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同じ机を囲んで

二月中旬

朝八時 新田と小川菫は 

公用車で瀬河市役所へ向かっていた

冬の山々にはまだ雪が残り

朝日が白く輝いている

「今日も一日 よろしくお願いします」

菫が助手席で資料を確認しながら言う

「こちらこそ」

新田はハンドルを握りながら笑った

「四月まであと少しだな」

「ええ 本当に毎週来てますね」

瀬河市役所へ到着すると

合併準備室では瀬河市と青月村の

職員たちがすでに集まっていた

「おはようございます」

「おはようございます」

今では初対面の頃の緊張はなく

自然と笑顔で挨拶をかわせるように

なっていた

この日の議題は 新しい組織体制の確認

住民窓口業務の引き継ぎ

スクールバスの運行計画

青月地区の総合診療所機能の移行など

多岐にわたった

会議では立場の違いから

意見が分かれることもある

しかし誰一人として勘定的になることはない

「住民の皆さんが困らないように」

その思いだけは

職員たちはそろって庁舎内の食堂へ向かった

「今日は一緒に食べませんか」

青月村役場の若い女性職員の望月が

菫へ声を掛ける

「ぜひ」

自然と四人掛けのテーブルを囲む

瀬河市の職員の川内が笑いながら言った

「最初の頃は お互い遠慮していましたね」

新田も思わず笑う

「確かに 

今は普通に相談できるようになりました」

青月村の職員が箸を置いて静かに話す

「正直 最初は不安でした」

「役場も支所になりますし

環境が大きく変わりますから」

少し間を置いて 

穏やかな表情で続けた

「でも皆さんと一緒に仕事をしているうちに

その不安が少しずつなくなりました」

菫は大きく頷いた

「私も同じです」

「三つの役場というより

一つのチームになってきましたね」

その言葉に 

テーブルを囲んだ全員が静かに笑った

昼休みの終わり

食堂を出る四人の歩幅は

いつの間にか自然と揃っていた

午後も会議は続く

机の上には地図や資料が何枚も広げられ

其々が自分の担当を確認しながら

準備を進めていく

合併まで あと二月

制度や書類だけではない

人と人との信頼もまた

少しずつ積み重ねられていた

庁舎の窓から見える冬空は高く澄みわたり

その向こうには もうすぐ訪れる

春の気配が静かに息づいていた


休日の夕方

県庁近くのマンション

夕食を終えた新田は 

温かいお茶を飲みながら新聞を読んでいた

由佳は窓の外を眺めながら

ふと思い出したように口を開く

「ねえ」

「私たち 雨実村に移住しちゃおうかな」

新田は新聞から顔を上げて思わず笑う

「急にどうした」

「冗談だよ 半分冗談」

由佳も笑いながら肩をすくめた

「でもね 最近あの村へ行くたびに

なんだか落ち着くの 友も愛も 

雨実村へ行くのを楽しみにしてるし」

新田は湯呑を手に取りながら答える

「そういえば この前も愛が

『また温泉に行きたい』って言っていたな」

「友も あの自然が気にいったみたいだし」

「近所のスーパーより

道の駅の方が楽しそうだし」

由佳は少し悪戯っぽく笑う

「しかも空き家バンクの家って

家賃が一万円なんでしょう

移住しやすいように 

登録住宅は全部同じ家賃にしてるって

この前教えてくれたじゃない

本当に住めちゃうかも」

「家賃だけで見て決めるなよ

由佳は仕事もあるし 

友も愛も学校があるじゃないか

現実はそんなに簡単じゃない」

「分かってる」

由佳は笑顔で頷いた

「だから 半分冗談だよ 

でもね 少しだけ 本気」

少しだけ間が空く

湯気の立つ 湯呑を見つめながら

由佳は静かに続けた

「いつか あんな所で暮らせたら

素敵だなって思っただけ」

新田は何も答えなかった

ただ 雨実村の冬景色を思い浮かべながら

小さく微笑んだ

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