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姉妹の休日

十月最初の日曜日

久しぶりに予定のない休日だった

朝

小川家の食卓

「今日は本当に休みなん?」

母が少し驚いたように聞く

「休みです」

菫が即答する

「昨日も電話鳴ってへんかった?」

「鳴りましたけど 

私の担当じゃありません」

その返事に家族が笑う

秋祭りや移住体験会が終わり

ようやく落ち着いたのだ

向かいに座る葵が言った雨実村

「じゃあ 予定通り行こう」

「うん」

今日は姉妹で瀬河市のショッピングモールへ

出かける約束をしていた

車で四十分とっては

珍しくない買い物先だった


雨実村を出ると 暫くは山道が続く

道の両側には稲刈りを終えた田圃

ところどころに柿の木が見える

枝には色づき始めた実がいくつも

ぶら下がっていた

谷沿いを流れる川は日差しを受け光っている

やがて道は少しずつ遠ざかる

住宅が増え

コンビニが現れ

郊外型の店舗が見え始める

いつの間にか景色は村から町へ変わっていた

瀬河市へ近づくにつれ交通量も増える

「やっぱり車多いなあ」

葵が窓の外を見ながら言った

「連休やからな」

菫も前方を見ながら答える

雨実村では数分に一台しか見ないこともある

それだけで少し違う世界へ来た気が

するのだった



午前十時過ぎ

大型ショッピングモール

休日らしく多くの人で賑わっていた

「人多いな」

葵が周囲を見回す

「村の一年分ぐらいおるんちゃう?」

「それは言い過ぎ」

菫が苦笑いする

二人はまず衣料品を廻る

秋物の服

靴

バック

どこにでもいる普通の姉妹だった

「これどう?」

葵が薄いベージュ色のカーディガンを

手に取る

「似合うと思う」

「お姉ちゃんは?」

「私はいい」

「またそう言う」

葵は半ば呆れた顔をする

「仕事着ばかり買ってるやん」

「役場勤めやから」

「休日用も必要です」

妹の方がしっかりしている

そんな会話をしながら店内を歩いた

昼前

フードコートで昼食を取る

ハンバーガー

パスタ

たわいのない話が続く

友人の事

村の事

特別な話は何もない

だがそれが心地よかった


午後

吹き抜けのイベント広場に

人だかりができていた

大きなポスターが掲げられている

今月デビューしたばかりの

女性アイドルグループの握手会らしい

ステージ設営の準備が進んでいた

「へぇ」

葵が立ち止まる

「知らんグループやな」

「私も知らん」

菫も苦笑いした

さらに横を見ると

来週開催予定のイベント告知も貼られている

少し前にテレビでよく見かけた歌手の

タッチ会だった

懐かしい名前に思わず二人とも足を止める

「この人 小学生の頃よう流れていたなあ」

「懐かしいな」

そんなことを話しながら再び映画館へ向かう

イベント広場ではスタッフたちが

慌ただしく準備を続けていた

村では見ることのない風景だった


二人は映画館へ向かった

ちょうど話題になっている映画が

上映されていた

館内は満席に近い

ポップコーンを抱えた葵が笑う

「映画館久しぶりやな」

「そうかも」

菫も笑った

仕事では住民説明会や研究会ばかり

映画館に来る機会などなかなかない

映画は面白かった

笑う場面もあり

少し泣ける場面もあり

上映が終わったころには

すっかり夕方になっていた

館内から出てきた二人は

余韻に浸りながら歩いていた

その時だった

向こうから見覚えのある二人組が歩いてくる

制服ではない

私服姿

しかし菫には分かった

以前 

川辺で見かけた高校生のカップルだった

仲良く並んで歩いている

楽しそうだった

葵も気づいたらしい

一瞬だけ視線が合う

だが二人とも何も言わない

そして自然に視線を外した

向こうも気づいたような気がした

しかし同じだった

何も言わない

何も見なかったことにする

それが一番平和だった

二人が通りすぎる

少ししてから葵が小さく笑った

「見た?」

「見た」

「言わんでおこう」

「言わんでおこう」

姉妹は顔を見合わせて笑った


夕方

買い物を終えた二人は帰路につく

車の窓から見える景色が少しづつ

変わっていく

夕暮の山道を車が走る

瀬河市の灯りが少しずつ後ろへ

遠ざかっていく

大型店

ガソリンスタンド

住宅街

それらが減るにつれ

見慣れた山並みが戻ってくる

窓の外には収穫を終えた田圃

遠くの尾根は夕陽に染まり始めていた

山の向こうへ沈んでいく太陽を見ながら

菫はアクセルを少し緩めた


もうすぐ雨実村

「やっぱり落ち着くな」

葵が窓の外を見ながら言う

「村?」

「うん」

少し意外だった

寮生活をしていた妹は

もっと都会が好きだと思っていた

「そうなん?」

「そうやで」

葵は笑う

「住むなら便利な所もええけど

帰る場所はこっちの方がええ」

菫は返事をしなかった

ただ前方に広がる夕暮の山々をみつめていた

帰る場所

その言葉が少しだけ心に残る

車はゆっくりと雨実村へ入っていく

今日は何も特別なことはなかった

買い物をして

映画を見て

姉妹で笑った

それだけの休日だった

だがそれはとても良い休日だった

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