9
人にいて欲しい時ほど、あれよあれよと止める間もなく行ってしまう。
世知辛いが、それが世の中の摂理というものなのだろう。
少々の寂しさと、口の中に残る焦げ臭い臭いに噎せ返りそうになりながらも川を北上してゆく。
その道すがら、路銀の足しになればと何故か判別できる、薬草や食用に適した果実類を拝借しつつ、足音を立てぬように注意を払いながら前進する。
1人だと自然と声を出すことも無くなる。
以前、引きこもりが声を出さなかった期間がありすぎて、咄嗟に声が出なくて恥をかいたという話をどこかで聞いたことがある。
どこで聞いたか、誰が言ったかは分からないけれど、知識や知恵といったものだけは時たまふつふつと浮かんでくる。
このままだと自分もいずれは、「あっ」とか、「あぁ」しか言わなくなるのだろうか、と無駄なことを考えていたら城壁と呼ぶには些かお粗末な、壁と言うには堅固すぎる石壁が見えてきた。
「旅のお方かい?それなら入場料銀貨1枚と、身分証明書の提出を頼む」
衛兵が顔に笑顔を浮かべながら気さくに話しかけてくる。
残念なことに、銀貨1枚とやらも、身分証明書もない。正直に言ったら奴隷屋直行コースだろうか。エスコートはできれば美人な人がいいのだが。
「すまんが、どこから来たかすらも分からない状態なんだ。そこの森の中で出会った親切な人に、北上すれば国がある、そこで色々教えてもらえと聞いてな」
「なるほど、お前さんは流れ者か。ちょっと待ってろ、仮滞在書を発行する」
「助かる」
流れ者がなんの事かは分からんが、知識になぞらえれば流浪人や放浪者と似た類のものだろう。
「ほらよ、それを持って何処ぞのギルドにでも持っていけば会員証と仕事が貰える。その会員証が身分証明書になるから無くすなよ」
「そんなヘマさしないさ」
笑いながら肩を叩いて、行ってこいと言う衛兵に礼を述べ、門をくぐる。
視界に広がる街を見て、柄にもなく胸を膨らませる。
いい街だといいのだが。




