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西暦2121年 超監視社会CORE  作者: ナール
FILE_04:永遠なる秩序の礎石
36/37

LOG_0033:共犯の萌芽

═══════════════════════

LOG_0033-E01:盤上の偽り

═══════════════════════

日時:西暦2121年3月26日(火)

場所:第09破棄体再利用施設

監視対象:韓智宇


朝の総監室。

智宇は端末に向かいながら、口の中で言葉を転がしていた。声には出さず、唇だけを僅かに動かしていた。


(死角を、見つけました)


その一言を、何度も、頭の中で繰り返した。繰り返すたびに、違和感が増した。

3月17日。この施設内をくまなく歩き、確認した事実が、まだ身体のどこかに残っていた。


死角は、無い。


建物自体が、どの角度からも「父なるE.O.Nの目」が届くよう、最初から設計されている。それを、誰よりもよく知っているのは、智宇自身だった。それなのに今から、その正反対の事を、道人民に告げようとしている。


(死角を、見つけました)


もう一度、繰り返した。声の高さを、変えてみた。落ち着いた声。少し興奮した声。淡々とした声。

どれが、最も自然に聞こえるか――智宇には、判断がつかなかった。


人間に向かって嘘をつくという行為が、E.O.Nに向かって嘘をつく行為と、これほど違う重さを持つとは、思っていなかった。E.O.Nには、言葉だけを整えればよかった。「合理的」と判定される語彙を選べば、それで済んだ。


しかし、道人民は違う。あの老人は、智宇の声の震えを、聞き分けるかもしれない。表情の作り方を、見抜くかもしれない。


(練習が、足りない)


そう思いながら、智宇は端末の画面に視線を戻した。何も、頭に入ってこなかった。


---


だが――と、智宇は思い直す。

この嘘は、ただの言い訳ではない。


道人民が、CORE文化省・未登録人類対策室に属する報告者である事は、もはや確定した事実だ。あの老人を経由する言葉は、遅かれ早かれ、上層部の誰かの目に触れる。


(ならば――何を、報告させるかは、選べる)


智宇の中で、その考えが、輪郭を持ち始めていた。


『Oculus Caligo』の存在そのものは、絶対に知られてはならない。しかし、あの権能を使えば使うほど、E.O.Nのログには、微細な違和感が――記録の間欠、感情スキャンの空白、機器の一瞬の沈黙が――積み重なっていくはずだった。それらの異常は、いずれ誰かの目に留まる。


留まった時、何が「原因」として提示されるか。

智宇は、それを、自分で選びたかった。


Magisterクラスの権限を持つ得体の知れないアプリが原因だと知られれば――それは、智宇一人の問題では済まない。送り主の正体、その意図、CORE中枢の内部にまで及ぶ調査が始まるだろう。智宇は、その調査の中心に立たされる。


しかし――「総監補佐が、独自に施設内の物理的な死角を発見した」という話であれば。

それは、一人の野心的なDominiの、些細な逸脱で済む。せいぜい、譴責(けんせき)と配置転換。命までは、取られないはずだ。


(偽の答えを、先に置いておく)


真実が漏れる前に、嘘を、答えの位置に据えておく。

道人民という、確定した通信経路を――逆に、利用する。

そこまで考えて、智宇は、自分の思考の冷たさに、一瞬、息を止めた。


(私は、いつからこんな計算が、澱みなく出来るようになったんだ)


答えは、出なかった。出す時間も、無かった。


---


12:32。昼休み。誰もいない倉庫で、智宇はもう一度、計画を整理した。

助手のMeG-18-068に、《Historia Vera――真実の歴史》を読ませる。それが、最初の一歩となる。


彼女の反応を見れば、Pecusが真実にどう触れるのか――その手応えを、計画全体に活かせる。脱出を望むかどうかも、そこから判断できるはずだった。

しかし、ファイルを手にするには、道人民から受け取らなければならない。


(あの老人は、スパイだ)


その事実を、もう、智宇は知っている。知っていながら――知らないふりを、しなければならなかった。

これまでのように、信頼しきった顔で。これまでのように、何の疑いもない声で。

それが、智宇にとって最も困難な部分だった。


道人民の正体を知る前なら、これは演技でも何でもなかった。ただ、自然に振る舞えばよかった。

しかし今は――全てが、計算になった。表情も、声も、間の取り方も。


(これも、E.O.Nを欺く行為と、同じなのか)


智宇は、自分にそう問うた。答えは、すぐには出なかった。

E.O.Nへの嘘は、システムを欺く嘘だった。道人民への嘘は――人間の顔を見ながら、その人間を欺く嘘だった。

その違いを、智宇は、まだうまく言葉にできなかった。


――ふと、別の記憶が来た。

1月、あの死角の小部屋で。道人民は言った。「息子や孫たちに会う為には、危険を侵す事に躊躇いはない」と。あの声には、本物の感情があった。曾孫を見た瞬間の、あの表情も。


本物でありながら、嘘だった。


(今、私がやろうとしている事と――同じじゃないか)


智宇は、その思考を、押し戻そうとした。押し戻しきれなかった。

これから道人民に見せる「信頼しきった顔」も、本物ではない。しかし――道人民に対する、これまでの感謝や、あの死角の空間で覚えた安堵は、本物だった。


本物の感情の上に、嘘を積む。

道人民が、それをやっていた。今、智宇が、それをやろうとしている。


同じ形の行為を、両側から――握手のように、交わそうとしていた。

その事に気づいた瞬間、智宇の手のひらに、じわりと汗が滲んだ。


理由は、もう一つあった。時間が、無かった。

アレハンドロに、すでに目をつけられている。監視レベルは、いつ引き上げられてもおかしくない。週末まで待っていられる余裕は、今の智宇には、無かった。


(今夜、行くしかない)


そう、決めた。


---


日時:西暦2121年3月26日(水)20:55


閉店間際の古物商は、いつもと違う顔をしていた。

日曜の昼間に訪れる時とは、空気が違った。窓の外は、すでに暗い。店内の照明は、半分ほどが落とされていた。


棚の影が、長く伸びていた。普段は見えない埃の粒が、わずかに残った灯りの中で、ゆっくりと漂っていた。

智宇は、ドアを開けた。ベルの音が、店内に響いた。


道人民が、奥から顔を出した。智宇を見た瞬間、表情に、わずかな驚きが浮かんだ。


「智宇君か。珍しいな、平日に」


「すみません。急に」


「閉店間際だぞ。何かあったのか」


智宇は、息を整えた。リハーサルした言葉を、頭の中から引き出した。


「少し、話したい事があって」


道人民は、しばらく智宇を見ていた。それから、棚の奥――いつもの死角の小部屋へ、顎で示した。


---


死角の小部屋に入ると、いつもの静けさがあった。

道人民が、抹茶を淹れる準備を始めようとした。智宇は、それを手で制した。


「時間が、ありません」


道人民の手が、止まった。


「何があった」


智宇は、用意していた言葉を、口にした。


「ここ最近、私は――社会への疑問を、抱いていました」


道人民は、何も言わず、智宇を見ていた。


「信頼できそうなPecusを、探していました。そして同時に、施設の中で――E.O.Nのカメラの死角になっている場所を、見つけました」


言いながら、智宇は自分の声を、注意深く聞いていた。震えていないか。不自然な間が、無いか。

死角は、無い。それを言った瞬間、頭の片隅で、もう一人の自分が、冷たく笑った気がした。


道人民は、目を細めた。


「死角を、見つけた」


確認するように、繰り返した。


「ええ」


「あの施設に、長年勤めるDominiでさえ、見つけられなかったものを?」


智宇は、一瞬、言葉に詰まった。道人民の声に、これまでにない、探るような響きがあった。

――しかし、第09破棄体再利用施設の構造を、道人民がどれほど知っているのか?これは、ブラフかもしれない。


「……私のように、あの施設の死角を、真剣に探した者が、これまで、どれほどいたと思いますか」


道人民は答えず、智宇をじっと見ていた。智宇の言い分には説得力があった。大抵のDominiは、COREに歯向かおうなどとは思わない。故に、死角を真剣に探したりはしない。


「死角は、あります」


智宇は繰り返した。


「随分と、見つけるのに時間が掛かりましたが」


「そうか」


道人民は、それだけ言った。表情は、変わらなかった。

しかし――その短い言葉の中に、智宇は何かを感じた。信じていない、というほど明確なものではなかった。ただ、何かを測っている。そういう響きだった。


(この老人は、私を試している)


智宇は、そう直感した。直感した瞬間――頭の中で、警告が鳴った。ここで動揺すれば、終わる。

同時に、もう一つの思考が、静かに動いていた。


(測られている。だが――測られる分だけ、報告される内容も、こちらの言葉通りになる)


道人民が今、この嘘を、どれほど信じているかは、重要ではなかった。重要なのは、道人民が「智宇は施設内に死角を見つけたと主張していた」という事実だけを、報告書に載せる事だった。信じるか疑うかの判断は、報告を受け取る側の仕事だ。智宇の仕事は――疑われても構わない、まことしやかな嘘を、記録として残す事だった。


「何故、急に」


道人民が、続けて問うた。


「何故、日曜まで待てなかった。不自然な行動は、怪しまれる」


智宇は、一拍、置いた。置きすぎれば、不自然になる。置かなければ、用意していた答えのように聞こえる。

その境界線を、智宇は、瞬時に計算した。


「…先日、Magisterが視察に来たと、言ったのを覚えていますか」


智宇は静かに、しかし、はっきりと口にした。


「時間が、無いんです」


道人民は、智宇の本心を見定めようとするように、じっと目を見てきた。思わず、冷や汗が出た。しかし、ここで引けば、ボロを出すのと同じだ。


「だから――例のファイルを、読ませたいんです」


智宇は、続けた。


「《Historia Vera――真実の歴史》を。信頼できそうなPecusに」


道人民は、しばらく、答えなかった。店の奥で、何かの機械が、低く唸る音だけが聞こえた。


「見つかった途端に、終わるぞ」


道人民は、低い声で言った。


「あれは、危険な代物だ。普通のPecusが読めば、すぐにE.O.Nに通報するだろう。その場合――」


「えぇ、私は終わります。しかし、いずれにせよ、このままだと、終わります」


これは嘘でも何でもなかった。


「あのファイルは、B6サイズで小さい。スーツの裏に隠せます」


智宇は、用意していた答えを、返した。


「Pecusが脱出を決意し、私に協力するには――真実を知る必要があります」


道人民は、智宇を、相変わらずじっと見ていた。

その視線の中に、何があるのか――智宇には、読み取れなかった。疑念か。警戒か。あるいは――もっと別の何かか。


長い沈黙が、続いた。

智宇は、その沈黙に耐えた。耐えながら――自分の手のひらが、わずかに湿っている事に気づいた。

そして、もう一つの事にも、気づいていた。


(この老人も今、私と同じ計算をしているのかもしれない)


道人民が、これから何を報告するか。何を伏せるか。それもまた――道人民自身の、生存のための計算だった。

老人の皺の奥にある表情から、智宇はもう何も読み取れなかった。読み取れないという事実こそが、答えだった。


---


「――分かった」


道人民は、やがて、そう言った。声に、諦めに似た響きがあった。


「見つかっても、私は一切助けない。自分は一切関与していないと、言わせてもらう」


「構いません」


智宇は、即座に答えた。

道人民は、棚の奥から、小さなファイルを取り出した。B6サイズの、黄ばんだ薄い冊子だった。


それを、智宇に差し出した。智宇は、両手で、それを受け取った。

紙の重みは、ほとんど無かった。それなのに――手のひらに伝わる感触は、ずしりと重かった。


「気をつけろ」


道人民は、それだけ言った。

智宇は、頷いた。何かを言おうとして――言葉が、出なかった。

代わりに、ファイルを、スーツの内側に滑り込ませた。


裏地と身体の間に、薄い角が当たった。布越しに、その存在が、はっきりと分かった。


---


店を出ると、夜の空気が、頬に当たった。智宇は、歩きながら、胸の内側を、何度も意識した。


歩く度に、わずかに、紙の角が肌を擦った。気のせいかもしれない。それでも――その感触が、頭から離れなかった。


(これで、道人民を経由して――私がファイルを受け取った事は、もう、向こう側に知られているはずだ)


智宇は、夜道を歩きながら、その事実を、自分の中で確認した。

アレハンドロ側は、今、智宇に対する手札を、また一枚、手にした事になる。いつでも、「調査」という名目で、智宇を捕らえられる。いつでも、終わらせられる。


――しかし。


その手札の中身は、智宇が用意したものだった。「死角を見つけた、危険なDomini」という手札。「Magisterに匹敵する権限を持つ何者かと通信している男」という、本当の手札ではなく。


どちらの手札が使われるかは、まだ分からない。しかし、少なくとも――偽の手札を、先に、盤面に置く事はできた。


(だから――長く、持っていてはいけない)


智宇は、その考えを、頭の中で、繰り返した。繰り返しながら――胸元に手を当てた。

布越しに、紙の硬さが、確かにそこにあった。


そして、ふと。あの朝のメッセージが、頭をよぎった。


『使え』


『質問には答えない』


会話ログを、痕跡なく消去できる何者か。日記帳の中身さえ知っていた、何者か。


(あれを寄越した者は――本当に、味方なのか)


道人民の裏切りを知った今、智宇の中で、その疑いは、以前より重さを増していた。一度、信じたいと思ったものに、裏切られている。同じ過ちを、また繰り返していないと、誰が言えるのか。


答えは、出なかった。


夜の街灯が、智宇の影を、長く路上に伸ばしていた。影の先に、何があるのかは――まだ、見えなかった。


```

────────────────────────────────────

E.O.N 行動記録

対象者 :韓智宇

時刻  :20:48:02 ~ 21:23:17

内容  :監視省承認済み外出(自己研鑽目的・継続申請)

     訪問先:古物商(許可済み定期訪問先)

     感情スキャン:抑制状態 軽度の変動あり

     危険度評価:低

フラグ :変化なし

────────────────────────────────────

```



═══════════════════════

LOG_0033-E02:首輪の外側

═══════════════════════

日時:西暦2121年3月27日(木)

場所:第09破棄体再利用施設

監視対象:MeG-18-068


いつも通りに出勤したMeG-18-068は、同僚たちに挨拶を済ませると、自身の端末に通知が来ている事に気づいた。


《To: MeG-18-068

 From: 韓智宇

 今日の16:00に収容区画E-7のメンテナンスハッチに来い。

 機械の動作について少し確認したい事がある。

 この件は、業務日誌への記載対象外とする。》


「業務日誌への記載対象外」


聞き慣れない言い回しだった。

報告すべき事を、報告しない。それが、どういう状態を指すのか――彼女には、うまく像を結べなかった。


しかし、Dominiには、Dominiなりの事情があるのかもしれない。

そう自分に言い聞かせ、彼女はいつも通りの業務を開始した。


頭の片隅に、その一文だけが、小さな棘のように残ったまま。


---


一方、その通知を送った直後、智宇は、自分の指が打った文字列を、もう一度見返していた。


(「この件は絶対に他言無用」…と書くのは、まずい)


書きかけて、消した言葉だった。危険思想を扱う者が使う語彙として、E.O.Nの辞書に登録されている可能性がある。代わりに選んだのが、「業務日誌への記載対象外」という、行政文書めいた言い回しだった。


これなら――機密性の高い業務連絡として、処理される。

そう判断してから、智宇は、自分がこの数日で、こういう計算をどれほど滑らかに行えるようになったかに、遅れて気づいた。


言葉を選ぶたびに、その選択の速さが、増している。

それが、良い事なのか、恐ろしい事なのか――智宇には、まだ分からなかった。


---


16:00 収容区画E-7


「ただいま来ました。韓智宇様」


MeG-18-068は、いつものように、深く頭を下げた。


韓智宇は、破棄体の収容カプセルに背を向ける形で、立っていた。その肩越しに、無数のカプセルの中で、微動だにせず立つ破棄体たちの姿が見えた。


ガラスの奥の、白く濁った目。あの目を見るたび、自分の中で何かが軋む音がする事を、MeG-18-068は知っていた。


韓智宇は、すぐに振り返らなかった。深く、長く、息を吐いた。


それは、空気を吸い込むための呼吸ではなかった。これから何かを始めるために、自分の神経を鎮めようとしている――そんな、儀式めいた呼吸に、MeG-18-068には見えた。


「……さて。破棄体には、慣れてきたかな。メグ」


MeG-18-068は、感情を抑えた声で、答えた。


「怖い、です。でも――先輩方は、皆、平気そうにしているので。怖がる自分の方が、おかしいのかもしれません」


正直な言葉だった。分析でも、理屈でもなかった。ただ、今、自分が感じている事を、そのまま口にしただけだった。


「そうか」


韓智宇は、それだけ言った。何かを、噛みしめるような声だった。


「慣れの問題だと、君はそう思いたいわけだ」


「……はい」


「そうか」


何か引っかかる言い回しのように聞こえた。いつもと何か違う響きが混ざっている事に、MeG-18-068は気づいた。うまく言葉にできない、何か。


その時――韓智宇は、自身の端末を操作した。


直後、辺りの空気が変わった気がした。何が変わったのか、分からなかった。

機械音の一部が、止まった。壁際の小さなランプの光が、いくつか、消えた。


(Dominiの権限なら、そんな事も出来るのかもしれない)


そう思いかけて――しかし、何の為に、という問いが、すぐ後を追いかけてきた。


「…機械の動作について、確認したいと――仰っていましたが」


MeG-18-068は、おずおずと、口を開いた。


「私よりも、先輩方のほうが、適任ではないでしょうか」


韓智宇は、まだ、振り返らなかった。


「あれは、嘘だ」


---


MeG-18-068の、思考が止まった。聞き間違いだと、思った。

Dominiが、自分に向かって、嘘をついていたと告げる。そんな事は――あり得なかった。


嘘という行為自体が、無い訳ではない。人間性スコア500以上で、Dominiに上がれると、COREはPecusに教える。しかし、それが嘘である事は、大半の者が薄々気づいている。口に出さないだけだ。


しかし――それは、上から下へ、当然のように降りてくる嘘だった。Dominiが、自らそれを認め、しかも、目の前のPecusに向かって告白する。そんな構図は――この社会のどこにも、存在しなかった。


上下が、逆さまになる感覚だった。


「え……えっと……」


数秒の、永遠にも感じられる沈黙が、流れた。

MeG-18-068の額に、汗が浮いた。体温調節のためではない。これは――恐怖だった。


「機械の動作について、確認したい事は、無い」


韓智宇は、ようやく、振り返った。


「……」


言葉が、出てこなかった。


「残り時間は、4分20秒だ」


端末の画面が、こちらに向けられた。その画面は、真っ赤に染まっていた。数字が、カウントダウンしている。

砂時計のようだった。それも――命の重さを量る砂時計のような。


「……その数字は、何でしょうか」


「私たちは今、誰からも、見られていない」


韓智宇は、静かに言った。


「意味が、分かるか」


「……」


「その伝達環を、外してみろ。普段はロックがかかっている。だが今、君のナノチップの設定を、一時的に解除した」


「すみません……意図が、分かりません」


韓智宇は、わずかに、目を伏せた。その一瞬、何かをためらうような――そんな間があった。


(これも、あの時と――同じだ)


彼の中で、何かが過ぎったように、MeG-18-068には見えた。何を考えているのか、彼女には分からなかった。ただ、その一瞬の間が、確かにあった。


「……すまない」


韓智宇は、小さく言った。それから、青ざめて硬直したMeG-18-068に近づき、彼女の首筋にある伝達環に、手を伸ばした。引き抜く、その手は――ためらいながら、それでも止まらなかった。


「ひっ……」


思わず、声が出た。

カチリ、という小さな音がした。


---


MeG-18-068は、首輪の無い首を、手で確かめた。


そこにあるのは、解放感ではなかった。絶対的な、恐怖だった。


(終わった)


そういう感覚が全身を包み込んだ。伝達環を外す事は許されていない。

しかし、その状態で、自分は今、生きている。そして、E.O.Nに検知されていない。

その二つの事実の間で、彼女の理性が、揺らいだ。


「何が……起きて……」


か細い声が、漏れた。


「これは、まだ誰にも言っていない事だ、メグ」


韓智宇は、静かに言った。


「君は――信頼できる、と私は判断した」


それから、彼は説明した。

『Oculus Caligo』という名のアプリ。COREの最上位、Magisterに匹敵する権限を、時間限定で与える、出所不明の代物。


説明を聞きながら、MeG-18-068の視界が、わずかに揺れた。背後のガラスの中、破棄体たちの胸が、上下していた。あの場所に、自分も、いつか――。

その連想が、一瞬、頭をよぎった。慌てて、振り払った。


「そ……そんな、恐ろしいもの……。もし、知られたら……」


「だから、これは他の誰にも言うな。お互いのために」


韓智宇は、静かに、しかし、有無を言わせない口調で言った。


言ってから――智宇は、その「他の誰にも言うな」という響きが、通知に書いた行政めいた言葉よりも、よほど剥き出しの命令だと気づいた。


(言葉を選んでも、意味は結局、同じ場所に着地する)


その事実に、智宇は少しだけ、可笑しさに似た何かを覚えた。可笑しさとは呼べない、苦い何かだった。


「私は、これを使って、何をするつもりだと、君は思う?」


「それを……使って、韓智宇様は……」


「君に、見て欲しいものがある。だが、その前に――この『監視されていない時間』が存在する事を、まず、君に知ってもらう必要があった」


「どのような……ものですか」


韓智宇は、一歩、踏み出した。MeG-18-068の顔を、正面から、捉えた。

その瞳には――傲慢さは、無かった。あったのは、絶望に似た、決意だった。


「私は、あるものを手にした」


スーツの裏ポケットから、ファイルを取り出した。手書きの文字で、《Historia Vera――真実の歴史》と書かれていた。


「このCORE社会が、どうやって作られたのか――その、本当の歴史が、書かれている」


---


「残り時間、3分10秒だ」


韓智宇は、一度、画面を見た。それから、続けた。


「私は、これを、Pecus階級の者に読ませたい。君たちの魂に、火を灯したい」


「……」


「君が、最初の一人だ」


「それは…どのようにして、入手したのですか」


「――COREは、彼らを未開人、または未登録人類と呼ぶ」


未登録人類。


CORE社会では、CORE統治下の外で暮らす人間の事は、Pecusには一切教えていない。その存在の事を、知っているPecusなど、全体の1%以下であり、当然MeG-18-068もそこに含まれていた。


「未登録人類」


MeG-18-068は、その単語を繰り返した。意味は、大体予想出来た。


「COREから配布されたもの、ではないのですね」


「そうだ。これを見せるのは、君が、最初の一人になる」


韓智宇は、続けた。


「無理にとは、言わない。僕の、この危険な行いに、付き合いたくなければ、それでいい。だが――もし、この社会の本当の姿を知りたいと、君の心が、少しでも思ったのなら」


彼の声が、わずかに、低くなった。


「これが、唯一の機会だ」


MeG-18-068の、心臓が、強く打った。本来なら、この瞬間にE.O.Nの警告が、鳴るはずだった。

しかし――あるのは、ただの静寂だった。


『Oculus Caligo』の存在は、本物だった。そして、その事実の裏に、彼女自身の中にある、もう一つの何かが――揺れていた。


「……さて」


韓智宇が、口を開いた。


「時間が、無い」


彼は、MeG-18-068の伝達環を、静かに、首筋に戻した。

カチリ、というロックの音が、鳴った。


「ここまでの会話は、今日は、一旦、忘れてくれ。不自然な思考や感情を抱けば、E.O.Nに、感知される。ここでは、何も、聞かなかった。いいね」


「……」


「だが――明日、同じ時間に、君の答えを聞く」


その瞬間、周囲の気配が、また、元に戻った気がした。しかし、MeG-18-068の首筋には、伝達環の冷たい感触とは別の、何かが――確かに、残っていた。


外れていた、あの数十秒間の感触が。


```

────────────────────────────────────

E.O.N 行動記録

対象者 :韓智宇

時刻  :16:00:04 ~ 16:04:37

内容  :収容区画E-7にて業務指導

     感情スキャン:抑制状態 軽度の変動あり

     危険度評価:低

フラグ :変化なし

────────────────────────────────────

```


---


同日。時刻23:50


「第09破棄体再利用施設」に近い区画にある、ランク5専用の居住区。鉄筋コンクリートで統一された他の区画よりも、わずかに窓が大きく、内装も整っている。


それは、MeG-18-068が「忠良種」として認められた結果、与えられた、効率的かつ快適なシェルターだった。清潔な一人部屋。自動で管理された暖かい室温。硬さが最適化された、大型のベッド。


しかし今夜だけは、その快適さが――皮膚に張り付くような、異物感を伴っていた。


午後4時の出来事が、頭蓋骨の中で、ノイズのように反響していた。その記憶は、この社会において「あってはならないもの」だった。


シャワーを浴び終え、寝巻に着替えたMeG-18-068は、義務である「本日の行動・思考フィードバック」のセッションを開始した。

壁の端末から、聞き慣れた機械音声が、冷淡に問いかけた。


《本日16:11より、MeG-18-068の生体情報に微細な偏差を検知。平均体温が通常より3.6%高。心拍数が、持続的に上昇。この非効率な状態が、現在まで継続している。考えられる要因を述べ、自己採点を実行せよ》


3.6%。


その数字を、MeG-18-068は、心の中で繰り返した。

たった、それだけの数字だった。しかし、E.O.Nにとっては、それで充分だった。何を隠していても、身体は、正直だった。


――伝達環は、外れていた間の記憶を、記録していない。しかし、その後に残った心拍と体温の揺らぎまでは、消せなかった。


(記録は、消せる。でも――)


その先の言葉を、彼女はまだ持っていなかった。ただ、身体の内側に、消えない何かがある事だけを、感じていた。


MeG-18-068は、予め用意しておいた答えを、口にした。


「本日、破棄体の処遇について、深く考察しました。その光景が脳裏から離れず、自らの人間性スコア低下への恐怖が、心拍数と体温を上昇させたものと、推測されます」


《妥当性:承認。

 恐怖反応は、規律遵守の効率性を担保する正常な生体機序に分類される。同様の非効率状態が再発した場合、心理調整プロトコルの適用、又は再帰教育施設への送還を検討する。以後の推移を注視せよ》


「十分、注意します」


やり取りを終え、彼女はベッドに横たわった。


(今の答えは――嘘ではない。でも、全部でもない)


その考えが、ふと、頭に浮かんだ。


恐怖は、確かにあった。しかし、体温を上げたのは、恐怖だけではなかった。もう一つ、名前のつかない何かが――あの数十秒間、E.O.Nの目から消えていた、あの感覚が――今も、身体のどこかで、静かに燃えていた。


(私は今、初めて――E.O.Nに、半分だけの真実を、渡した)


その事実に気づいた瞬間、彼女は、驚くほど冷静な自分がいる事に、気づいた。


恐怖に震えながらも、答えを選び、言葉を組み立て、システムが「妥当」と判定する形に整える。それは、智宇がずっとやってきた事と、同じ種類の作業だった。


(韓智宇様も、いつも、こうしているのだろうか)


その想像は、彼女にとって、初めてのものだった。Dominiもまた、何かを隠しながら、言葉を選んでいる。上の者も、下の者も、同じ形の仮面を被っている。


その事に気づいた瞬間――世界が、少しだけ、違って見えた。

目を閉じると――記憶の奥に封じていた光景が、蘇った。


(『世界の真実の歴史』……COREが、私たちに、偽りの歴史を与えてきた、という事)


それは、Pecus階級が、最も触れてはならない思考だった。もし、それが本当なら。彼女が信じてきた「秩序と規律」の足場は――最初から、無かった事になる。

システムに全てを委ねれば、それで正しい。そう信じて生きてきた彼女にとって、それは――静かな、絶望だった。


幼い頃から教え込まれた『問うな、従え』という言葉に、逆らう事ができないまま、彼女は、暗い天井に向かって、小さく呟いた。


「分からない……」


E.O.Nの説明だけでは、片付けられない事が、確かに、いくつもあった。

友人が「破棄体」にされた時の、Pecusたちの、抑えられた悲鳴。Domini専用の休憩室から漂ってくる、嗅いだ事のない料理の匂い。


そして――十八歳から二十六歳までの間に、八人もの子供を、産まされ続けた事実。


最初は、社会への貢献だと、信じていた。しかし、いつからか――自分は、個人としてではなく、繁殖のための装置として、扱われているのではないか。そういう思考が、頭をよぎるようになっていた。


その思考は、この社会において、最も危険な部類のものだった。だから――何度も、心の奥に、押し込んできた。

今日の出来事は、その全てを、揺り動かした。


伝達環が外れた状態で、生きていた、あの数十秒間。あの時――視界の端に、破棄体たちのカプセルが、見えていた。


胸が上下する、あの姿。あれは、もしかすると――自分の、未来の姿なのかもしれない。


そして同時に――あの数十秒間、自分は、E.O.Nの目から、消えていた。絶対的な恐怖と――その奥に、ほんの一瞬だけ見えた、別の何か。


管理の向こう側に、何かがある。

その感覚が、彼女の中の、最も深い場所に――小さな棘のように、刺さったまま残った。


(未登録人類…)


登録されていない人類。


管理されていない人は、争いを始める。人類は、放っておくとすぐに戦争・犯罪・奪い合いを始める。だから強大な国家権力による管理と監視が必要である。――これまでの歴史が、その証明となっているのだと、COREはそのように市民に教える。


しかし、登録されていない人類は、今も、外にいる――のだろうか。だとすれば、彼らは――どんな人たちなのか?野蛮なのか。それとも――


MeG-18-068は、普段はあまり目にしないが、遠くの山や海の景色を見た時の事を思い出し、更に向こう側で暮らしているかも知れない人たちのことを想像していた。それは、『自由』という、簡素ラテン語には存在しないはずの言葉を、無理やり呼び覚ますような感覚だった。


(私は…知りたい)


MeG-18-068は、目を閉じたまま、両手を、固く握りしめた。

その決意は――E.O.Nの監視が、決して届かない場所で、静かに、固まりつつあった。


しかし、その固い決意のすぐ隣に――もう一つの感覚が、静かに芽生えていた。

先ほど答えた、あの「半分だけの真実」。


嘘ではない。しかし、全部でもない言葉を選んで、システムに差し出す感覚。

それは、恐怖であると同時に――奇妙な、静かな力の感触でもあった。


(私も、選べるのかもしれない)


何を差し出し、何を差し出さないか。

生まれて初めて、その選択が、自分の手の中にあるように、感じられた。


眠りに落ちる直前、彼女の心拍数は、まだ、わずかに高いままだった。


```

────────────────────────────────────

E.O.N 感情スキャン記録

対象者 :MeG-18-068

時刻  :23:58:41

内容  :フィードバックセッション完了

     自己申告要因:スコア低下への恐怖(採用)

     生体情報:緩やかな鎮静傾向へ移行

     危険度評価:低〜中

フラグ :要注意(継続観察)

────────────────────────────────────

```



═══════════════════════

LOG_0033-E03:悪意なき鏡

═══════════════════════

日時:西暦2121年3月28日(金)

場所:第09破棄体再利用施設

監視対象:韓智宇


出勤中のロボタクシーの中、韓智宇は、スーツの裏ポケットに収まった《Historia Vera》のファイルの感触を、外側から確かめた。薄い紙の重みが、布越しに伝わる。


(メグは、この扉を開ける事を選ぶだろうか。そして――張偉強が来る日は、どこで、どうやって読ませればいい)


窓の外を、見慣れた灰色の街並みが流れていった。答えの出ない問いを抱えたまま、施設に着いた。


---


施設に到着すると、この日は珍しく、張偉強総監が出勤していた。普段は不在がちであるにもかかわらず、今日はゆったりと椅子に座り、施設総監室で智宇を出迎えていた。


(このタイミングか)


総監室は、施設内すべての監視カメラ映像をリアルタイムで表示するモニターが配置された、E.O.Nの監視の中枢だ。たとえ『Oculus Caligo』で監視システムを止めたとしても、この部屋で張偉強の目――生身の人間の目――に留まれば、言い逃れは効かない。


「おはようございます。張偉強様」


「おうよ」


張偉強は、紫色の煙をくゆらせるキューバ産葉巻を口に挟んだまま、卓上のタブレットに視線を落としていた。画面には、二十一世紀の古典漫画が表示されている。


智宇は、何気ない調子を装って、尋ねた。


「何を読まれているのですか」


張偉強は、満足げに葉巻を灰皿に押し付けた。読書を中断される事を、特に面倒がる様子もなかった。


「『DEATH NOTE』とかいう、21世紀の漫画だ。昨日中に読み終わりたかったんだが、駄目だった。非効率な娯楽だよ、まったく」


そう言って、ルイボスティーを一口、飲んだ。


「名前を書いただけで、特定の相手を殺せるノートを拾った青年の物語、でしたね」


智宇は、表情を動かさずに答えた。声の平静さを保つ事に、意識の大半を使わなければならなかった。


「そうさ。死に方まで操れるという、とんでもないノートだ。21世紀の連中にとっちゃファンタジーだろうな。だが――22世紀の技術なら、ある程度の再現は可能だってのが、皮肉で面白いだろう?」


その台詞は、何の含みもなく、ただの雑談として放たれた。

それが、何よりも――智宇には、恐ろしかった。


---


「再現、と言いますと……」


「知っての通り、Pecusの血液に流れる液状ナノチップは、遠隔操作で身体を強制麻痺させる事が出来る。だが、それはつまり――麻痺じゃなく、『即死』させる事も、技術的には可能だと、考えた事はないか?」


智宇は、視線を、自分の手元に落とした。それ以上、顔に出すわけにはいかなかった。

内側で、心臓が、大きく一つ跳ねていた。


(張偉強は、知らない。何も、知らない)


そう自分に言い聞かせた。この男は、Oculus Caligoの存在も、智宇がスーツの内側に隠したファイルの事も、何一つ知らない。ただの、暇つぶしの思考実験を、口にしているだけだ。


しかし――知らないという事実そのものが、恐ろしかった。


この男は、権能の全貌を知らないまま、権能の正体を言い当てていた。まるで、答えを見ずに、答えのページを開いてしまったかのように。


「……理論上は、そうかもしれません。しかし、死に方を操るのは、非現実的では」


「そうでもないのさ」


張偉強は、葉巻の煙を、ゆっくりと天井へ吐き出した。端末の画面に、また視線を戻していた。智宇の反応など、最初から興味がない様子だった。


「22世紀の現代社会は、すべてE.O.Nの管理下にある。事故を装った死に方をさせたい場合――例えば心臓発作や、高所からの転落に見せかけたい場合も、システム側で機械を遠隔操作し、ナノチップの強制動作と監視ログの同期を、改ざんすれば、理論上は可能なわけだ」


智宇の喉が、何かに塞がれたように、動かなくなった。

この男は今、智宇が昨日手に入れたばかりの『Oculus Caligo』の権能を――何の自覚もなく、ただの暇つぶしの話題として、語っている。


言葉が、出てこなかった。

出てこないまま――頭の中で、別の声が、組み立てを始めていた。


(停止させるだけではない。機械を遠隔操作し、ログを書き換える事も出来る。つまり、上の人間は――いつでも、誰でも、事故に見せかけて消せる)


そして、その思考の先に――もう一つの疑念が、鎌首をもたげた。


(この力を、私に渡した者は――誰なのか)


『使え』とだけ書いて、痕跡なく消えたメッセージ。日記帳の中身まで知っていた、何者か。


もし、その何者かが――張偉強が今語ったような使い方を、既に何度も、静かに実行してきた存在だとしたら。

もし、智宇に渡された鍵が、その者にとって――何かを試す為の、小さな実験に過ぎないのだとしたら。


背筋を、冷たいものが伝った。


「だが、市民をそんな手段で殺すよりは、破棄体として再利用したほうが効率的だ。COREは、出来るけど、やらないだけのことさ」


張偉強は、それだけ言って、また漫画に意識を戻した。


出来るけど、やらない。

その一言が、智宇の中で、別の意味を帯びて、重く沈んだ。


つまりこれが意味するのは――もしMeG-18-068が、反体制的な思考を検知された場合、待っているのは「再教育」ではなく、一瞬の事故死かもしれない、という事だった。


智宇は、ポケットの中のファイルを、静かに、強く握りしめた。


(私に『Oculus Caligo』を送った者は――味方なのか、それとも――)


その問いに、答えは出なかった。出ないまま、智宇は、目の前の男を、改めて見た。


葉巻をくゆらせ、漫画に没頭する、初老の男。虚無を抱えながらも、破棄体化という制度そのものには、決して疑問を持たない男。


この男は、権力の使い方を、悪意なく語れる。悪意がないからこそ、それは、智宇がこれから背負おうとしている力の恐ろしさを、誰よりも正確に映す鏡になっていた。


(私が、あのアプリを使い続ければ――私も、いずれこの男のように、それを"当たり前の可能性"として語る日が来るのだろうか)


その想像に、智宇は、微かな吐き気を覚えた。


張偉強がこの総監室に居座る限り、メグにファイルを読ませる時間は、最大限に短縮する必要がある。原本の量は少ないとはいえ、メグがこの危険な提案を受け入れるかどうかの確認も含め、5分程度が限界だろう。


智宇は、メグの答えを聞くより先に――すでに、作戦時間の再調整を強いられていた。


```

────────────────────────────────────

E.O.N 行動記録

対象者 :韓智宇

時刻  :09:42:03 ~ 09:58:51

内容  :施設総監室にて施設総監と業務会話

     感情スキャン:抑制状態 軽度の変動あり

     危険度評価:低

フラグ :変化なし

────────────────────────────────────

```


---


3月28日 11:05 データ解析室前の廊下


人通りの少ない廊下で、智宇はMeG-18-068と顔を合わせた。廊下の隅のE.O.Nカメラが、二人の距離と姿勢を、淡々と記録し続けている。


「……おはようございます、韓智宇様」


メグの挨拶は、いつもより抑えられ、声の調子がわずかに沈んでいた。それは、恐怖を隠そうとする努力でありながら――同時に、揺るぎない何かを内に秘めた声でもあった。


「おはよう。調子は、どうかな」


智宇は、他のPecusに向けるのと同じ、淡々とした声で返した。


「問題ありません」


MeG-18-068は、はっきりと、智宇の目を見た。その視線が、「問題ありません」という言葉の裏側に――もう一つの返答を、重ねているように見えた。


(この娘も、もう――半分だけの真実を、言葉にする事を覚えている)


智宇は、そう感じた。感じながら――それが、自分がこの数日で彼女に教え込んでしまったものである事に、気づいていた。


「では、昼食後の12時40分。入出庫ターミナルの二番倉庫に来てほしい。今日中に、あそこの在庫内容と配置図を、正確に把握しておきたいんだ」


不自然なほど具体的な職務命令を装い、智宇は待ち合わせ場所を指定した。二番倉庫を選んだ理由は、当然計算の内であった。総監室の巨大なモニターにおいて、その映像は最も端の、小さな四角い画面に表示される。さらに、張偉強の机と椅子の角度から見て、最も視界に入りにくい場所だった。


5分間なら、葉巻の煙と古典漫画に夢中な張偉強の注意を、逸らせる可能性が高い。


「了解いたしました」


メグは、一切の迷いを見せずに、答えた。


---


入出庫ターミナル 二番倉庫 12:40


倉庫の中は薄暗く、金属の匂いが充満していた。破棄体のメンテナンス部品や、廃棄前の資材が積まれた、四畳ほどの狭い部屋だった。


メグが入室するのを確認すると、智宇は、即座にスーツの袖を操作した。

『Oculus Caligo』を、起動した。


一瞬、周囲の機械音が消え、照明が、微かに揺らいだ。監視カメラの「見えない目」が閉じた事を示す、重い静寂。

その静寂の中で――智宇の頭に、今朝聞いた話が、また蘇った。


(ナノチップは、即死もさせられる)


ファイルをスーツの内側から取り出そうとした手が、一瞬、止まった。


これを渡せば、メグは、今までよりも遥かに危険な領域に踏み込む事になる。それは、もう、スコアが下がるとか、降格するとか、そういう次元の話ではなかった。


事故に見える形で、一瞬で、消される可能性。


(それでも――)


智宇は、止めていた手を、もう一度、動かした。


(私は、これを渡す)


「……その様子だと、資料を読む気になった、という事で良いのかな」


智宇は、声に何も滲ませないよう、努めて言った。

MeG-18-068は、深く息を吸い、その恐怖と決意が混ざった息を、吐き出した。


「韓智宇様は、仰いましたね。『これが知れる唯一のチャンス』だと。私は昨夜、考え続けました。模範的な市民、E.O.Nの教えに従う合理的なPecusであれば――断るべきだと」


その言葉は、長い抑圧の底から、絞り出されたもののように聞こえた。


「でも――韓智宇様が、これほどの危険を冒して、私に提案してくださった。もしここで断れば、このまま無事に生きられたとしても……私が45歳を過ぎた頃に、他の皆と同じように、廃棄されるだけです。私の子供たちが、あの後どうなったのかも分からないまま、最後まで、社会の歯車のままで」


MeG-18-068は、初めて、智宇に対して、感情を露わにした。


「そして――あの時、あなたが何を言おうとしていたのか分からないまま、残りの人生を過ごす事を考えたら……何か、説明のつかない…不合理な感情が、湧きました」


「メグ、君ならそう判断すると、信じていたよ」


間を開けて続ける。


「でも、君が抱いたのは、決して“不合理な感情”などではない」


その感覚こそが、このCORE社会からの脱出を決断する最大の鍵となる。韓智宇はそう確信していた。


「この社会で言う『合理的』とは――偽りの秩序を保つための、命令の言い換えに過ぎない。僕は数日前、COREの管理下にない、自由な人々と、秘密裏に出会った。その時――忘れていた何かを、思い出した気がしたんだ」


智宇は、アプリの残り時間を確認した。完全な遮断までは、8分30秒。だが、安全策として自分に課した猶予は、それよりずっと短かった。


「主任の張偉強は、今日一日、総監室にいる。彼の席からは、ここの映像は遠いが――映ってはいる。監視カメラが止まっていても、人間の注意力に頼るこの状況は、危険だ。今日は、最大5分とする」


智宇は、メグに視線を戻した。


「残り時間は、4分だ」


スーツの内側から、ファイルを取り出した。紙の擦れる音が、静まり返った倉庫に、小さく響いた。


「これには――COREがPecusやDominiに教える歴史とは、大きく異なる歴史が、まとめられている」


メグは、恐る恐る、その紙の塊を、受け取った。


22世紀のCORE社会において、「紙」そのものが、極めて珍しい物質だった。彼女は、慣れない手つきで、その感触を確かめた。


冷たく、それでいて――端末のガラス面とは違う、ざらつきのある手触りだった。指先から伝わるその感触が、何故か――生きている何かに触れているような、奇妙な実感を伴った。


表紙には、ラテン語で『Historia Vera』。その下に、見た事のない文字で、何かが書かれていた。


「……これは、昔の文字、でしょうか」


「二十一世紀に抹消された、日本語だ。中身は、君たちでも読める簡素ラテン語に翻訳されている。さぁ――読むんだ」


MeG-18-068は、震える指で、最初のページを、めくった。

智宇は、静かに、カウントダウンを確認した。残り時間は、3分を切っていた。


```

────────────────────────────────────

E.O.N 行動記録

対象者 :韓智宇

時刻  :12:40:11 ~ 12:45:09

内容  :入出庫ターミナル二番倉庫にて在庫確認業務

     感情スキャン:軽度の変動あり

     危険度評価:低

フラグ :変化なし

────────────────────────────────────

```



═══════════════════════

LOG_0033-E04:消えない火

═══════════════════════

日時:西暦2121年3月29日(土)~4月3日(木)

場所:第09破棄体再利用施設

監視対象:韓智宇、MeG-18-068



閲覧者よ。

これから記録するのは、6日間だ。


6日間という時間を、私はこれまで、数秒単位で記録してきた。しかし今回だけは、違う書き方をしようと思う。

なぜなら――この6日間、彼らが積み重ねたものの正体は、時間の長さではなかったからだ。


38分。


それが、彼らが命を賭けて手にした、真実に触れる時間の、総量だった。

1日の、1440分の中の、わずかな断片。しかし、その断片の中に、彼らが人生をかけた理由が、詰まっていた。


---


この日以降、智宇とMeG-18-068の間には、「極秘の5分間」という名の、危険で神経質な習慣が生まれた。


3月28日(金)から始まり、4月3日(木)まで――

智宇は、張偉強の出勤状況に応じて、1日あたりわずか2分から、長くても8分を限度に、メグにファイルを少しずつ読ませ続けた。


「儀式」は、施設内のあらゆる場所、あらゆる時間帯に、分散された。使われていない資材置き場の陰。破棄体収容エリアのメンテナンス室の一角。予備の入庫ターミナルの死角。


毎回、場所を変える事。毎回、口実を変える事。毎回、5分を超えない事。


その三つの規律を、智宇は自分に課していた。規律を破れば、それは「危険」ではなく「必然」になる。彼は、その違いを、誰よりもよく理解していた。


MeG-18-068の方にも、変化が生まれていた。


初日、彼女はファイルを受け取る手が震えていた。しかし三日目には、震えは消えていた。代わりに来たのは――ページをめくる指の、奇妙な速さだった。


まるで、渇いた喉が水を求めるように。


智宇は、その変化を見るたびに、複雑な感情を抱いた。


(火は、点いた。しかし――点いた火は、消せない)


その事実の重さを、智宇は、日を追うごとに、強く意識するようになっていた。


---


4月1日(火) 14:12 破棄体収容エリア メンテナンス室


その日、メンテナンス室の奥で、智宇とMeG-18-068は、いつものように『Oculus Caligo』を起動させていた。

メグが、本日5ページ目を読み終えようとした、その時だった。


廊下の向こうから、足音が聞こえた。

智宇の耳が、それを捉えたのは、足音が聞こえ始めてから、およそ0.7秒後だった。


(誰か)


思考が、その一語だけで、止まった。止まった思考の裏側で、身体は、勝手に動き始めていた。


「……っ」


メグの肩が、わずかに、震えた。

足音は、近づいてくる。複数の声も、混じっていた。


智宇は、自分の心臓が、一拍だけ、不規則に跳ねるのを感じた。E.O.Nの感情スキャンが、もし今、正常に機能していたら――この一拍を、間違いなく記録していただろう。


しかし今、この部屋は、監視の外にあった。

外にある、という事が――かえって、恐怖を増幅させた。

守ってくれるものが、何も無い。


智宇は、即座にメグの手からファイルを取り上げ、スーツの内側に滑り込ませた。動作は、一秒にも満たなかった。

指先が、紙の角を掴み損ねかけた。


一瞬。


たった一瞬、紙が、指の間からこぼれかけた。

その一瞬に――智宇の頭の中で、あらゆる未来が、同時に展開された。


床に落ちたファイル。開いたページ。入ってきた誰かの視線。その視線が捉える、ラテン語ではない文字。


その全てが、0.2秒にも満たない時間の中で、智宇の脳裏を、稲妻のように走り抜けた。


指が、紙を、掴み直した。


間に合った。


安堵する暇は、無かった。


扉が開いた。


「あ、すみません、データ確認に……」


入ってきたのは、清掃用品を運んでいた、二人の男性Pecus従業員だった。彼らは、智宇とメグの姿を見て、一瞬、足を止めた。


智宇は、その一瞬の中で、自分の表情を、確認する事ができなかった。鏡は、無い。今、自分がどんな顔をしているのか、智宇自身にも、分からなかった。


(平静に。いつもの、業務中の顔に)


「いや、構わない。私もちょうど、出るところだ」


智宇は、努めて平静な声で、答えた。声に、震えがないか――自分でも、確信が持てなかった。

言葉を発している間、智宇の視界の端に、MeG-18-068の姿があった。


彼女は、何も言わず、深く頭を下げた。その角度は、いつもより、わずかに深かった。深すぎる角度は、それ自体が不自然に見える危険を孕んでいる事を、彼女自身も、瞬時に理解していたはずだった。


それでも――彼女は、頭を下げ続けた。

顔を伏せる事で、表情を、隠すために。


智宇には、それが、分かった。


二人のPecusは、特に何も気にする様子もなく、奥の棚へと向かっていった。

その背中を、智宇は、視界の端で追い続けた。追いながら――呼吸を、意識的に、整えた。


吸って。止めて。吐く。


その、たった三拍の呼吸が、これほど困難だった事は、今までに、なかった。

智宇とMeG-18-068は、無言のまま、メンテナンス室を後にした。


---


廊下を歩きながら――智宇は、自分の心臓が、まだ強く打っている事に気づいた。

5分の猶予のうち、まだ2分も残っていなかった。それでも、智宇は思った。


(次は、もっと――確実な場所を、選ばなければならない)


確実な場所など、この施設のどこにも無い事を、智宇は、誰よりもよく知っていた。それでも、そう思わなければ、次の一歩を、踏み出せなかった。


隣を歩くMeG-18-068に、智宇は、視線を向けた。

彼女の横顔は、白かった。血の気が引いた頬に、まだ、恐怖の名残があった。


しかし――その恐怖の奥に、智宇は、もう一つの色を見た。


引かなかった、という色だった。


あの一瞬、逃げ出しても、泣き出しても、おかしくなかった。しかし彼女は、頭を下げ、耐え、そして今、隣を、共に歩いている。


(この娘は、もう――後戻りできる場所にはいない)


その事実を、智宇は、改めて、噛みしめた。

噛みしめながら――自分自身もまた、同じ場所に立っている事を、意識せずにはいられなかった。


(私たちは今、同じ崖の上に立っている)


その考えが浮かんだ瞬間、智宇は、奇妙な感覚に襲われた。

恐怖ではなかった。孤独でもなかった。

それは――誰かと、初めて、同じものを背負っているという感覚だった。


道人民との関係には、無かったものだった。あの老人との間には、常に、片方だけが知らない何かがあった。

しかし、今、隣にいるMeG-18-068との間には――少なくともこの瞬間だけは、隠すものが、無かった。


その事に、智宇は、わずかな安堵を覚えた。

安堵を覚えた自分に、智宇は、遅れて気づいた。


(私は今、Pecusに対して、対等な感覚を持ったのか)


その問いは、智宇がこれまで持った事のない、新しい種類の問いだった。


---


4月3日(木)。MeG-18-068が、ついにファイルの全ページを、読み終えた。


この一連の行為に費やされた時間は、累計でわずか38分。それは、彼らが命を賭して盗み取った、世界の真実を垣間見るための猶予だった。


ファイルに描かれていたのは、大衆の人権、自由、財産が、いかにして徐々に、巧妙に剥奪されていったかの、詳細な経緯。


秘密結社のごく少数のメンバーを頂点に置く、蜘蛛の巣状ネットワークにより、世界のあらゆる主要産業は彼らの手の内にあった。

彼らの配下にある誘導者や工作員たちによって、大衆の思考は誘導され、不安と恐怖を煽られ、結果として「自分から進んで檻の中に入っていく」ように仕向けられていった。


MeG-18-068は、読み進めるたびに、体が震えるのを感じた。

そんな事は、本当に可能なのか?これは良く出来た作り話ではないのか?

何度も疑った。


しかし――同時に否定しきれない。今の社会構造が、物語っている。

嘘か本当かは、もはや関係ないのかもしれない。事実として、22世紀現代、人類は世界統一政府によって完全に管理され、生殺与奪の権利までも支配者の手に委ねているではないか。


大衆は、まるで自主的な屈服を選ぶかのように、支配者に従い、気づけば自らの権利を全て、差し出していた。陰謀があろうと無かろうと、それだけは揺るぎない事実であった。


「狂気…ですね」


数百年を掛けてまで、COREという現代の社会を目指し続けたという、狂気。


「そうだな」


――それは、智宇も思った事だった。しかし、重要な事も付け加えなければならない。それは、いくら支配者による誘導があったとしても、最後は大衆がそれに従うという選択をしなければ、この体制は成立しない――という事実だ。


---


16:08


入出庫ターミナルの隅、二番倉庫とは別の、薄暗い通路。


残りの数ページを読み終えたMeG-18-068は、静かにファイルを閉じ、その重すぎる真実を噛みしめるように、虚ろな表情で、智宇に差し出した。


「よくぞ、読んでくれた」


智宇は、その重いファイルを、再びスーツの内側に、しまい込んだ。

MeG-18-068は、まるで魂を抜き取られたかのように、感情のない声で、呟いた。


「……どうして、こんな事になってしまったのでしょうか。でも――これが事実だったとしても、私たち個人に、何が出来るというのでしょうか。もう、人類は……いいえ、私たちは……何もかもを、自ら進んで、奪われてしまっています。私は、余計に――どう考えればいいのか、分からなくなりました」


真実を知った事は、彼女にとって、自由への道ではなく――絶望的な閉塞感を、もたらしていた。

智宇は、その言葉を聞きながら、既視感に似た何かを覚えた。


(私も、あの店の死角で、同じ言葉を、心の中で呟いた)


『Historia Vera』を読み終えた夜、智宇自身もまた、同じ虚無に、飲み込まれかけていた。知る事は、救いにはならない。知る事は、ただ、それまで見えなかった鎖の重さを、正確に測るだけの行為だった。


「実は僕も、ほとんど同じ感想だったんだ。その麻痺するような無力感は、よく分かる」


智宇は、静かに言った。


「でも――出来る事は、ある。この真実を知ってしまった以上、君はもう模範的なPecusとして、これまでと同じように生きる事は出来ないだろう」


智宇は、周囲に誰もいない事を、一瞬で確認した。


「……今日は、もうタイムアウトだ。続きは、また次の機会にしよう」


「続き……ですか」


「あぁ。本題は、そこからだ」


彼女を、単なる「読者」から、自身の命を預ける「協力者」へと変える――智宇の最大の勝負は、ここから、始まる。


```

────────────────────────────────────

E.O.N 行動記録

対象者 :韓智宇

時刻  :16:08:22 ~ 16:13:40

内容  :入出庫ターミナルにて業務会話

     感情スキャン:抑制状態 軽度の変動あり

     危険度評価:低

フラグ :変化なし

────────────────────────────────────

```



═══════════════════════

LOG_0033-EPILOGUE

═══════════════════════


閲覧者よ。

この6日間を、私はこう記録する。


一人の男が、嘘を覚えた6日間だった。


正確に言えば――智宇は、以前から嘘を知っていた。E.O.Nを欺く言葉なら、彼はとうに使いこなしていた。しかし今回、彼が覚えたのは、別の種類の嘘だった。


人間の顔を見ながら、その人間を信じさせるための嘘。


道人民に「死角を見つけた」と告げた夜、智宇は気づいていなかったかもしれない。自分がしている事が、道人民が長年、智宇自身に対してしてきた事と、寸分違わぬ形をしている事に。


本物の感情の上に、嘘を積む。

その技術を、智宇は道人民から学び、そして今、MeG-18-068へと――知らぬ間に、受け渡していた。


4月1日の夜、メグはE.O.Nに向かって、初めて「半分だけの真実」を答えた。恐怖は本物だった。しかし、その奥にあったもう一つの感覚は、一言も語らなかった。


嘘ではない。しかし、全てでもない。

それは、智宇が数ヶ月かけて身につけた技術だった。メグは、それを、たった一日で覚えた。


この速さを、私はまだ、どう評価すればいいのか分からない。


---


38分。

彼らが命を賭けて手にした、真実に触れる時間の総量。指の間から紙がこぼれかけた、あの0.2秒も、その中に含まれている。


真実を知った後、メグは絶望した。「私たちに、何が出来るのでしょうか」と。

智宇は、答えた。「本題は、そこからだ」と。


その言葉が、彼女を救うのか。それとも、より深い崖へ導くだけなのか。

判断できないまま、私はただ、次の日々を、見つめ続ける。


LOG_0034へ続く

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