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村を出た人たち

台風が過ぎて数日後

雨実村役場 ふるさと振興課

秋の観光シーズンが一段落し

課内にも少しだけ落ち着きが戻っていた

菫は机の上に積まれた資料へ目を落とした

古川村長から頼まれていた仕事である

村を出た若者たちの調査

対象は三十歳以下

進学 就職 結婚

様々な理由で村を離れた人たちだった

「思ったより大変ですね」

菫が呟く

新田が向かいの席から顔を上げた

「まだ終わりませんか」

「名簿は集まってきたんですけど 整理が」

卒業生名簿

成人式名簿

住民異動記録

過去の資料を照らし合わせながら

確認していく


午後ようやく一覧表になり始めた

菫は数字を数え直す

そして少し意外そうな顔をした

「思ったより関西圏が多いですね」

新田も席を立って近づいてくる

「どんな感じですか」

菫は整理した一覧を見せた

三十歳以下の転出者 把握分

瀬河市 十二人

県内他市町 十三人

大阪 二十人

神戸・阪神地域 十五人

京都 十二人

名古屋 三人

神奈川 六人

東京 九人

その他 数人

「なるほど」

新田は頷いた

「進学先や就職先を考えると

自然な数字ですね」

「そうですね」

大阪が最も多い 

次いで神戸阪神地域 京都

雨実村から見れば

昔から人の流れがある地域だった

菫は一覧を見つめる

数字だけなら簡単だ

ただ一人一人に人生がある

高校卒業後に進学した人

専門学校へ進んだ人

会社へ就職した人

結婚した人

それぞれ理由が違う


夕方

古川村長がふるさと振興課へ顔を出した

「できたのか」

「はい」

菫は資料を手渡す

村長は静かに目を通した

数字を確認する

そしてしばらく黙った

「多いですね」

菫が言う

古川村長は小さく頷いた

「そうじゃな」

しかし表情は暗くなかった

むしろ何かを考えているようだった

「村長は何を調べたいんですか」

菫は前から気になっていたことを聞いた

村長は資料を閉じる

「まだ分からん」

そして少し笑った

「ただな」

窓の外を見る

役場の向こうには秋の山並みが見えている

「研究会では人口が減る話ばかりじゃろ」

「はい」

「だが わしは時々思うんじゃ」

村長は静かに続けた

「この人たちは本当に雨実村から

いなくなったんかと」

菫は返事ができなかった

「住所は変わった」

「仕事も変わった」

「クラス場所も変わった」

「だが故郷まで亡くなった

わけじゃない」

新田も黙って聞いている

「帰省する人もおる」

「親がおる人もおる」

「祭りに顔を出す人もおる」

村長は名簿を軽く叩いた

「数字の上では転出者じゃ」

「だが人との縁まで消えたわけではない」

部屋が静かになる

菫は名簿を見つめた

そこには知っている名前もあった

中学の先輩

同級生の兄

子供の頃によく遊んだ近所の人

確かに皆 村を出ていった

だが完全に縁が切れたわけではない

正月

お盆

祭り

どこかで顔を合わせることもある

「まずは知ることからじゃな」

古川村長はそう言った

そして資料を抱えて立ちあがる

「ありがとう」

「もう少し調べてみる」

そういい残して部屋を出ていった

菫と新田はその背中を見送る

「何を考えているんでしょうね」

菫が呟く

新田は少し考えてから答えた

「たぶん」

「人口じゃなくて

人を見ようとしているんだと思います」

窓の外では秋風が木々を揺らしていた

名簿の数字は変わらない

しかし古川村長は

その数字の向こう側にいる人達を

見始めていた

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