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6.5

白く何も無い世界で顎に手をやり考える。

目の前の中年の男は自分の何かを知っているようだが、至極残念なことに当人である自分が自分のことを知らないので嘘を言われてもそれが本当かどうかすらわからない。


シュレディンガーの猫、というものがあるのを思い出したけれども、それは

「箱の中の猫は生きているが死んでいる」

という、なんやねんそれというエセ関西弁が出ても仕方が無いような屁理屈なので、この場合は少し違うな、と苦笑する。


そうしてつまらない戯言を考えていると中年の男(胡散臭い不審人物)が、おい、と声を掛けてきた。


「で、何から知りたいんだ?思い出せねぇ名前か?知りもしねぇ記憶か?それとも忘れちまった技術か?さぁ、どれがいい?」


非常に悩む選択を押し付けてくる。


が、もう決まっている。


笑いながらおっさんが笑いながら吐き捨てるように、


「思い出せない事は重要なことではない、だろう?お前は昔からそんな奴だったよ。」


と、言った。



あぁ、だから今はまだ知らなくていい。

これが今の紛れもない本心と言える。


「そうかよ。だが、てめぇの流派と基本だけは聴いとけよ。これから先何がきっかけで喧嘩するかわかんねぇだろ?」


先の戦いは喧嘩とは違う気がするけれども。それでも取れる手段は多ければ多い方が良い。


昔から変わらんな、と笑われた。きっと自分はそう言う人間だったのだろう。

昔の事は相も変わらずわからないけれど、今はただ、それで良い。


「話は逸れたが、お前の、というか俺達の流派は『龍剣』と呼ばれるものだ。」


龍剣。なんとなく中学二年生の男児が好みそうな名前をしている。創始者はきっととある病気の患者だったのだろう。


「龍剣には4つの型がある」


4つ。益々これは臭くなってきた。


「破壊力に秀でた『火龍』、速さに秀でた『雷龍』、柔軟に攻撃を受け流す『水龍』、鉄壁の守りを持つ『地龍』と呼ばれるものだ」


なんとなくだが、名前からどんな技を使うのかもわかる。中年2年生が考えた割にはしっかりと出来ている。


「...中学二年生中学二年生ってうるせぇな、おい。喧嘩って売ってんのか?お?」


反応から察するに目の前の素敵なおじ様が開祖のようだ。

きっと中学二年生の時に考えたものを努力して使えるようにしたのだろう。賞賛に値する。


「へーへー、そいつはどーも。説明を続けると、火龍の型は1度発動すると『刀身が燃える』。ここからどうするかは使い手に委ねられているって感じで、決まった技は何一つとしてない」


刀身が燃えるらしい。構えた時に顔を火傷してしまわないか心配だ。


「水龍の型は水のようなしなやかな動きで敵の攻撃を捉えさせない。ただそれだけの型だ」


なんともまぁ地味な。だけれどもこのような技術にこそ命を救われるものだろう。


「雷龍の型は『雷に成る』程の速さで剣を振るう。単純だがそれ故に強い。多数の格下を相手にする時は頼りになるさ」


どこぞの少年漫画で使い古された言葉だが、確かにどいつもこいつも化け物じみた性能を誇っていた。


「最後に土龍。これは...開発中だ」


開発中と言えば聞こえはいいが、実際のところは名前だけの使えもしない技、という事か。


「あーあー!そうだよ!悪いか!!中学二年生の俺にそんなことを押し付けんなハゲ!」


誰がハゲか!!髪の毛はまだまだもっさもっさある!!...ある?


「...あるよ、悪かっあ。すまんかった。そうだよ、髪の毛の話題は男には禁句だよな...」


変な同情をされた。悔しい。でも...と続けようとしたところで「これはいけない」と変な信号を感知した。


「まぁ、これだけ覚えておけば最低限、あの過酷な世界でも身を守ることぐらいは出来るさ。頑張って、あの2人を守り抜けよ?」


サムズアップをしたかと思えば、そのまま親指で額を強打。意識が薄れていった。

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