました』
さっきのアナウンス……私の意思に反応し、罰は打ち消されるみたいだ。
「クソッ、なんで俺の創った世界が俺のいうことを聞かないんだ。 ふざけるな、何が反省だ、何が後悔だ! そんなもので俺が許すわけない、もう砕け散れっ!」
川口兄は自棄になって、思いつく限りの攻撃を私に放った。
空からは雨のような氷の針が、地面からは無数の炎柱、正面からは台風のような暴風が私を妨げようと襲いかかる。
「っ! いくらなんでもこれは受けきれないよ……」
数々の強大な攻撃を前に恐怖で脚をすくませる。
「守護女神の名の下に、この娘をあらゆる厄災から護りたまえ!」
サアドが私の周りに巨大な透明のドームを作り、襲いかかる全ての攻撃を弾いた。
「さぁ、あと少し……進みなさいっ!」
「ありがと、サアド。 今まで迷惑かけたね、ごめん……。 貴女達の世界は必ず取り戻すから!」
川口兄まで後、10メートル、9、8、7、6、5……。
「来るな、来るな、来ないでくれぇー!」
彼の懐まで来たところで目の前がカッと眩しく輝く。
前が見えない、一体何をしているの?
「はーっはっはっはー、ゼロ距離からの爆風なら裏切り者供でも防げまい! さぁ、今度こそ砕け散れっ!」
カッ!!
ドゴォォォォォォォ!!!!!
「き、ギャァァァァァァ!!!」
「しまった、近藤 由美!」
ファスト達の助太刀も間に合わず、爆風に飲み込まれた。
———
「はぁ……はぁ……何なんだ……」
あの後、私はなす術も無く爆風に飲み込まれた。
しかし私は大したダメージを受けていない。
すっかり忘れてたよ、そう言えば私の身体ってギャグ補正掛かってたね。
獄卒長ナナの地獄のサーカスを爆破した時もそうだった。
だから爆発を受けた所で、頭がモジャモジャ……真っ黒焦げになるだけ……。
よし! 無事とわかったらモタモタしてられないね。
「ケホッ……ケホケホッ……お兄さん……」
4……3……2……1……。
ゆっくりでも確実に川口兄の元に近づいている。 その距離遂に1メートルを切った。 もう私を遮るものもない、もうすぐ……もうすぐだ……。
「あぁぁぁ、しつこいしつこいしつこい! お前は黙って八つ裂きのミンチになってればいいんだ。 美咲もそれを望んでいる筈! 筈なんだ! だからもうやめろ、地獄に帰れよ、なぁ……おい……」
例え謝った所でこの様子じゃ、彼は私のことを許さない。 でもいいんだ。 私は一言気持ちを込めて……。
「ご……ごめ……ごめんなさい!」
言えた……! しっかりこの口で……。
「…………うっ、うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! 今更謝ったって美咲は戻ってこない。 本当に反省してるなら、その身で照明してみろよぉぉ!」
そうよね、家族を失った悲しみを謝罪一つで賄えるものね。
……でもいいや。 私はやる事はやった、後はどうにでもなれっ!
私は両手を広げ川口兄の前に立ち、彼の目をジッと見た。
「ふん、なんだそれは? 降伏でもしてるのか? ハッ、虫が良すぎるぞ。 俺はお前を許さないっつったろ? 俺が、美咲が望むのは!」
川口兄は再び私の周囲に無数の刃物を出現させた。
「謝って許されるなら警察はいらねーんだ。 残念だったな、せっかく命懸けで謝ったっていうのにお前、これからミンチになるんだぞ? ハッ、ざまぁねぇ、美咲もこれで浮かばれるってもんだな」
「…………」
怖い、もう痛い目に遭いたくない、可能なら逃げ出したいとすら思う。
でも逃げたらダメだ、この人の怒りを全て受け止めるんだ。
「さぁ、行くぞ! 精々無様な声でも上げるんだな」
「…………」
「おい、お前。 今から全身切り刻んでミンチにしてやるんだぜ? 怖いなら逃げたっていいんだぞ? ほらほら槍でそのまな板みたいな胸をひと突きするぞ?」
「…………」
「はぁぁぁぁぁぁ! なんだよ、お前! なんで逃げないんだ? 今までのように言えよ! 私は悪くないってよっ。 こんなんじゃ、美咲だって……美咲だって……」
「逃げない、貴方の復讐心が消えるまで……死んだ川口さんが納得する最期が来るまでっ!」
「み、美咲……。 違う、違う違う違うチガウ! 俺は何をやってたんだ! 違うよな、美咲のためとかじゃないよな、俺は自分の憎しみをぶつけてただけ……」
「いいの。 貴方だって私を憎む権利はある。 貴方の大切なものを私は奪ったんだから」
「あぁぁぁぁぁ、美咲ぃぃぃ!」
川口兄の精神は壊れてしまっているようだ。 ここに来る前にサアドが言っていた。 人を憎むのはとても疲れることだと……。
彼だって例外じゃなかったんだ。 激しい憎しみを持って、ひたすら私殺し続けることで、自分自身の精神も消耗してたんだ。
だって……。
彼は妹を命懸けで助けに来る優しくて妹想いのお兄さん。 そんな優しい貴方にとって、いくら憎らしい相手とは言え人を傷つけるのは辛いよね。
だから彼はこの地獄に私が抜け出せる方法=罪の浄化を設定したんだろう。
なら彼のためにも終わらせなきゃ。
この皆が苦しむだけの無意味な地獄を!
「お兄さん……」
「あぁぁぁぁがぁっ! 美咲ぃぃぃ……」
「貴方が望むなら、貴方の代わりに私は元の世界で命を絶つ。 貴方だってこんなこと一生続けるより、その方がいいよね。 でもその前にもう一度……貴方、そして川口 美咲さんに謝りたい!」
私は地に膝をつき、姿勢を低くした。
そして……。
「ごめんなさい!」
土下座をした。
「はぁ……はぁ……本当にしつこい奴だ。 だがもういいよ、美咲は優しい子だ、多分これ以上お前を痛めつけるのは望まないだろう。 お前は美咲の苦しみも体験して、こうして謝ったもんな。 もうこれ以上俺の独断で責めるのは辞めた。 それにお前が言った通り俺も疲れたわ。 あぁぁぁぁ、終わりだ終わり!」
川口兄は召喚した刃物を消し、後ろを向いて私にしっしと手で払う仕草をした。
「俺がお前を許す事は未来永劫ないだろう。 だから俺の前にもう顔を出すな……」
「……うん」
「それともう一つ。 本当に悪いと反省しているなら……」
「うん?」
「美咲の墓参り……しろよな」
「えぇ……もちろん!」
「約束だ……」
川口兄と約束を交わしたその時、辺り一帯を眩い光が包み込み、私も……川口兄もこの地獄から姿を消した……。
次回最終回です。
もしよければ最後まで宜しくお願いします!




