第3話ボスの部屋は最悪のゴミ溜め
ギギギィ……と不気味な音を立てて、地下三階の最奥、ボス部屋の巨大な鉄扉が開いた。
一歩足を踏み入れた瞬間、俺は思わず眉をひそめた。
「おいおい……これは特殊清掃の業界でも『ゴミ屋敷の極み』レベルだぞ」
そこは、先ほどまで元所属ギルド『天穿』の精鋭たちが、この階層のボスである『マッド・コング』と死闘を繰り広げていたステージだ。
しかし、その光景はあまりにも無残だった。
彼らが放ったド派手な火炎魔法のせいで、壁や天井は真っ黒に焦げ付き、有害な煤が煙となって空間に充満している。
さらに、ボスの巨体をハデに斬り刻んだのだろう。四方八方に飛び散った魔獣のドロドロした血液が、焦げた床と混ざり合い、すでにドス黒い凝固物へと変わりつつあった。
放っておけば、数日後には未知の有害細菌が繁殖し、この部屋全体が強力な毒ガス地帯へと変貌するだろう。
「戦闘能力が高いだけの連中ってのは、本当にこれだから困る」
トップギルドの連中は、ボスを討伐してドロップアイテムを回収したら、それでおしまいだ。
後片付けなんて「格下の裏方がやればいい」と本気で思っている。だからこそ、俺のような清掃員を「戦えないゴミ」と見下して追放したわけだが……。
「自分が使った場所を綺麗にして帰る。幼稚園児でもできることができない奴らが、エリート探索者ねぇ」
鼻で笑いながら、俺は背中の高圧洗浄機のノズルをカチリとセットした。
これだけ広範囲の頑固な汚れ、しかも熱で焼き付いた血液と煤の複合汚れとなれば、普通の清掃業者なら特殊な重機を持ち込んで三日はかかる大仕事だ。
だが、俺にはこの【特殊清掃】スキルがある。
「焦げ付きと血液の同時分解だな。……配合開始」
脳内で命令を下すと、背中のタンクが淡く発光する。
今回は、焦げを浮かす強力なアルカリ成分に、血液のタンパク質を秒速で分解する酵素を高濃度で配合した、俺特製の『迷宮専用爆速マルチ洗剤』だ。
シューーーーーーーッ!!
ノズルから噴射された純白の泡が、焦げ付いた壁や床を包み込んでいく。
泡が触れた瞬間、パチパチと炭発泡の音が響き、岩肌にガチガチに張り付いていた黒い煤と血の塊が、見る見るうちにドロドロとした液体へと融解していった。
「よし、浮いたな。一気にいくぞ」
俺はデッキブラシを構え、地面を力強く踏みしめた。
ここからが、プロの腕の見せ所だ。
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