↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/50

数字の向こう

お盆休みが明けた

朝八時過ぎ

雨実村役場の駐車場には

いつものように職員たちの車が並んでいた

久しぶりに開いた庁舎には

どこか独特の空気が流れている

「おはようございます」

「おはようございます」

職員同士が挨拶を交わす

ふるさと振興課でも休み中の出来事が

話題になっていた

帰省客

川遊び

道の駅の客数

そしてお盆期間中の移動スーパーの利用状況

そんな話を聞きながら 菫は事績に座った

パソコンを立ちあげる

青月村で見た景色が頭に浮かんだ

滝 神社

川床 統合学校

移動スーパー

そして山中の両親

始業から暫くして 

課の電話が落ち着いた頃

新田が声をかけてきた

「青月村はどうでしたか」

どうやら気になっていたらしい

「思っていたより元気でした」

菫は素直に答えた

「元気でしたか」

「はい」

「もちろん人口減少は感じました」

「でも

それだけじゃありませんでした」

新田は興味深そうに椅子へ腰かける

そこへ古川村長も顔を出した

「報告会か?」

笑いながら近づいてくる

「ちょうど今からです」

菫も笑った

三人は課の奥にある打ち合わせスペースへ

移動する

冷たいお茶が配られる

「それで?」

古川村長が尋ねる

菫はゆっくり話し始める

「まず驚いたのは 

村に人がいることでした」

言ってから少しおかしくなった

「変な言い方ですね」

「いや わかる」

村長が頷く

「研究会の資料だけ見ていると数字しか

見えなくなるからな」

「そうなんです」

菫は続けた

「移動スーパーには沢山の人が

集まっていました」

「診療所もありました」

「学校もありました」

「川床には観光客もいました」

新田が静かに聞いている

「それに」

菫は少し考えた

「皆さん普通に暮らしていました」

その言葉に新田が頷く

「それが一番大事ですね」

数字だけでは見えない部分だった

古川村長が腕を組む

「青月村はどう見えた?」

今後はもっと本質的な質問だった

菫はしばらく考えた

そして答える

「雨実村の未来を

見ているような気がしました」

部屋が静かになる

村長も新田も何も言わない

「今すぐではありません」

「でも二十年後 三十年後」

「何もしなければ 雨実村も同じ道を

歩くかもしれません」

新田が小さく息を吐いた

「県も同じことを考えていると思います」

静かな声だった

「だから研究会を作った」

菫は頷いた

その時

古川村長が窓の外を見ながら言った

「わしはな」

二人が顔を向ける

「青月村を助けたいわけではない」

意外な言葉だった

「え?」

「もちろん困っているなら協力はする」

「だが  それだけではない」

村長は続けた

「雨実村も他人事ではないからだ」

その言葉には重みがあった」

「隣村で起きていることは

明日の雨実村かもしれん」

新田も静かに頷く

誰も反論しなかった

窓の外では夏の雲が流れている

蝉の声が聞こえる

いつもと変わらない雨実村の朝だった

だが三人の見ている景色は

少しだけ変わっていた

研究会の資料

人口推計

財政予測

それらの数字の向こう側に

青月村の人々の暮らしが見えるように

なったからだ

滝の音

川床の風

移動スーパーに集まる人たち

そして山中の両親の笑顔

菫は改めて思った

これから考えなければならないのは

自治体の未来だけではない

そこに暮らす人たちの未来なのだと

机の上には瀬河地域将来研究会の資料が

おかれていた

第二回研究会の日程は

まだ決まっていない

しかしその日が来た時

三人は前回とは少し違う気持ちで席に

着くことになるだろう

数字だけでは見えないものを知った上で

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。