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昔読んだ本で、ゴブリンだかオークだかに連れ去られたエルフのお姫様を助ける物語があった。

少年は見事にお姫様を助け出し、郷へと連れられ、あれよあれよと言う間にその娘と旅をはじめることになる。

行く先々で人々をたすけ、異性と関係を持っていく。

そんな在り来りな物語。


少年と自分を重ねた訳では無いが、男も無意識に、思考外に、そうなるものだと思っていた。


が、返答はつめたい。


「恩人と言えど、そう簡単に郷の位置をばらしてはいけないでしょう。郷の兄妹達に迷惑がかかってしまいます」


言い得て妙だった。自分はそんなことをするはずがないが、ほかの人間...それも薄暗い類のものならどうだ。


善意で助けたと思わせ、エルフの郷に侵入。

場所を覚えておいて、後日仲間を引連れ見目麗しい少女達を攫っていく。

薄い本が厚くなる展開が待っているだろう。


嫌な類の自然の摂理だ。


「まぁ、そんなもんだろうよ。むしろたかが少しばかり助けたぐらいで心と股を開く昨今のヒロイン(尻軽女)よりかはよっぽど好感が持てるさ」


...笑えていただろうか。何も知らぬ世界に1人たち、知り合いとも呼べぬが、気楽に話せる人が出来たと喜んでいた矢先にこれだ。


アセビが吐き捨てるように本音を吐く。


「...欲を言うならね。本当は私も君の宛のない旅について行きたいとも思うんだよ。だけれどもアイリスは族長の娘で、次期の巫女様だ。そして私はその守護者。どう転んだって私達は郷から出れないんだよ」


「今回出てきてたのは?」


「それは私からお話します」

アイリスが割り込む。


「本来ならば私は、郷の中で一生を終える身です。ですが、少しばかり外を見て見たくなったのです」


それは反抗と呼ぶには少し小さすぎるが、アイリスの初めてのワガママ。アセビも叶えてやりたかったらしい。


故に、見張りの目をすり抜けて2人で郷の外へと繰り出した。


初めて見るものは新鮮で、とってその場で食べた果物は瑞々しくて美味しかったらしい。


残念ながら街へは入場料が払えないため入れなかったが、それでもエルフ以外の人を見るのは初めてで、耳がとがっていないのが新鮮だった。


そのまま帰れればよかったが、運が悪かったとでも言うべきか、ゴブリンに見つかってしまい、捕まってしまったが、助け出されて今に至る。


「だから、お別れです」

寂しそうに笑うお姫様を見て、あの夜に談笑しただけなのに、確かに縁を育めたのだと少しばかり嬉しくなった。


「30秒ほど目を瞑っていてください。目を開けた時、私達はエルフの郷に帰りついています」


「礼しか言えず、すまんな。他に何かやろうにも支給品しかないから、何も渡せん。本当にすまん...」


逆にこちらに罪悪感が湧いてくる表情で謝罪をしてくる。


「構わんよ。別に見返りが欲しくて助けたわけでもあるまいしな。どうしてもと言うなら最後にひとつ、いいか?」


「あぁ、なんでも聞いてくれ」


「ここから街へはどう行けばいい?」


「北へ真っ直ぐ。それで少しばかり大きな街が見えてくる。」

そうかい、とかえし、目を瞑る。


「ありがとう、短い間だったが楽しかったよ、少年」

「ありがとうございました。また次の機会があればよろしくお願いします」


その感謝の念と、また連れ去られる予定があることに呆れつつも、30秒待ち、目を開ける。


さっきまで2人がいたところには何も残っていない。少しばかり青い気持ちに襲われつつ、焚き火の方へ目をやる。


「...この炭魚、食わずに残していきやがった」


黒焦げになった冷たい魚を睨み、エルフの娘達を思い出す。


連れ去られると言っていたし、きっとこの先どこかで会えるだろう。


大人しく焦げた魚を食し、まだ見ぬ先へと思いを馳せるのであった。

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