第27話地球最悪のゴミ屋敷、異界の核心
東京大迷宮の特級異界ゲート。その裂け目をくぐり抜けた瞬間、俺たちが目にしたのは、人類の歴史上、いかなる探索者も到達したことのない驚天動地の空間だった。
そこは、上下左右の概念が消失した、無限に広がる『奈落の空洞』だった。
だが、その空間を埋め尽くしていたのは、星々ではなく、天文学的な量の『黒い汚泥』。
そして『紫色の呪詛煙』。
地球上の何万というダンジョンで、人類が十年間放置し続けてきた魔獣の死骸、飛び散った怨念、化学物質の燃え残りーーそのすべてがチューブのような魔力の奔流でこの場所に集まり、まるで巨大な心臓のようにドクドクと不気味に脈動していた。
「……これが、地球中のダンジョンの汚れが溜まる『世界の排水溝』ってわけか」
俺が静かに呟くと、横に並ぶ神城さんが、かつてないほどの恐怖に身体を震わせながら、魔法の杖を強く握りしめた。
「凄まじい濃度です……。入江様、ここに溜まった汚染エネルギーの総量は、地球を数十回は丸ごと溶かして消滅させられる規模です。世界中の観測衛星が、今この空間のデータを捉えてパニックに陥っています……!」
後ろに控えるSランク護衛のゴウとリンも、顔面を蒼白にしていた。彼らの持つ世界最高峰の武器が、あまりの呪いの濃度の前に、キィィィン……と悲鳴を上げてジワジワと自動的に耐久値を削られている。
「おいおい、冗談だろ……。ここに一歩入っただけで、俺の魔導大剣の表面がサビ始めてやがるぞ。戦闘を開始する前に、存在ごと消されちまう!」
「リン、ゴウ、下がりなさい! 私の全魔力を注いだ三重の神聖結界で、まずは入江様をお守りするわ!」
神城さんが必死の形相で呪文を唱えようとした、その時だった。
空間の中央に集まった十万人分のゴミの山ーーそのドロドロとした黒い汚泥が、一つの意志を持ったかのように歪に膨れ上がり、数千の頭を持つ巨大な異形の蛇の姿へと変異した。
これこそが、全地球の汚染そのものが具現化した、世界最後のバグロード。
ーー神話級最凶災厄『ワールド・ポルーション(世界汚染)』だ。
『オレタチヲ……汚シタ……人間どもへ……死ヲ……ッ!!!』
数千の顎が一斉に咆哮を上げる。と同時に、浴びれば一瞬で細胞レベルから腐り落ちる『終末の酸性雨』が、空間全体を埋め尽くすように、全方位から激しい勢いで俺たちに向かって降り注いできた。
「ダメだ、防ぎきれない……っ! 世界が、終わる……!」
ブラッドをはじめとする、モニター越しに見守っていた世界中の国家首脳たちが、絶望のあまり頭を抱えて悲鳴を上げた、まさにその瞬間。
「ーーいいえ、終わりませんよ。これだけの大規模な現場、プロの清掃員として、腕が鳴るってもんです」
俺は一歩前へ出ると、黄金の光を放つモップ『神聖迷宮再生の柄』を静かに天へと掲げた。
「掃除の時間だ。」
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