第21話ペンタゴンの傲慢なエリートたち
専用プライベートジェットで大西洋を渡り、俺はアメリカの首都・ワシントンD.C.にある国防総省『ペンタゴン』の最地下へと降り立っていた。
周囲を国家最高機密の防壁に囲まれたその最深部に、世界で最も危険とされるSS級ダンジョン『ペンタゴン・ゲート』の入り口がある。
「ーーハッ、おいおい。日本政府がわざわざ送り込んできた『救世主』ってのは、こんな細腕のガキなのか?」
ゲートの前で待っていた俺たちを、品性のない笑い声が出迎えた。
声の主は、アメリカの国家公認トップギルド『自由の盾』のリーダー、ブラッドだ。筋肉の塊のような大男で、全身に最高級の魔導アーマーを纏っている。彼の後ろには、同じく高慢な笑みを浮かべたアメリカの精鋭探索者たちが十数人も控えていた。
「ブラッド、口を慎みなさい。入江様は我がギルド『創世』が自信を持って推薦する、世界唯一の環境再生スペシャリストよ」
隣に立つ神城さんが、真紅の瞳に氷のような冷徹さを宿して言い返す。だが、ブラッドはフンと鼻で笑い、俺の肩に担がれた一本のデッキブラシーー『神聖迷宮再生の柄』を指差した。
「スペシャリストだか何だか知らねえが、こいつのステータスを見たか? 戦闘力が完全なる『ゼロ』だぞ! 攻撃魔法も使えなきゃ、剣の一振りもできねえ底辺の裏方だ。そんなモップ持ちのガキに、一現場で百億円だと? アメリカの国家予算を舐めるなよ」
「そうだぜ。SS級ダンジョンの『ペンタゴン・ゲート』は、凶悪な魔獣『デス・ケミカル』が撒き散らした超高濃度の軍事用毒ガスと酸で満ちている。俺たち最高峰の防具を身につけたSランクパーティでさえ、数分と立ち入れない死の空間だ。戦闘力ゼロの民間人が入った瞬間、防護服ごと溶けてドロドロの肉塊になるのがオチだろ」
後ろの魔導士の男も、俺を完全に「ただのホウキ持ち」と見下して嘲笑っている。
天穿のクレイもそうだったが、戦闘力しか脳のない筋肉ダルマどもは、世界中どこへ行っても同じような勘違いをするらしい。彼らは、ダンジョンの環境汚染がどれほど迷宮そのものをバグらせ、暴走へと導くかという本質を、一ミリも理解していないのだ。
「ブラッドさん、でしたっけ。あなたが俺を信じるかどうかはどうでもいいです」
俺は一歩前へ出ると、愛用の魔導高圧洗浄機のノズルをカチリとセットした。
「ただ、これだけは言っておきます。あなた方がモンスターを派手に爆破して、その後の死骸や化学物質を『汚いから』と放置し続けたせいが、この有様(・ ・ ・)ですよ。自分のケツも拭けないエリートなら、せめてプロの仕事の邪魔だけはしないでください」
「……あァ? 何だと、このガキが……っ!」
ブラッドが怒りで顔を真っ赤にし、腰の巨剣に手をかけた。その瞬間、俺の護衛であるゴウとリンが、一瞬でブラッドの死角へと回り込み、それぞれの武器の柄に手をかける。
「おいおい、アメリカの英雄さんよ。うちの旦那に指一本でも触れてみろ、ここでその首を消し飛ばしてやるぜ?」
「戦闘力ゼロの入江さんに、戦闘しか取り柄のないあなたたちが勝てると思わないことね」
ゴウの地を這うような重低音と、リンの冷徹な殺気に、ブラッドたちが思わず一歩後退する。
「チッ……いいだろう。そこまで大口を叩くなら、その『掃除』とやらを見せてもらおうじゃねえか。ゲートを開けろ! 泣き面を拝んでやる!」
ブラッドの合図とともに、鋼鉄の隔離壁がゆっくりと上昇を始めた。
次の瞬間、壁の向こうから、この世のものとは思えないほどの禍々しい『深緑色の猛毒霧』が、凄まじい圧力とともに噴き出してきた。
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