第36話 原初のバグと、限界突破のデッキブラシ
異次元ゲートをくぐり抜けた先。そこは、すべての光と物理法則が反転した、完全なる『混沌の汚泥世界』だった。
上下左右を埋め尽くしているのは、どす黒い紫色の魔導ヘドロと、嗅いだ瞬間に星一つが瞬時に腐食して爆発するほどの、圧倒的な『終末の異臭(呪詛ガス)』。
これまでの百億年間、ありとあらゆる銀河の英雄たちが「悪を滅ぼす」という大義名分のもとにモンスターを派手に爆破し、その後の凄惨な血肉や死骸を放置し続けてきた。その結果、全宇宙の排水口が完全に詰まり、ここに『世界のバグそのもの』として巨大なヘドロの山を形成していたのだ。
そして、その混沌の汚泥の中心。
俺たちの侵入を検知し、数億もの赤黒い瞳を一斉に開いたのは、全長数光年にも及ぶ、全宇宙の汚染そのものが意思を持った神話級最凶の存在ーー宇宙最初のバグロード『カオス・ポルーション(原初汚染)』だった。
『……人間どもよ……。我を……汚し、放置し、手抜きをし続けた……ツケを、今こそ……払うがいい……ッ!!!』
全宇宙の終焉を告げる、次元をも引き裂く咆哮。
と同時に、浴びれば一瞬で銀河一つが消滅するほどの『超越酸の暗黒濁流』が、津波となって俺たちに向かって押し寄せてきた。
国連の最高幹部たちや、ホワイトハウスの大統領、さらには全銀河の宇宙人たちがモニターの前で「終わった、全宇宙がバグで崩壊する!」と絶望し、涙を流して天を仰いだまさにその瞬間。
「ーーいいえ、終わりませんよ。これだけ世界で一番大きなゴミ屋敷、プロの清掃員として、これ以上ない最高のステージです」
俺は一人、絶望の濁流の前に一歩を踏み出し、黄金のモップを天高く掲げた。
地球での大掃除、アメリカでの洗濯、そしてブラックホールのハッキングを経て、俺の固有スキル【特殊清掃】は、ついに宇宙の全システムをも凌駕する『全次元・超越神話スキル』へと、完全なる覚醒(限界突破)を果たしていた。
「全宇宙の負の遺産、成分分析完了。有機怨念、無機次元毒素、百億年分の頑固な油汚れ。……全次元強制再生洗剤、最大臨界配合。出力ーー【無限・神話級】(オメガ・ミキシング)」
ゴオォォォォォォォォォォォォォン!!!
俺の背中の魔導タンクが、宇宙の創生をも遥かに凌駕するほどの、目も眩むような純白の『超越クリーン波動』を大爆発させ、最果ての暗黒空間を真っ白な光で埋め尽くした。
ノズルから解き放たれたのは、もはや泡やミストなどという概念すら超えた、世界の因果律そのものをクリーンに書き換える『神の創世洗浄液』だ。
ドババババババババババババッッッ!!!
激しい爆音とともに放たれた純白のナノ泡の濁流が、世界を滅ぼすはずの超越酸の津波と正面から激突した。
次の瞬間、宇宙の根源神すらも、その星々の目を見開いて驚愕した。
銀河を溶かすはずだった暗黒の濁流が、俺の放った泡に触れた瞬間にジュワジュワジュワ……と小気味いい音を立てて、ただの『森林の香りがする、超クリーンな無害の真水』へと、秒速で書き換えられていったのだ。
『グ、ガ……ッ!? 馬鹿な、我の……百億年分の汚れが、根こそぎ『除菌・洗濯』されていく……っ!?!?』
ボスのカオス・ポルーションが、自身の身体が消滅していく恐怖に数億の目を血走らせて絶叫する。
「よし、仕上げだ。宇宙が誕生して以来、一度も掃除されてこなかったこの汚部屋、プロの意地と最新の清掃技術で、チリ一つない『安全区域』に変えてやるよ!」
俺は黄金に輝くモップの柄を両手で力強く引き絞り、数光年規模の巨体を誇るバグロードに向かって、真っ直ぐに突き出した。
戦闘力ゼロの清掃員が、世界を、そして宇宙の運命をその手に握り、一本のデッキブラシで絶対的な勝利を掴み取る。
全宇宙を巻き込んだ『超・大富豪お掃除無双』のクライマックスが始まる―。
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