第24話世界最凶のボス、丸ごと洗濯される
骨まで溶かす猛毒の化学汚泥が、眼前にまで迫る。
ホワイトハウスの大統領や、ペンタゴンの将軍たちがモニターの前で
「終わった、あの日本の少年は生きて帰れない!」
と絶望し、頭を抱えたまさにその瞬間。
俺は手元の『神聖迷宮再生の柄』のダイヤルを、最強の『深層高圧洗浄モード』へとカチリと合わせた。
「石油系重油汚れ、および魔導強酸の同時中和。……ウルトラナノ界面活性剤、最大放射」
ゴオォォォン!!!
俺の背中の魔導タンクが、まばゆい超新星爆発のような白銀の光を放ち、最深部の巨大な空間を真っ白に染め上げた。
ノズルから解き放たれたのは、ただの水鉄砲ではない。あらゆる分子の結合を強制的に解除し、汚れそのものを無害な真水と石鹸泡へと分解する、俺のスキルが到達した『究極の洗浄魔術』だ。
ドババババババババババババッッッ!!!
激しい爆音とともに放たれた純白のナノ泡の濁流が、押し寄せる猛毒汚泥の津波と正面から激突した。
次の瞬間、大統領たちが戦慄した。
触れるものすべてを溶かしていた深緑色の汚泥が、泡に触れた瞬間にジュワァァァ……と軽快な音を立てて、ただの『ピカピカに泡立つ、シトラスの香りの洗濯用洗剤』へと、秒速で書き換えられていったのだ。
『グ、ガ……ッ!? オ、オオオオオオッッ!?!?』
これには、ボスのデス・ケミカル自身が最も驚愕していた。
己の身体そのものである「猛毒の化学物質」が、なぜか得体の知れない心地いい泡によって、根底から分解され、ただのクリーンな液体へと変えられていくのだ。
「よし、仕上げだ。お前のその体、ドロドロでベタベタしてて、見ているだけで暑苦しいんだよ。プロの技術で、根こそぎ『丸洗い』してやるよ」
俺は黄金に輝くモップの柄を両手で引き絞り、巨大な魔獣の本体に向かって、真っ直ぐに突き出した。
ザーーッ!!
【スキル発動:神話級環境絶対再生】
ピカァァァァァァァァァァッッッ!!!
デッキブラシの毛先から、格納庫全体を完全に真っ白な光で埋め尽くすほどの、圧倒的な黄金のクリーン波動が炸裂した。
その光の波は、デス・ケミカルの巨体を正面から丸ごと飲み込み、その不衛生な肉体を構成する有害物質を、一分子の残さず綺麗サッパリと洗い流していく。
『ア、ガ……キレイ……サッパリ、消え……ッ!?』
すべての油汚れと酸が完全に洗浄され、純度100%のクリーンなエネルギーへと精製された瞬間ーー。
パリン、と美しい鈴の音が神殿に響き渡った。
世界を滅ぼしかねないと恐れられたSS級のボスは、戦闘すら行われないまま、ただの「完璧なお掃除」によって、その存在ごと綺麗に消滅してしまったのだ。
巨体が光の粒子となって消え去った後には、見たこともない巨大な、アメリカ国旗のような星の輝きを放つ虹色の結晶がゴロゴロと床に転がった。
『ピコーン! ピコーン! ピコーン!』
【SS級ダンジョン『ペンタゴン・ゲート』の完全環境再生を達成しました】
【世界初:SS級の災厄を『完全除菌・洗濯』により消去しました】
...
【清掃報酬:星条の神魔石(神話級レア・換金価値:30億円)を入手しました】
【環境の劇的改善により、米国最高遺物『リバティ・オーブ』が出現します】
静まり返る最深部。
新築の最先端研究所よりもピカピカになり、爽やかなレモンの香りが漂う空間で、ブラッドをはじめとするアメリカの探索者たちは、完全に魂が抜けた顔で床に四つん這いになっていた。
そしてモニターの向こう側ーーホワイトハウスの大統領執務室では、大統領をはじめとする重鎮たちが、スタンディングオベーションをしながら、驚愕と感動のあまり涙を流して拍手を送っていた。
「戦わずに……SS級の災厄が、洗濯されて消えた……」
ブラッドがうわごとのように床を叩く。
俺がデッキブラシをスマートに担ぎ直すと、神城さんが誇らしげに俺の隣へ歩み寄ってきた。
一現場で百億円の報酬をかっさらい、アメリカ大統領すらもファンにしてしまった、戦闘力ゼロの清掃員。
俺の持つ【特殊清掃】スキルは、もはや一つの国家の枠を超え、全地球の環境を救う絶対的な『神の御業』として、その名を世界に刻みつけるのだった。
読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!




