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開票

午後八時

「これを持ちまして 雨実村住民投票を

終了します」

投票管理者の宣言とともに

最後の投票所の扉が閉められた

村内三か所の投票所では

其々の投票箱の封印が確認され

立会人の見守る中 役場へと運ばれていく

役場の会議室

長机が整然と並べられ 開票担当の職員が

静かに持ち場につく

村長古川 新田 小川菫もその場にいた

開票管理者が静かに告げる

「これより 雨実村住民投票の開票作業を

開始します」

静まり返った会場に

封印を解く音だけが響く

投票箱が開かれ 一枚 また一枚と

投票用紙が取り出されていく

「賛成」

「反対」

担当者が確認し 分類担当へ渡す

立会人は一枚一枚を注意深く見守り

意義があればその場で確認する

会話はほとんどない

聞こえるのは 紙を重ねる音と

集計用紙に数字を書き込む鉛筆の

音だけだった

新田は静かに時計を見つめる

これまで一年以上

説明会を重ね 住民の声を聞き

時には厳しい言葉も受け止めてきた

そのすべてが この一枚一枚の投票用紙に

託されている

小川菫も 集計表を見つめながら小さく

息をついた

「……長かったですね」

新田は小さく頷いた

「本当に」

「でも 今日で終わりじゃない」

「今日が始まりだ」

菫も静かに笑顔をみせた

「そうですね」

やがて最後の投票用紙が確認された

集計担当が数字を何度も照合する

別の担当者が再計算する

さらに管理者が最終確認を行う

誰一人として焦らない

一票の重みを知っているからだった


午後九時二十分

開票管理者が立ちあがる

「集計を終了します」

会場の空気がさらに引き締まる

古川村長も静かに姿勢を正した

管理者は最終集計を見つめ 深く息を吸う

「確認の結果 集計に誤りはありません」

その言葉に 職員たちは静かに頷いた

やがて役場一階ロビー

報道関係者 住民 帰省中の家族が

結果をもっている

誰も大きな声では話さない

時計の秒針だけが静かに時を刻む


午後九時三十分

開票管理者が壇上へ上がる

一礼した後 ゆっくりと結果を読み上げた

「雨実村住民投票の結果を発表します」

会場の空気が止まる

「投票資格者数 六百三十人」

「投票者数   五百九十八人」

「投票率 九十パーセントを超えました」

会場は少しざわめく

続いて最も重要な結果が読み上げられる

「賛成 六十三パーセント」

「反対 三十七パーセント」

「以下の結果により雨実村は

合併に賛成する意思を示しました」

その瞬間

歓声は上がらなかった

拍手もおこらない

ただ 

それぞれが静かに結果を受け止めていた

涙ぐむ人

静かに目を閉じる人

小さく頷く人

悔しそうに唇をかみしめる人

その全員が 雨実村の未来を真剣に

考えて投じた一票の持ち主だった

古川村長は深く一礼した

「ありがとうございます」

その一言だけだった

新田も菫も 静かに頭を下げる

結果は出た

しかし それは終わりではない

今日という日は

雨実村が新しい未来へ歩み始める

最初の一日だった


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