其々の休み
五月の終わりの
金曜日の夜遅く
「お父さん!」
「おかえり!」
玄関を開けた瞬間
小さな影が二つ飛び込んでくる
「おっと」
新田は思わず笑った
小学一年生になったばかりの双子
友と愛だった
「明日どこ行く?」
友が聞く
「ショッピングモール!」
愛が元気よく言う
「まだ決めてないぞ」
そう言いながらも
新田は既に観念していた
土曜日
家族四人はショッピングモールへ来ていた
休日らしい賑わいだった
友は玩具売場に夢中
愛は文房具コーナーを見ている
妻は苦笑していた
「毎週同じですね」
「まあ 元気なのはいい事だ」
新田は答えた
昼食はフードコートだった
友はラーメン
愛はオムライス
二人は嬉しそうだ
「お父さん」
愛が聞いた
「お仕事の村ってどんなところ?」
新田は少し考えた
「山がいっぱいあるかな」
「熊いる?」
「いるかもしれないな」
友が目を輝かせた
「行きたい!」
「僕も!」
「私も!」
愛が慌てて訂正する
新田は思わず笑った
赴任したばかりの頃は三年だけの
仕事だと思っていた
だが最近は少し違う
村の人々の顔が浮かぶ
小川主任
奥田さん
中村駐在
村長
診療所の職員たち
そして棚田の景色
夕方
家族で公園を散歩した帰り道
友が右手を握る
愛が左手を握る
そのまま三人で歩いた
前を歩く妻が振り返る
「どうしました?」
「いや」
新田は穏やかに笑った
「良い休日だと思って」
日曜日
雨実村の朝は静かだった
小川菫はカメラを肩に掛け自宅を出た
空は青く晴れ渡っている
今日は役場の仕事は休みだった
だが 完全な休日という分けでもない
村のホームページやSNSに掲載する写真を
撮るため
村内を廻る予定になっていた
「さて 今日は何処から行こうかな」
独り言を呟きながら歩き出す
最初に向かったのは観光梅林だった
今は梅の季節ではない
だが新緑に包まれた丘は十分に美しい
木々の間を風が吹き抜ける
菫はカメラを構えた
シャッターを切る
何枚か撮影しながら角度を変える
「夏前の写真も必要だよね」
ホームページは季節ごとの更新が大切だった
移住希望者も観光客も
先ずはインターネットで村を見る
だから菫は出来るだけ自分の目で
撮った写真を使いたかった
次に向かったのは道の駅「雨実の里」
駐車場には県外ナンバーの車が
数台停まっている
「おはようございます」
売場から出て来た奥田が笑った
「休日なのに仕事か」
「半分仕事 半分趣味です」
菫も笑う
店内では朝採れ野菜が並び始めていた
苺を使った大福
名水わらび餅
小松菜のパウンドケーキ
棚の様子を撮影する
開店前の静かな空気も写真に収めた
その後も菫は村内を廻った
清流
山道
総合診療所
棚田
移動スーパーの停車場所
雲海を見る為の雲見台
どれも特別な観光地ではない
しかし村の日常だった
午後
小高い丘の上へ登る
移住者住宅の近くから村を見下ろした
そこには田植えを終えたばかりの
棚田が広がっている
山々の緑
点在する民家
一本の県道
そして役場の建物
菫は静かにシャッターを切った
この景色が好きだった
生まれ育った場所だからではない
残したいと思うようになったからだ
夕方
菫は自宅でパソコンを開いていた
今日撮影した写真を整理する
棚田の写真を見つめる
暫く考えた後
その一枚をホームページの
トップ画像に選んだ
夕陽に照らされた棚田
風に揺れる若い苗
派手ではない
だが 雨実村らしい景色だった
画面を見ながら菫は小さく頷く
「うん これでいい」
窓の外では ゆっくりと日が暮れていく
其々の場所で
其々の休日が終わろうとしていた




