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旅立ちの春

三月初旬

青月村では一つの節目を迎えていた

青月村立小中学校

この日 最後の卒業式と閉校式が行われた

卒業生たちは慣れ親しんだ校舎へ

最後の別れを告げる

地域の人々や卒業生も大勢集まり

校歌を歌いながら思い出を語り合った

閉校記念碑の前では

年配の卒業生が静かに呟く

「この学校で学べて 本当に良かった」

春風が優しい

四月から子供たちは雨実の小中学校へ通う

校舎は閉じても 学びの灯りは消えない

その灯りは 

新しい学校へ受け継がれていくのだった


同じ頃

柔らかな春の日差しが

瀬河高校の校舎を照らしていた

体育館では卒業証書授与式が静かに進み

一人一人が校長から卒業証書を

受け取っていく

立花修司も村崎乙女も

晴れやかな表情で壇上へ上がった

式が終わると 

校舎のあちらこちらで写真撮影会が始まる

「修司 こっちこっち!」

「最後に皆で撮ろう!」

制服姿の友人たちがスマートフォンを

片手に集まり 笑顔で肩を寄せ合う

「卒業おめでとう」

「また集まろうな!」

そんな声が校庭に響く

修司と乙女も友人たちと何枚も

写真を撮り合った

卒業証書を手に 自撮りをしたり

先生を囲んで記念撮影を撮ったり

三年間の思い出が

一枚一枚の写真に残されていく

少し離れた場所では

保護者達も嬉しそうに

その様子を見守っていた

校門を出る前 修司は乙女に声を掛ける

「制服姿も今日で最後だな」

乙女は少し寂しそうに笑う

「そうだね」

「でも 終わりじゃないよ」

「これからが始まり」

修司も頷く

「俺は京洛醸造で働く」

「私は畑を守る」

「お互い頑張ろう」

二人は笑顔で卒業証書を抱え

春風の吹く校門をゆっくりと歩きだした

それぞれの未来へ向かって


卒業式を終えた二人は

友人たちと別れを惜しんだあと

瀬河高校前のバス停へ向かった

制服姿のまま

卒業証書の入った筒を抱えて並んで待つ

やがて青月村行きの路線バスが

静かに到着した

「帰ろうか」

修司がそう言うと 乙女は笑顔で頷いた

二人はいつものように並んで座る

窓の外には 卒業式を終えた高校生たちが

其々の進路へ向かって歩いていく姿が見えた

暫く景色を眺めていた乙女が ふっと笑う

「卒業って聞くとお別れって感じがするよね」

修司も少し笑った

「でも俺たちは違うな」

「そうだね」

「卒業したけど」

乙女は修司の顔を見て 小さく笑う

「また一緒に雨実村へ帰るんだもんね」

修司は照れくさそうに窓の外へ目を向けた

「俺は工場へ」

「私は畑へ」

「仕事は違うけど 帰る場所は同じだな」

バスはゆっくりと山道へ入り

見慣れた雨実村の景色が近づいてくる

遠くには完成した京洛醸造株式会社の工場が

見え その向こうには まだ

若い緑色のビール麦が春の風に揺れていた

乙女はその景色を見つめながら静かに呟く

「ただいま」

修司も笑顔で頷く

「卒業したけど

帰ってくる場所があるって いいな」

春の日差しを受けながら

路線バスはいつもの停留所へ向かって

走り続けた

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