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おまけのお姫様  作者: 小宵
Ⅲ:狂気の螺旋
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第29話


 呆然と目を見開く光太郎。

 目に映る涙に顏を濡らした美守をじっと見つめる。

 そして目を凝らすとはっとしたように眉を寄せた。


「美守……そっか、ごめん。そう言う可能性もあったんだね」


 こくりと頷く。


「フローディアの記憶を見たんだね……?」

「……うん」


 後で険しい顏をしているクラウを見て、光太郎は儚げな笑みを浮かべた。


「……場所を、移そうか」


 



+++





 

 光太郎の自室へと移動した三人。

 光太郎はまっすぐ、割れたグラスに近づき破片を一欠片つまみ上げる。

 くっと自重気味に笑い、独り言のように話し始めた。


「俺は、この割れたガラスの欠片なんだ」


 光太郎の手からガラスが床に落ちた。


「……俺は、もういらない……ゴミだ」


 床に落ちたガラスの欠片を踏みつぶした。




+++






 フローディアも元は神様などではなく、天使だった。

 

「知ってた? 天使って高慢なんだ」


 神と違い、天使には羽根がある。

 それは何故か?

 神と違い、天使には自我があるからだ。

 自我があると身体が重くて飛べないのである。

 神には自我がないから身体が軽くて天に浮く。

 

 天使は羽根が付いているだけで人間とほぼ変わらない存在なのだ。

 しかし高慢な天使はそれを認めない。


 天使は神に近しいモノだと思い込み、神に近づこうとする。

 

 ……つまり、”自我”を減らしていくのだ。


 まずは一番重い”欲”を。

 次に”衝動”を。

 ”過去”を。

 ”道徳観””良心””理想””倫理観”…………。


 そして、最後に”感情”を捨てた(・・・)


「つまり、自分の身体からいらない部分を切り離し、捨てるんだ」


 そうして自我を失った天使は神となる。


 フローディアもそうして神となった。



 では切り離した自我……部分はどうなるのだろうか?


 天から落とされ、堕天した部分……人間。



「もう、わかるだろ? ……その中の一人が、俺」


 

 神子とは、まさに神の子供とも言える存在かもしれない。

 ……なにしろ元が同じ一つのモノなのだから。


 お互いが求め合うのも、自然なことである。

 元の状態に戻ろうとするのは自然の摂理。

 

 神になったはずのフローディアは感情をなくした瞬間、空っぽになった。

 ただ世界を静観する、本物の神に、フローディアはなったのである。


 


 ある日。




 それは本当に、あり得ないほどの偶然。



 ただ世界を見ていたフローディアの目に、一人の人間が目に留まる。

 後に神子と呼ばれる存在。

 ……自分と同じ魂をもった人間。



 同じ魂をもった、ある意味”運命の人”は同じ時代や世界にはまず現れない。

 均衡を望む世界が同じ人間を何人も受け入れることは決してない。


 なのに、フローディアの目の前に、神子が現れた。


 自我を失ったフローディアにはそれが何か分からなかった。


 ただ、引き寄せられる。


 フローディアは、禁忌を犯した。


 自分が捨てたモノを吸収してしまったのだ。


 しかも、初めに取り戻したのは……”欲”。


 もっと、もっと欲しい。


 フローディアは、”自分”を回収していく。



 まだ足りない。


 まだある。


 どこにあるのだろう?


 


 神子達はフローディアに吸収されていったのだ。


 


 ある者は、親が迎えに来てくれたかのように歓喜し。

 ある者は、これから自身が人間で無くなることに畏怖し。

 ある者は、これも運命かと諦め。

 ある者は、消えて無くなるのは嫌だと憎悪した。


 しかし、惹かれ合う魂は逃げられない。


 

 自我を取り戻していったフローディアはどんどん高慢に、我が侭になっていく。

 しかし、決してやめる事はない。



 なぜなら。




「俺が、最後に捨てられたフローディアの”感情”だから」




 考える事ができなかったのだ。

 自分が何をしているかわからない。

 今のフローディアは、幼児と変わらない。

 自我に芽生え、大人になろうとしているのだ。



「これで、最後にできると思ったんだ」



 フローディアと繋がったことで光太郎は記憶として、事実を思い出した。

 光太郎が感じたのは”憤り”。

 こんなものに、吸収されてたまるかと反撥した。

 しかし、引き寄せられるのも事実。

 そんな身の内で鬩ぎあう感情が傾いたのは、フローディアの力を吸収した瞬間。


「この力を全て吸収すれば、俺が神になれるのではないか? そう思った」


 力を吸収していくうちに、フローディアの過去が覗けるようになり「愛している」と言う免罪符(・・・)を切っ掛けに、相手を吸収できる事がわかった。







「俺が、俺である為に、俺が神になる」








 光太郎は手をかざし、割れたグラス……ゴミ(・・)を燃やした。

 そして美守を振り返る。



「……残りを全て、吸収する」

 


 美守に手をかざす。

 美守は悲しそうに顏を歪めている。



「……駄目だよ、こぉちゃん。こぉちゃんは、自分でいる為にって言ってるけど違うってこと分かってるでしょ……?」

「……そうかもしれないね」

「今だって、もうこぉちゃんじゃなくなりそう。……やめて。フローディアが怯えてる」

「へぇ? 自分の中にいるフローディアの感情がわかるの?」


 美守には手に取るようにわかった。

 消えるのは嫌だと。

 ……フローディアは怯えている。


「美守。それ(・・)渡してくれるかな? 自分だけ消えたくないなんて勝手もいいところだよ。……ゴミみたいに捨てられた俺たちにだって人生があったんだ」


 初めてかもしれない。

 光太郎が、美守の前で怒気を露にすることなど。

 美守は何故か安心して、笑ってしまった。


「……やっぱり駄目。私はこぉちゃんが大切だから。こぉちゃんの為に、フローディアは渡さない」

「……何笑って」


 美守は光太郎に優しい笑みを向けた。


「これは私のわがまま」


 光太郎に、人間でいてほしいから。







 美守は自分の胸をとん、と人差し指でついた。




「フローディアは、私がもらうね」








  

 


 








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