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台風一過

十月中旬

大型の台風が西日本へ接近していた

数日前からテレビもインターネットも

その話題で持ち切りだった

雨実村役場でも対応準備で進められている

ふるさと振興課

「進路予想だと

夜中が一番近くなりそうですね」

菫が資料を見ながら言う

「そうですね」

新田が頷いた

「大きな被害がでなければいいんですが」

窓の外を見る

まだ空は明るい

だが山間部では天候の急変も珍しくない

念のため避難所の準備も終えてあった

そして夕方

雨が降り始めた

風も次第に強くなっていく

役場内の空気も少し緊張感を帯びていた


午後六時

災害対策本部が設置される

会議室には担当職員が集まった

総務課

建設課

住民福祉課

ふるさと振興課

複数の職員が泊り勤務となる

「新田さん 今夜よろしくお願いします」

菫が言う

「そちらも気を付けてください」

新田は苦笑いした

「何も起きないのが一番なんですけどね」

「本当に」


午後八時

菫は帰宅した

自宅待機である

携帯電話は枕元

いつでも連絡が取れる状態にしておく

窓の外では風が唸っていた

雨が屋根を叩く音が続く

時折強い突風が吹くたびに家全体が

揺れるような気がした

なかなか寝付けない

何度か携帯電話を確認する

しかし役場からの連絡はない


深夜

対策本部

新田達は交代で情報収集を続けていた

県 消防 警察

気象情報

画面には次々と情報が表示される

だが幸いなことに

雨実村では大きな被害報告は

入ってこなかった

小規模な倒木 側溝が溢れる

その程度で収まっている

夜が更ける

そして台風は次第に北へ抜けていった

翌朝

空は驚くほど青かった

まるで昨夜の嵐が嘘のようである


午前八時

役場

泊り勤務を終えた新田の目には

少し疲れが見えた

「お疲れ様です」

出勤してきた菫が声をかける

「お疲れ様です」

新田はコーヒーを片手に笑った

「結局はほとんど寝られませんでした」

「ですよね」

「でも被害が少なかっただけ良かったです」

その時

総務課から連絡が入る

「管理空き家の確認をお願いします」

村が把握している空き家の点検だった

屋根 雨漏り

倒木 飛散物

確認が必要になる

「行きますか」

「行きましょう」

菫と新田は公用車へ乗り込んだ

村内巡回の始まりである

最初の空き家 異常なし

二軒目 庭木の枝が折れている

写真を撮る 記録する

三軒目 雨樋が外れていた

危険がないか確認する

そんな作業を繰り返していく

村中を走るうちに

昨夜の台風の痕跡が見えてきた

道路脇に散った枝葉

小川へ流れ込んだ落ち葉

倒れかけた案内看板

しかし深刻な被害は見当たらない

「思ったより大丈夫そうですね」

菫が言う

「村の人たちも慣れているんでしょうね」

新田が答える

山間部では台風も珍しくない

皆 事前に備えていたのだろう

昼前

一行は村の高台へ出た

そこからは雨実村全体が見渡せる

空は高く澄んでいる

昨日までの荒天が信じられない

田圃も

集落も

道の駅も変わらずそこにあった

暫く景色を眺めた後新田が小さく息を吐く

「こういう時には何も起きなかったという

報告が一番いい報告ですね」

菫は頷いた

「そうですね」

何事もなかった

それは地味な結果かもしれない

しかし地域を守る仕事にとっては

それが何より大切だった

公用車は再びゆっくりと走り出す

台風が過ぎ去った秋空の下

二人の巡回はまだ続いていた

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