第35話 百億年分の汚部屋、宇宙の最果て
超巨大ブラックホール『タイタン・ヴォイド』を巨大な業務用掃除機としてハックし、一瞬にして五千億円の資源へと変えてみせた俺の活躍は、もはや人類の観測の限界すらも超えていた。
太陽系全域の『大掃除』を完璧に完了した我が社ーー『株式会社・入江グローバル環境再生(IGE)』には、今や地球の国連だけでなく、遥か彼方の異星人ギルドからも、連日のように兆円単位の清掃オファーが殺到している。
だが、俺たちの本当の『仕事』は、ここからが本番だった。
「ーー入江社長。太陽系の全環境が完全に再生されたことで、宇宙のシステムから『隠された最奥の座標』が提示されました」
超時空環境再生船『クリーン・エデン号』のブリッジ。
副社長の神城さんが、震える指先でメインモニターを操作した。
画面に映し出されたのは、光すら届かない宇宙の最果てーー時空の歪みの奥底にポッカリと開いた、禍々しい漆黒の異次元ゲートだった。
「この先が、宇宙の根源神との契約書に記されていた最終現場……百億年前に宇宙が誕生して以来、一度も掃除されたことがない『全宇宙の諸悪の根源(原初の汚部屋)』です。これまで宇宙中の生命体が排出し、放置してきたすべての『バグの残骸』が、ここに濃縮されていると……」
神城さんの言葉通り、ゲートの隙間から漏れ出してくるプレッシャーは、これまでのS級ダンジョンやブラックホールとは桁が違っていた。
浴びるだけで、並の精神の持ち主なら脳の細胞が一瞬で消滅するほどの、圧倒的な『原初の怨念』。
後ろに控えるSランク護衛のゴウとリンの二人は、その気配を察知しただけで、全身の防護スーツの上からでもカタカタと歯を鳴らして震えていた。
「おいおいおい……、冗談だろ……。俺のSランク魔導大剣が、ゲートに近づく前から自動的にヒビ割れて砕け散ろうとしてやがるぞ。旦那、この奥は『戦う』なんて概念すら通用しねえ、本物の地獄だ……」
「私の最強の隠密スキルでも、あの闇の中に飛び込んだら、一瞬で存在ごと消し去られて、最初からいなかったことにされる……。入江さん、本当にここに入るの?」
二人の怪物探索者すらも、本能的な死の恐怖の前に立ちすくんでいる。
だが、俺は肩に担いだ神のモップ『神聖迷宮再生の柄』をしっかりと握り直し、不敵に微笑んだ。
「ゴウさん、リンさん。怖がる必要はありませんよ。どれだけ禍々しい名前がついていようが、百億年分溜まっただけの『ただの頑固なゴミ屋敷』です。長年放置されたエアコンの裏側みたいなもんですから、プロの技術できれいに根こそぎ『全自動洗浄』してやりましょう」
俺の言葉に、神城さんが感動したようにその美しい瞳を潤ませ、深く頷いた。
「入江社長、クリーン・エデン号、人類の、そして全宇宙の未来を乗せて、最終現場へ突入します!」
世界最高の清掃員が、百億年分の宇宙の汚れを消し去るための、最後の『神話級お仕事無双』。
その幕が、いま上がろうとしている。
「さあ、次はどんなお掃除になるのかな。」
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