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前日

八月 お盆

朝から県外ナンバーの車が雨実村へ

入ってくる

大阪 神戸 京都 福岡

久しぶりに帰省した人たちが

家族の待つ実家へ向かう

道の駅「雨実の里」も朝から多くの人で

賑わっていた

地元の野菜や果実 お盆用の花 

手土産のお菓子 レジには長い列ができ

普段よりも店内には笑い声が響いている

「久しぶりやねぇ」

「あんたの子供も大きくなったね」

そんな会話があちらこちらで聞こえる

一方で道の駅の休憩スペースでは

自然と住民投票の話題になる

「明日やな」

「とうとう来たな」

都会で暮らす息子が言う

「俺は住所移しているから投票はできへん

でも気になるわ」

隣にいた娘も頷く

「村がどうなるかやもんな」

年配の男性が静かに笑う

「投票は村民しかできん 

でも意見を聞くのは自由や」

皆が静かに頷いた

誰も相手を否定しない

其々が違う立場でこの村の未来を考えている

その頃 役場では最後の準備が続いていた

新田は投票箱の封印を確認し

名簿をもう一度見直す

小川菫は投票所で使う案内板や記載台を

車へ積みこんでいた

「これで忘れ物はありません」

「ありがとう」

二人とも少し疲れた表情だった

それでも不思議と焦りはない

ここまで来れば 

あとは住民一人一人の判断を信じるしかない


夕方

役場の窓から見える空は茜に染まっていた

村長の古川は静かに外を見つめる

「長かったな……」

誰にいうでもなく 小さく呟く

隣にいた新田が答える

「明日は 村民の皆さんが決める日ですね」

古川はゆっくりとうなずいた

「そうだ」

「結果がどうであれ 

その決断を受け止めるのが私たちの仕事だ」

役場には静かな緊張感だけ漂っていた


夜

村は普段と変わらない静けさに包まれる

虫の声だけが山間に響き

其々の家では家族が明日の事を

語り合っていた

誰もが少しだけ眠りにつくのが遅い夜だった



翌朝

まだ朝日が山の稜線から

顔をだしたばかりの頃

役場には職員が次々と集まってくる

「おはようございます」

「今日もよろしくお願いします」

いつもと同じ挨拶

しかし その声には少しだけ

緊張が混じっていた

新田は投票箱を確認し

公職選挙法に準じた手順で書く投票所へ

運び出す

小川菫は受付担当者へ最後の説明を行う

「記載方法で分からないことがあれば

その場で丁寧にご案内してください」

「わかりました」

午前六時五十分

投票所の前には数人の住民が

静かに並んでいる

「一番乗りやな」

「早よ済ませて畑行かなあかんからな」

そんな何気ない会話に笑顔がこぼれる

午前七時

投票所の扉が開く

「住民投票を開始します」

静かな宣言と共に最初の一票が投票箱へ入る

一枚の投票用紙が落ちる音は小さい

しかし その音には雨実村の未来への

願いが込められている

役場では古川村長が時計を見つめる

「始まりました」

その一言だけを静かに呟く

新田も菫も言葉はない

もうこの日だけは職員だけではなく

一人村民として結果を見守るしかなかった


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