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実りの一日

九月の三連休初日

雨実村は朝から慌ただしかった

まだ午前七時前だというのに

道の駅の駐車場には県外ナンバーの車が

並び始めている

今日の主な行事は二つ

稲刈り体験

そして秋祭り

さらに今年は移住体験事業も兼ねていた

ふるさと振興課にとっては

一年でも指折りの忙しい日だった

「おはようございます」

菫がふるさと振興課へ入ると

すでに職員たちは準備を始めていた

「おはよう」

「今日は長くなるぞ」

新田が笑う

机の上の参加者名簿

都会からの観光客

親子連れ

夫婦

そして移住希望者

今回は十数組が参加する予定だった

「受付準備できています」

「送迎車も配置完了です」

職員たちが手際よく確認していく

菫も名簿を手に取った

大阪

神戸

広島

福岡

様々な場所から参加者が来ている

やがて受付が始まった

「おはようございます」

「今日はよろしくお願いします」

笑顔で迎える

小さな子供を連れた家族もいた

稲刈りを楽しみにしている様子が

伝わってくる


午前九時

参加者たちは田んぼへ移動した

秋空が高く広がっている

黄金色に実った稲穂が風に揺れていた

「では始めます」

地元農家が鎌の使い方を説明する

最初は恐る恐るだった参加者たちも

すぐに慣れていった

「取れた!」

子供歓声が響く

その様子を見ていた農家たちも笑顔になる

菫は会場を見回しながら

参加者へ声をかけていった

「大丈夫ですか」

「楽しいです」

「思ったより難しいですね」

そんな声が返ってくる

移住希望者の中には

真剣に農家へ質問する人もいた

「一年を通してどんな作業がありますか」

「冬はどんな感じですか」

菫はその姿を見て少し嬉しくなる

ただの観光ではない

暮らしを知ろうとしている

昼前には稲刈り体験が無事終了した

昼食には新米のおにぎり

豚汁

地元野菜の漬物

参加者たちは美味しそうに頬張っていた


そして午後

今度は秋祭りが始まる

神社の境内には屋台が並び

地域の子供たちが集まっていた

太鼓の音が響く

道の駅の広場では特産品販売も行われている

雨実村全体がお祭りの空気に包まれていた

菫は祭り会場と道の駅を何度も往復する

問い合わせ

案内

駐車場対応

迷子対応

休む暇もない

気づけば夕方になっていた

西の空が赤く染まり始める

祭りも終盤を迎えていた

観光客たちは次々と帰路につく

「ありがとうございました」

「また来ます」

手を振る参加者たち

菫も笑顔で見送った

しかし全員が帰るわけではない

移住体験参加者たちは残る

今夜はここからが本番だった

温泉旅館

交流会

地域住民との会話 実際の暮らしの話

それらが待っている 

日が沈み始めたころ

菫たちは旅館へ移動した

玄関では女将の田中早苗と

若女将の田中美咲が出迎えている

「お疲れさまでした」

「ようこそ雨実村へ」

参加者たちが次々と館内へ入っていく

ロビーには木の香りが漂っていた

窓の外には清流が流れている

遠くから虫の声が聞こえてきた

都会では味わえない静けさだった

受付を終えた参加者たちは

それぞれの部屋へ案内されていく

そして夜

交流会の準備が始まろうとしていた

地元住民

移住者

移住希望者

様々な人が同じテーブルを囲むことになる

その中から未来の雨実村の住民が

生まれるかもしれない

菫は会場準備をしながら ふとそう思った

外では秋の虫たちが鳴いている

実りの季節の長い一日は 

まだ終わっていなかった

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