新しい年の始まり
一月三日 成人式の朝
雨実村公民館には
色鮮やかな振袖や真新しいスーツ姿の
若者たちが集まっていた
会場の入口では 新田と小川菫が受付を
担当している
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
久しぶりに再会した同級生たちは
笑顔で近況を語り合い
会場は和やか空気に包まれていた
やがて式典が始まる
静まり返った会場で古川村長が演壇へ立った
村長は新成人一人一人を見渡し
ゆっくりと話し始める
「新成人の皆さん
本日は誠におめでとうございます」
穏やかな声だった
しかし その言葉には力があった
「皆さんは今日
大人として新たな一歩を踏みだします」
「これから先 嬉しいこともあれば
思いどおりにならないこともあるでしょう」
「そのたびに 自分の進む道が正しいのか
迷う日もあるかもしれません」
会場は静まり返っている
「ですが 一つだけ忘れないでください」
「皆さんが歩いた道は
必ず誰かの未来へ続いています」
「仕事でも 家庭でも 地域でも」
「皆さんの努力は 自分だけのためではなく
次の世代へ受け継がれていくものです」
村長は少し間をおいた
「私は長くこの雨実村で仕事をしてきました」
「村は この春 大きな節目を迎えます」
「名前は変わります
行政の仕組みも変わります」
「しかし この村で暮らす人の温かさまで
変わることはありません」
新成人たちは真っ直ぐ村長を見つめていた
「どうか自分の故郷を誇りに思ってください」
「故郷に残る人も 外へ羽ばたく人も
それぞれの場所で精一杯生きてください」
「そして いつの日か
この村を思い出してください
「皆さん一人一人が
この地域の未来を照らす灯りになることを
私は心から願っています」
深く一礼すると
会場は温かな拍手に包まれた
その拍手は 新成人だけでなく
村長への感謝も込められているようだった
式典の後 新成人たちは記念写真を撮り合い
笑顔で会場を後にした
菫は其の様子を見ながら 小さくつぶやく
「いい式でしたね」
新田は静かに頷いた
「古川村長らしい挨拶だった」
「きっと みんなの心に残るよ」
一月五日
朝早くから京洛醸造株式会社の工場前には
大型トラックが次々と到着していた
荷台には 銀色に輝く巨大な醸造タンクや
配管設備が丁寧に積み込まれている
工場関係者が慎重に合図を送りながら
クレーンで設備を吊り上げる
「ゆっくり」
「あと三十センチ」
現場には緊張感が漂っていた
少し離れた場所では 山科 桂 伏見 亀岡
の四人が静かに作業を見守っている
亀岡は搬入されるタンクを見つめ
小さく息を吐いた
「いよいよですね」
山科は頷く
「ここからが本当のスタートだ」
工場の中へ運び込まれる設備は
一つ一つが未来への希望を
形にしたようだった
その様子を 菫はカメラに収めていた
シャッターを切るたびに
工場は少しずつ命を吹き込まれていく
完成までもう少し
春になれば
この場所で最初のビールが仕込まれる
冬の澄んだ青空の下
新しい一年は静かに
しかし確かに動き始めていた




