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連絡網

川床での昼食を食べ終えた二人は

食事処をあとにした

滝の音が背後から聞こえてくる

「美味しかったですね」

菫が満足そうに言う

「夏は川床が人気なんですよ」

山中が笑った

「子供のころは当たり前だと思ってましたが

今考えると贅沢ですね」

清流の上を吹き抜ける風

冷たい水

流しそうめん

確かに都会では味わえない時間だった


車は再び村の中心部へ向かう

途中 村役場の地殻に人だかりが見えた

「あれです」

山中が指差す

「移動スーパーです」

白い小型トラックの側面が開かれ

簡易店舗になっている

野菜

豆腐

パン

惣菜

日用品

十人ほどの高齢者が買い物をしていた

「雨実村と同じ会社ですか」

「ええ」

「最近 青月村にも定期運航が

始まったんです」

二人は少し離れた場所から様子を見守った

「こんにちは」

移動スーパーの店員が山中に気づく

「あれ 幸一君じゃないか」

「お久しぶりです」

「かえって来たんだな」

その時

買い物をしていた高齢の女性が菫を見た

「幸一君?」

「そちらの方は?」

山中が少し困ったように笑う

「雨実村役場の職員さんです」

「今日は村を案内しているんです」

「へぇー」

女性たちは意味ありげに顔を見合わせた

菫は何となく嫌な予感がした

山中も同じことを考えたらしい

「違いますからね」

「まだ何も言ってないよ」

おばあちゃんたちは声を上げて笑った

その様子を見て菫もつられて笑う

しかし山中は少し頭を抱えていた

「これは後で面倒な事になりそうですね」

「そんなにですか?」

「たぶん」

妙に自信のある返事だった


移動スーパーを後にした二人は

共同墓地へ向かった

山の斜面に作られた墓地には

帰省した家族の姿がちらほら見える

山中は花と線香を供えた

静かに手を合わせる

菫は少し離れた場所で待っていた

風が吹く 蝉の声が響く

山中にとっては故郷であり

先祖が眠る場所でもある

暫くして山中が戻ってきた

「お待たせしました」

「いえ」

二人は再び車へ戻る

そして最後の目的地へ向かった

「次はご実家ですね」

「そうです」

山中は少しく苦笑した

「実は其れが一番緊張します」

「え?」

「帰るたびに色々言われるんですよ」

菫は笑った

「ご両親ですからね」

「それ以上です」

意味深な返事だった

十分ほど走ると

一軒の日本家屋が見えてきた

庭には盆提灯

玄関先には鉢植え

昔ながらの農家だった

「ただいま」

山中が玄関を開ける

すると奥から足音が聞こえた

「幸一!」

出てきたのは母親だった

そして

母親の視線が山中の横に立つ菫へ向く

一瞬

本当に一瞬だけ静止した

次の瞬間

「お父さん!」

家の奥へ向かって大声が響く

「幸一が嫁さん連れて帰ってきた!」

「は?」

山中が固まる

奥から父親が飛び出してくる

「本当か!」

「違う!」

即答だった

「違います!」

しかし両親は聞いていない

「いやぁ ついにか」

「長かったなぁ」

「違いますって!」

菫は慌てて頭を振った

「雨実村役場の小川と申します」

「今日は青月村を案内して

いただいていてーー」

「そういう説明は後でいいから」

母親が満面の笑みで言う

「違うから!」

山中が再び否定する

その時

母親が不思議そうな顔をした

「でも近所の人から聞いたよ?」

「え?」

「役場前で若い女性を車に乗せてたって」

山中が嫌な顔になる

「もう広まっているのか……」

「それだけじゃないぞ」

父親も続けた

「移動スーパーのところでも

見たって電話があった」

「誰からですか?」

「佐藤さんと田村さん」

山中は天井を見上げた

菫は思わず吹き出しそうになる

「早すぎませんか?」

「青月村ですから」

山中が遠い目をした

「まだ村を一周もしていないんですよ」

「幸一」

父親が真顔で言う

「お前 青月村の連絡網を甘く見るな」

母親も深く頷く

「移動スーパーの時点で八割方に

伝わってると思う」

「八割……」

菫は思わず声を漏らした

山中は額を押さえる

「やっぱり来るんじゃなかった……」

「でも良い人じゃない」

「だから 違う!」

久しぶりに見る山中の慌てた姿に

菫は思わず笑ってしまった

窓の外では蝉が鳴いている

小さな村の夏

そして相変わらずあおつきむらの連絡網は

今日も元気に機能しているようだった




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