同じ日の同じ時間
十一月下旬
瀬河地域将来研究会 第三回会合
会場は瀬河市役所
窓の外では冷たい雨が降っていた
研究会が始まってから数か月
参加者たちの表情には
もう最初の頃の採りあうような空気はない
現実を見つめる時間になっていた
人口推計
財政見通し
医療
公共交通
職員数
これまで何度も示された資料が再び並ぶ
そして結論も おおよそ見えていた
県の担当者が報告書案を説明する
「現状の行政区域を維持した場合
各自治体とも様々な課題への対応が
困難になる可能性があります」
静かな声だった
誰も驚かない
もう十分に理解していたからだ
「研究会としては
今後の選択肢の一つとして合併を含めた
見当が必要であると考えます」
会議室が静かになる
その言葉を聞くのは初めてではない
だが
報告書に期されている意味は重かった
青月村長が資料へ目を落とす
瀬河市長が腕を組む
古川村長は黙ったまま窓の外を見ていた
雨が降っている
誰も反対しなかった
誰も賛成もしなかった
ただ現実として受け止めていた
研究会は予定時刻に終了
そして十二月
冬の冷たい空気が瀬河地域を包んでいた
同じ日
同じ時間
午後一時
瀬河市
青月村
雨実村
三つの自治体で
其々の会議が始まろうとしていた
瀬河市議会
議場には議員たちが並んでいる
市長が立ち上がった
「瀬河地域将来研究会において
地域の将来について
協議が進められております」
議場は静かだった
議員たちは真剣な表情で資料を見ている
青月村議会
小さな議場
傍聴席には数人の住民も来ていた
青月村長がゆっくり立ち上がる
「皆さんもご承知のとおり
村を取り巻く状況は年々
厳しくなっております」
静かな声だった
「研究会では様々な議論が行われました」
一呼吸置く
「その結果
将来の選択肢として合併を含めた検討が
必要であるとの報告がまとめられました」
傍聴席の空気が少し変わる
誰も声は出さない
だが その言葉の重さは十分に伝わっていた
雨実村議会
古川村長が議場へ入る
議員たちが資料を開く
ふるさと振興課では
菫と新田も中継映像を見ていた
村長が演壇に立つ
「本日 瀬河地域将来研究会の報告内容に
ついてご説明致します」
静かな口調だった
「研究会では人口 財政 医療 交通などに
ついて検討が行われました」
議場が静まり返る
「その結果 将来の選択肢として合併を
含めた検討が必要であるとの報告が
まとめられました」
そこで村長は少し視線を上げた
「ただし」
議員たちが顔を上げる
「現時点で何も決まっておりません」
ゆっくりと言葉を続ける
「雨実村がどうあるべきか」
「地域がどうあるべきか」
「それを考えるための議論が始まったと
いうことであります」
誰も口を挟まない
「私は結論を急ぐつもりはありません」
古川村長らしい言葉だった
「村の将来のために
あらゆる可能性を検討してまいります」
議場は静かだった
しかしその静けさは これまでとは違う
何かが始めた静けさだった
同じ日
同じ時間
三つの自治体で 同じ報告が行われた
だが
その受け止め方は それぞれ違う
瀬河市には瀬河市の思いがある
青月村には青月村の不安がある
そして雨実村には雨実村の迷いがある
研究会は終わった
だが本当の意味での議論は
ここから始まろうとしていた
窓の外では冬の風が吹いている
瀬河地域の未来は
まだ誰にも見えていなかった




