冬支度
十一月の終わり
山々は紅葉は麓へと降り
朝晩の空気には冬の気配が漂い始めていた
雨実村の道の駅には
この季節ならではの彩りが並んでいる
店先には黄色や橙色に色づいたミカンが
山のように積まれ その甘酸っぱい香りが
直売所いっぱいに広がった
「今年のみかんは甘いよ」
生産者の女性が試食を勧めると
観光客は笑顔で頷く
「本当に甘いですね」
「また来年も買いに来ます」
その言葉に生産者は嬉しそうに笑った
店内には 柚子や干し柿 手作りの味噌
漬物も並 び 冬を迎える村の暮らしが
そのまま売り場になっている
レストランではみかんを使った
季節限定デザートが人気を集め
離れた場所に建設中の京洛醸造株式会社の
工場が少しずつ姿を現していた
「工場もだいぶ形になってきたね」
そんな声が 道の駅を訪れた人たちの
間から聞こえてくる
一方 役場では合併準備が本格化していた
瀬河市役所の会議室では
瀬河市 雨実村 青月村
其々の担当職員が集まり
分野ごとの協議が続いている
新田は資料をめくりながら説明する
「今日は教育 医療 交通の三分野について
確認します」
瀬河市の担当職員が頷く
「まず学校関係からお願いします」
スクリーンには新しい通学計画が
映し出される
青月村では児童生徒数の減少により
小中学校を閉校し 雨実村の小中学校へ
統合することが決まっていた
「児童生徒の皆さんには負担をかけることに
なりますが 朝夕のスクールバスを運行し
安全に通学できる体制を整えます」
新田が説明すると 青月村の担当者が
静かに言葉を継いだ
「閉校は寂しい決断でした しかし
子供達がより良い教育環境で学べることを
第一に考えました」
会議室はしばらく静まり返った
誰もが その決断の重さを理解していた
続いて医療についてだった
現在青月村で診療を続けている医師は
合併後 雨実村総合診療所へ勤務することが
決まっていた
青月村の診療所は役割を終える
しかし医療そのものがなくなるわけではない
診療体制を雨実村へ集約し
医師や看護師を充実させる計画である
青月村の担当職員が静かに話した
「住民のみなさんにとって
不安もあると思います」
「ですが 医療サービスの質は維持し
必要な方が安心して受診できる体制を
整えていきます」
続いて交通について協議が進む
瀬河市の交通担当者が路線図を示す
「合併後は 瀬河市中心部から
雨実村 青月村方面への路線バスを
増便します」
「通院や買い物 通勤 通学の利便性向上を
目的としています」
菫は新しい時刻表を確認しながら
小さく頷いた
「これなら利用しやすくなりますね」
続いて 行政組織について協議が行われた
瀬河市の担当部長が資料を示しながら
説明する
「合併後の行政組織についてご説明します」
スクリーンには新しい組織図が映し出された
「現在の青月村役場は 本庁舎としての
役割を終えます」
会議室が静まり返る
青月村の担当職員たちは誰も言葉を挟まない
担当部長は続けた
「役場機能は雨実村役場へ集約し
雨実村役場は『瀬河市役所雨実支所』として
業務を開始します」
「住民票や戸籍 税 福祉などの窓口業務は
雨実支所でこれまで通り利用できる体制を
整えます」
新田が補足する
「住民の皆さんにとって
手続きが遠くならないよう配慮しながら
新しい行政体制を構築していきます」
青月村の担当職員が静かに口を開いた
「青月村役場の庁舎は役割を終えますが
職員の多くは雨実支所や瀬河市役所へ
配置される予定です」
「住民サービスを途切れさせることなく
新しい瀬河市へ引き継いでまいります」
菫は新しい組織図を見つめながら思った
役場の名前は変わる
組織も変わる
しかし その窓口で住民を迎える人たちの
思いまで変わるわけではない
地域に寄り添う行政は 新しい名前の下で
これからも続いていくのだ




