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実りの秋

九月も半ばを迎えた

朝 山間を渡る風は 

ひと月前とはまるで違っていた

青く澄んだ空には 高く伸びるいわし雲

田圃に彼岸花が真っ赤な花を咲かせ

風が吹くたび

黄金色の稲穂が波のように揺れる

どこからともなく

金木犀の甘い香りが漂い始め

村全体がゆっくりと秋へ衣替えをしていた

今日は 雨実村恒例の稲刈り体験の日だった

毎年 村の人だけでなく

移住体験希望者やボランティアも集まる

今年は少し違った

京洛醸造株式会社から

営業担当の伏見と醸造技術担当の亀岡が

参加していた

「今日はよろしくお願いします」

二人が頭を下げると村人たちは笑顔で迎えた

「こちらこそ」

「今日は思い切り働いてください」

笑い声が田圃に広がる

鎌を手にした伏見は 

最初こそぎこちなかったが

すぐに農家の男性から教わり稲を刈り始める

「稲は根元からしっかり持って」

「はい」

「そうそう その調子」

隣では亀岡も黙々と作業を続けていた

醸造家らしく 何事も丁寧だった

刈り取った稲束を綺麗に揃え

藁で結んでいく

「亀岡さん 手際がいいですね」

農家の女性が驚く

亀岡は照れ笑いを浮かべた

「醸造も段取りが大切なんです」

「麦もお米も人が育てたものを

預かる仕事ですから」

その言葉に 農家たちは静かに頷いた


新田の妻 由佳さんと

友くん 愛ちゃんも体験に来ていた

友くんは元気よく手を振りながら

田圃へ駆け寄る

新田が小さな鎌を手渡すと

友は真剣な表情で黄金色の稲を刈り始めた

愛は近くにいた女子高生と稲を運びながら

小さな手で一生懸命お手伝いをしている

「ありがとう」

乙女は笑顔で声をかける

愛も少し照れながら笑い返した

昼食では炊き立ての新米でおにぎりを

家族そろって頬張る

「美味しい」

友のその一言に 農家の人たちは

顔を見合わせて嬉しそうに笑った


午後

少し離れた場所では 高校生の立花と村崎が

汗を流しながら作業を続けていた

二人とも黙々と働く

無駄なおしゃべりはしない

その姿を見ていた伏見が声をかける

「高校生とは思えない働きぶりだね」

修司は少し照れながら笑う

「小さな頃からやっていますから」

「慣れているだけですよ」

伏見は辺りの田圃を見渡した

「都会で育った私には

この景色だけでも新鮮ですよ」

修司は少し考えてから答えた

「僕らには当たり前だった景色なんです」

「でも最近 当り前じゃないんだって

思うようになりました」

亀岡が静かに耳を傾ける

修司は続けた

「村を出ることばかり考えていました」

「だけど ビール工場の話を聞いて……」

「ここで働く未来もあるのかなって」

伏見は笑顔になった

「嬉しい言葉だね」

「でもね」

「工場は建物を造るだけじゃ駄目なんだ」

「地域の人と一緒に育てていくものなんだよ」

修司は静かに頷いた

その言葉は胸に深く残った

一方 村崎は休憩中 

小川菫と木陰で麦茶を飲んでいた

「お疲れさま」

「ありがとうございます」

乙女は汗を拭きながら笑った

「役場の仕事も忙しいでしょう」

菫は空を見上げる

「忙しいよ」

「でもね」

「こうして田圃へ来ると 何のために仕事を

しているのか思い出せる」

乙女は少し驚いたような顔をした

「役場の人でも そんな風に思うんですね」

菫は優しく笑う

「役場の仕事は書類が多いけど

その向こうには人の暮らしがあるから」

「この景色を守るためなら

忙しくても頑張れるかな」

乙女はゆっくりと黄金色の田圃を見つめた

「私も この景色が好きです」

「だから……残ろうと思っています」

菫は何も言わず 小さく微笑んだ

風が吹き抜ける

稲穂が一斉に揺れ その音は

海のさざ波のように田圃を渡っていた


夕方

村人たちは着替えを済ませ

鎮守の杜へ向かった

龍神神社の石段には紅白の提灯が吊るされ

境内には屋台が並び始めている

焼きトウモロコシの香ばしい匂い

炭火で焼かれる鮎の香り

甘い綿菓子を抱えて走り回る子供達

神楽殿では笛と太鼓の音が静かに響き始め

秋風に乗って祭囃子が村中へ流れていく

年配の人が笑い合い

小さな子供の手を若い父親が引き

高校生たちは友人同士で境内を歩く

伏見と亀岡も 

村人に勧められて焼き栗を手にしていた

「いい祭りですね」

伏見がポツリと言う

亀岡は境内を見回しながら静かに答えた

「工場を建てる場所を

探していたはずなのに……」

「気が付けば 

村そのものが好きになっていました」

夕暮が近づくにつれ

西の山並みは茜色に染まり始めた

境内につるされた提灯へ一つ

また一つと灯りがともる

その柔らかな灯りは 人と人 人と村

そして村の未来を 静かに照らしていた

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